雲一つない快晴、滑走路には華族と、成り上がりの金持ちのプロペラ機が並んでいる。
「マユさん、自分たちは外食に行くけど、一緒に行く?」
作業着を着た若い男性達がマユを食事に誘う。
「ありがとうございます。でも、父がお弁当を持たせてくれたので、またの機会に」
彼女は誘いを断り、担当する飛行機の外装に優しく触れた。翡翠色の飛行機は珍しく、東洋のメーカーはどこも作ってない為、カスタムしたか、輸入物なのだろう。
(翡翠色の飛行機って珍しいから、休憩している最中に誰かに取られたくないし……)
マユはそう思っている事を、男性陣は知らない。
「じゃあ、また誘うね」
そう言い、男性達はその場を後にする。
「可愛いなぁ。黒くて艶々の髪も綺麗で良い」
「やっぱ、可愛いよな……デートとか誘っちゃおうかな……」
マユには聞こえていないが、男性達がこんな会話をしていた。その中の一人がこう言う。
「やめとけ、あの子は父親と弟が軍人だし、華族と親しい。出世組の将校と結婚するか、華族の妾になるだろうから」
「先輩、何でそんなに調べてるの?気持ち悪い……」
「ほっとけ!」
そう言い、先輩と呼ばれた男性が後輩達に言い放った。
一方でマユは作業場の中で、担当するプロペラ機のエンジンルームを開ける。
(エンジンは、大丈夫そうだな……)
へこんでいる部分が無いか、傷は無いか、マユは翡翠色の外装を隅々まで確認していく。
(ぶつけたという話だったけど……ここかな?)
ぶつけてしまったという話で運び込まれたそのプロペラ機は、運転席の扉に十センチほどの浅い傷があるだけだった。
(このくらいで持ってくるのなら、運転手をつけろよ。後、ぶつけるな)
持ち主の成金に対して、そう思いながら、研磨機を抱え、電源を入れる。
塗装と傷を少し削り、目立たないように慣らすと、メタリックな銀色が露出する。
(よし、良い感じだ……)
研磨機の電源を切り、装置をその場に置く。
嬉しそうに鼻歌を口ずさみ、塗料が入っている棚から、何色かそれを取り出す。
プロペラ機と同じ素材の金属板にハケで色を乗せ、混ぜると同じような色に変わる。
それを金属が露出した部分にうまく塗り、電動エアダスターで乾かす。
(完璧だ……)
とても良い出来だと、マユは自画自賛する。
(あとは、燃料補給して、滑走路に出して、社長から最終確認してもらわないと)
この飛行機の修理場がある会社は、社長(元空軍のエンジニア)が退職金をもとに立ち上げており、修理後に彼の厳しいチェックが入る。
(職人気質で、細かい人なんだよな……)
だが、マユは嫌いではなく、彼女が気付かなかった場所を見つけてくれたり、普通なら女性なだけで面接を断るような時代だが、採用までしてくれた。
「マユさん」
そう思っていた時、丁度よく、社長が作業場にやってきた。
社長は実に小柄で、マユのほうが背は高い。いつもの作業着ではなく、質のいいスーツを着ている事から、これから取引先と商談なのだろうと予測できる。
「あっ、社長。今、最終チェックをお願いしようと思っていたんです」
給油した後ですがねとマユは、彼に明るくそう言う。
「あの子、君の婚約者来たよ」
老人の彼は、面倒そうな顔でそう言った。
「えっ?何故?」
「いや私も知らないよ。今日はもう帰ってもいいから、彼の所に行きなよ。華族は怒らせたくない。面倒くさいから……」
社長は困惑した顔をしているが、どこか苛立っている。
マユが何かをしたというよりも、華族の人間が急にやってきた事で、予定が狂ったのだろう。
「えっ?でも……片付けとか……」
研磨機も、塗料も、エアダスターも出しっぱなしで、床に散らかっている。
「いいから行ってこい!片付けは私がするから!」
そう言うマユに社長はきつい事を言い、怒鳴り声をあげる。
「はい!行ってまいります!」
