第三章『召喚と掃除の憂鬱』②

『すみません、これは自分の手違いです』

「いいんです。アーノルドさん、私も悪いので……」

 生徒指導室で、アーノルドと反省会をした。

 生徒会室は二年生のクラスの隣、一番奥にあり、私は初めて入った。

 本棚には、カウンセリングや心理学の本が、ずらりと並んでいるのも特徴だろう。

 後、日当たりが悪く、じめっとしているのも特徴だろう。

 すると、誰かが入ってくる音がして、空気を読んだアーノルドが引っ込んだ。

『じゃあ、ポアリさん。後で』

「じゃあ、後で――」

 軽い挨拶をしたすぐに、誰かの急ぎ足が教室に響く。

「ポアリちゃん!」

 その方向を見ると、おそらく走ってきたのだろう、息を切らしたロベルトがいた。

「なんか、人間を召喚したんだって!?」

「そうだけれど」

 ロベルトは自分の事を抱きしめながら、頭を撫でてくる。

「よしよし。全く、人間を召喚したくらいで、先生も騒ぎ過ぎなんだよ」

 彼はそう言い、向かい側の席に腰をかけた。

「そういえば、ロベルトの使い魔ってどんなの?」

「自分は小型のドラゴンだったなぁ。最初は手のひらサイズだったんだけど、今は抱きかかえるサイズまでに成長したんだ」

 しばらく経った時、別の誰かが入ってくる。それはレインとは違う女性で、眼鏡をかけた自分の母親くらいの年齢の女性だった。

「はじめまして」

「はじめ、まして……」

 自分も彼女と挨拶をする。

「じゃあ、君も入ってくれるかな?」

 彼女が振り返ると、そこには大河の姿があった。

 彼女はこの学園の理事長らしく、自分の向かいに座ったロベルトを自分の隣に移動させ、そこに大河を座らせる。

 そして、その隣に彼女が座る。

「いやぁ、驚いちゃったねぇ。いきなりね、男の子が召喚されたらさ」

 そして理事長は、私は幼馴染なので知っているが、大河のプロフィールを話し、状況を説明する。

「昔は、結構別の世界から、別の人間がやってくるという事がよくあったそうだよ」

 隣の大河の表情は暗く、重い、しかも顔色が悪く、自分が会っていた頃より、少々痩せているように見えた。

「後、君の体が特殊だった故に、呪文がうまくいかなかったのかもしれないね。あれ、男の子用の魔法で