彼の気迫に驚き、そう返事をし、急ぎ足でその場を後にするのだった。
マユは更衣室で着替えを済ませ、外に出る。古着屋で買った襟なしシャツに、タイトスカート、それとは合わない下駄を履いており、下駄の音がカランコロンとその場に響いた。
少し歩き、入り口前の庭に出ると、そこには赤紫色のツツジの花の前に立つ男性の後ろ姿がある。彼は、身長こそ高いが、体は弱いようで顔色はいつも青白い。
鳶のような茶色の瞳、髪に、深緑の着物が映える。
「――悟(さとる)さん」
彼はマユに気が付いておらず、何かに話しかけていた。
「うん、そうだよ。今からマユさんをお茶に誘うんだ」
悟のほうをよく見ると、彼の手のひらの上で人型の小さな紙が宙を舞っている。
それは式神の一種で、彼は自身の霊力で呼び、それと話をしているようだ。
(見事な術だなぁ……)
マユは霊力をほとんど持たない家系の為、その様子はとても新鮮で、彼のその術はとても素晴らしく見えた。
「悟さん」
彼の背中を軽く押し、悟はやっとマユに気が付いた。
彼は『日猿木 悟(ひさるき さとる)』という名で、マユとは違い、華族の生まれである。
出会いは空軍に勤めている彼の兄が、この会社の滑走路を無断で使用した。
それで、お詫びの挨拶にやってきたのが悟だ。
それまでマユは華族に良い印象を抱いていなかったが、丁寧で繊細な振る舞いの彼に惹かれていった。彼のほうも、同じ。今まで令嬢や華族の女性としか、接した事しか無かった悟からすれば、活発で自立していたマユは輝いて見えたらしい。
「あっ、ごめんね。急に呼び出して……」
悟はマユにそう言い、式神にふっと息を吹きかけた。
その瞬間、それはただの紙人形に戻り、彼の手のひらに力なく乗り、動かなくなる。
「今日、この近くの病院に行ってきたんだけど。マユさんの勤め先の近くだなと思ったら、急に会いたくなってしまって――」
彼は照れながらそう言い、その紙人形を着物の帯の内側にしまう。
(本当に純粋なんだなぁ……)
実に子供のような話し方、言い訳である。
254年 皐月。庭のツツジの花が、堂々と咲いていた。
マユ達は市電で叶虎の中央区に移動し、出来たばかりの百貨店に辿り着く。
「父親がもうすぐ誕生日なんだ」
マユの家族は、あまり記念日には興味がなく、特に祝わない。
(父が陸軍勤めで、家を基本、留守にしているという事が大きな理由だろうけど……)
「プレゼントの用意をするなんて、悟さんは優しいね」
マユはそう言い、悟に歩幅を合わせる。百貨店の中を歩く度、カラコロと下駄が鳴り響く。
ただ、その下駄の音が少し響きすぎているようで、近くを通った客達がマユのほうをチラチラ見るのだった。
(よく考えたら、百貨店に来ている人、皆お洒落な気がする……)
マユの格好は、みすぼらしい訳ではないが、浮いている気がする。
「ふふ、下駄の音だね。マユさん、よかったらだけど。靴、買ってあげようか?」
百貨店の婦人コーナーの前で、悟はそうマユに言ってきた。
「いや、いいよ。なんか勿体なくて一度も履けなさそうだし……」
この時代、西洋からの輸入に頼っている為、靴や洋傘も高価である。
マユは思い出す、彼はお金持ちだという事を。マユ達、庶民が簡単に購入できないようなものをポンと、買うことができる人間だという事を。
(駄目だよ。恋人に物をたかったら……)
マユは自分に言い聞かせているが、彼は全く気にしていないようで、言う。
「じゃあ、服は?」
「いや、大丈夫。この間、新調したばかりだし……」
「遠慮しなくていいのに」
洋服も高級品である為、彼の案を断る。
やっとミシンが一般用に販売され、シャツやスカートが普及し始めたというところであるが、ミシンがそもそも高級品。料金設定が高額でないと、商売として成り立たない。
その為、商店街で買おうが、百貨店で買おうが値段はそこまで変わらない。
(女学校時代、裁縫をもっと勉強しておけば……)
裁縫ができれば、古着屋で買わなくてもいいのだが、使い捨ての物の為に、苦手な裁縫をするのは時間の無駄な気がする。
悟が贈り物を勝手に決め、購入する前に、マユは紳士服売り場に彼を移動させる。
悟はステッキや洋傘を吟味していた時、マユはハンカチコーナーにふらりと寄った。
(自分も父や弟に何か送ったほうがいいのだろうか……)
そう思い眺めていると、中年の女性店員が声をかけてくる。
「お客様、何か贈り物をお探しですか?」
マユが彼女を見ると、白い顔に明るいチークの厚化粧、ふっくらした体格だが、落ち着いた着物で体型を目立たないようにしていた。
「えっ――まぁ……父と弟に……」
そうマユが答えると、その店員の表情がとても明るくなる。
「じゃあ、こちらの商品はいかがですか?」
それはショーケースに入ったハンカチーフで、青白く輝いて見えた。
(なんか、光っているな……)
まるで月光のような印象を受け、とても綺麗であるが、少し恐ろしいような気もする。
「これはシルク素材で触り心地もよく、霊力が込められているのですよ。出世祝いにとても喜ばれるんです。何せ、職人が月の綺麗な夜に、蚕に餌をやり――」
店員の言っている事は、何となくだが分かる。この東洋の国は霊力社会だ。
霊力が高ければ、その分、聖獣から優遇される為、家の跡取りも、本家や分家、生まれた順番は関係なく、決まるという話だ。それは企業も同じで、学歴や生まれよりも、霊力の強いものが優遇される。霊力がないもの、弱いものは、大学を出ても、就職できないらしい。
軍や特高警察は、お付きの聖獣がいる為、霊力は関係なく採用しているらしいが。
「――という訳で、月の綺麗な時に仕立てたハンカチーフなのですわ。ここだけの話、闇市で偽物が出回っているくらい人気ですのよ。これは勿論、本物ですけどね」
良いものだと説明され、良いものだというのは分かったが、購買意欲がどうも沸かない。
マユが少し悩んでいると、悟が少し離れた場所から名前を呼んでくる。
「マユさん、今選んでいるから、こっち来てよ」
「あっ、うん。すみません、また今度――」
マユは悟の所に、下駄の音を立てながら、歩き出した。
「マユさん、驚いちゃったよ。長い間、捕まっているんだもの」
「すみません……」
悟の方に辿り着くと、彼は老年の男性店員に、ステッキを箱から出して貰っているところだった。
「基本杖は樫で作られているから、この杖の素材、銀杏は珍しいですよ。銀杏は燃えにくいので、商売とかされている方には人気で。ほら会社、家が火の車になりにくいとか――」
「へぇ――」
悟は老年店員の話は一切聞いておらず、ただ気に入ったステッキの形や傷が無いかを気にしている。
「職人が一つずつ作っているので、見た目も少し違いますが、他のもお出ししますか?」
「いえ、これで大丈夫です。気に入ったので」
彼はそう言い、そのステッキを購入した。
その値段、桁が想定していたよりも多く、マユは目を回す。
「どうしたの?気分悪い?」
「いや、別に……少し驚いちゃっただけ……」
贈り物の包装をしてもらった後、そのような会話をしながら百貨店内の純喫茶に入る。
「いらっしゃいませ。どうぞ、奥の席にお座りください」
女給に案内されるままテーブル席に着き、大きなメニュー表を二人で眺めていた。
「ねぇ、このプリンアラモードって何だろうね」
「想像できないね。この前、飲んだクリームソーダはハイカラだったけれど、それ以上の衝撃がありそう――」
アラモードとは『現代的』や『流行り物』という意味だ。プリン自体、西洋から数年前にやってきた菓子だというのに、それに何か別の物が加わっているのだろうか。
(味は逆にしょっぱいとか?それとも大きいのか?)
マユはそう考えながら、悟に言う。
「悟さん、これ。一つだけ注文して、二人で分け合わない?」
マユ的には軽い気持ちで言ったつもりだったのだが、華族のお坊ちゃまには、刺激が強かったようで、顔が真っ赤になった。
「マユさん、はしたないですよ。まだ、結婚もしていないのに、そんな事――」
彼は照れているが、満更ではない様子で、生娘のように両手で頬を抑えた。
「メニュー表をこうテーブルに立ててさ。隠したら誰も何も言わないよ?」
「もう、マユさんったら、今回だけだよ」
マユがそう言うと彼は真っ赤な顔で、女給を呼び、注文をする。二人分のホットコーヒーと、プリンアラモード。余計にアイスクリームを一つ注文したのは彼の照れ隠しなのだろう。
(あー、幸せだなぁ……)
素敵な婚約者がいて、自分はその彼に大事にされていると、マユはしみじみと、そう思う。
「あっ、ちょっと頼まれごと思い出しちゃった」
彼はそう言い、足早に純喫茶を出るが、タイミングよく数人の男性がお会計をし始め、悟と同様、店を出た。男性達は皆、洋装で、高価そうなスーツに帽子にステッキを持っている。
(あの人達、常連なのかな?前回もいた気がする……)
マユは悟と百貨店に来た際はいつもこの純喫茶で、お茶をしたり、軽食を摂るのだが、先程の男性グループとよく遭遇するような気がしていた。
そんなことをマユが考えていると、女給が注文したものを彼女のテーブルに運んでくる。
「お待たせ致しました」
テーブルに乗せられたものは、物凄く現代的で、流行り物と言われるのも納得だ。
実家の来客用の灰皿を思い出すくらい立派な、切子ガラスは、マユの顔ぐらい大きい。
高級百貨店の純喫茶らしく、皿の上の大きめのプリンは、ホイップクリームに、サクランボ、ブドウ、オレンジで化粧している。
(プリンだというのに、自分よりも身分が高い気がする……)
マユがその姿に惚れ惚れしていると、悟が戻ってきた。
「おまたせ。あっ、凄くアラモード」
そう言い、彼は向かい側の椅子に座り、マユに微笑みかける。
「マユさん、もしよければなんだけど」
悟はそう言い、マユに小さな包みを渡してきた。
「えっ?私に?嬉しいな、開けていい?」
マユはそう悟に言い、包みを丁寧に開ける。
そこには先程の『月が綺麗な――』ハンカチがあった。
「あ、ありがとう……使わせてもらうね」
先程の女店員の声と話し方が、脳内で再生される。
マユは耳の中の彼女の話を聞いていると、悟はメニュー表をテーブルに立てた。
「マユさん」
周囲に自分たちを隠すとマユの頬に手を添え、静かに接吻をする。
驚きか、興奮か、マユの視界が歪み、クラクラとした眩暈がし、まるで水の中に潜ったような心地よさを感じる。胎児の時の記憶はないが、母のお腹にいた時はこんな感じではないかとそう思った。彼から貰ったハンカチが青白く光り輝いている。
それは月光のように怪しく、神秘的で、とても妖艶に。
*
254年 水無月 雨天。
木造の陸軍基地の床は湿度で軋み、雨漏れする箇所の下には金属製のバケツを置いている。
「佐倉先輩、書類いっぱいですね」
「そうだねー」
陸軍、勇五郎の部下佐倉少尉が大量の書類が入っている段ボールを同僚『宮司』と運ぶ。
宮司は実家が神社で、霊力が籠った艶のある髪を伸ばし、女のように編み、簪で束ねている。
彼曰く、何かあった際、術を使う為に伸ばしているという。
「先輩、足冷たくないですか?」
「うん、冷たい。雨漏りのバケツを蹴っちゃったからね……」
佐倉はトホホと言いたげな、残念そうな顔をしていると、勇五郎が私物化している応接室の前にたどり着く。
「今、海軍の偉い人が来ているから、引き締めてね。まぁ、宮司の性格なら、特に言われないと思うけど」
そう宮司に言った佐倉は、扉をノックする。
「はーい、どうぞ」
返事は勇五郎ではなく、佐倉が話していた客のようで、酒と煙草で焼けた声だった。
「橋本大佐、海馬少将。頼まれていたものお持ちしました」
佐倉が扉を開けると、現在休憩中なのか、海軍の制服を着た中年男性が高そうなウイスキーを瓶のまま飲んでいた。
左腕のワッペンは、角の生えた馬。軍服の袖章から、高い地位だと分かる。
「お久しぶりです。休憩中だったんですね」
佐倉は、段ボールを広いテーブルに置く。彼は『海馬 浩三(かいば こうぞう)』海軍の少将で、片手にウイスキーの瓶、もう片方に葉巻という欲張りスタイルを貫いている。
「休憩中じゃないけど、飲んでた。君達も飲む?グラスが無いから、回し飲みだけどー」
そう言い、彼はウイスキーの瓶に口をつけた。
「宮司――」
佐倉は宮司に小声で話しかける。
「絡まれる前に逃げるよ」
「えっ、はい――」
佐倉は勤務中なのでと、角が立たないように断り、宮司を連れてその場を後にした。
「今の若い子って、なんで堅物ばかりなんだ?つまらない」
「まあまあ。真面目なのは良い事なのでは?」
勇五郎はそう言い、茶器の準備をしている。
「ふーん。そういえば、勇五郎君って嫁さんに先立たれてから、結構経ったよねぇ?良い人とかいないの?」
そう言い、来客用のソファーに踏ん反り、葉巻を吸う。
「自分はそうですねぇ。子供達が恋人みたいなものなので」
そう勇五郎が言い、話をはぐらかそうとするのだが、彼はまだ話を続ける。
「いやぁ恋した方がいいよ!すっごく良いよ!」
「いやぁ、自分は――」
勇五郎は少し困ったような顔をしているが、彼はそんな事お構いなしだ。
「子供が生まれたら、男は皆、子煩悩になると思わないでほしいところだ。自分は父親としてではなくて、男のまま死にたいというか。そもそも、うちは嫁との子供が年子で四人いるけど、父親らしい事しなくても、ちゃんと育っているし」
それは嫁がしっかり子育てしているからではないかと思ったが、勇五郎は言わずにいる。
「というのも最近、妾の子が女の子を産んだんだけど、可愛いよ。やっぱり、恋愛っていうのはいい。文通したり、一緒に読書したり、寝室で愛を育むのも勿論」
おそらく彼は、自分の恋愛事情を武勇伝のように語りたいのだろう。
(悪い人ではないんだけど、自慢話がなぁ……)
勇五郎はそう思いながら、沸いたお湯を茶葉が入ったティーポッドに注ぐ。
「キヌちゃんって言うんだけど、遊郭の引っ込み禿していてさ。気に入ったから、花魁と同じ身請け金を渡して、貰ってきた」
彼は華族出身で、祖父は政治家、父や兄は会社を経営しており、成功している。かなりの女好きで、見た目に気を使っているようで、勇五郎と同い年であるが、高い霊力を生かし、若々しい姿を保っている。赤茶色の髪というのも、やんちゃな男子という印象を与えた。
(幼い子供と話しているようだな……)
勇五郎は適当に返事をしながら、お茶を淹れる。
「――で、うちのキヌちゃんがね。あっ、俺ってば、つい。仕事サボってばっかじゃ帰れないじゃないか、ははは。実はこの後、キヌちゃんとデート」
何故、海軍、しかも偉い立場の彼がいるのか。その理由は、今回の作戦は西洋竜との闘いになるのだが、西洋、東洋の間にある竜の神域と呼ばれている山脈で決戦すれば、近くにある都市に被害が出る。
ということで、海軍が操縦する艦載機で飛行機を飛ばして、援軍する事になった。
「新聞広告に出したんだっけ?それにしては、集まったなぁ」
勇五郎の部下の佐倉が持ってきた履歴書の束を見て、彼はそう呟く。
「そうですねー。いやぁ、補助金を出すと言っても、集まらないと思っていたので意外でした」
勇五郎もソファーに腰を掛け、その書類に目を通す。履歴書を見てみると、補助金目当てのホームレスや遊女だと思っていたが、そうではなく、西洋と取引していた商人の娘や、西洋人との混血児で、同じくらいの娘がいる勇五郎は胸を痛める。それは浩三も同じだったようで、悲壮感のある顔をした。まぁ、彼の場合は、キヌという名の妾を思い出しての反応なのだが。
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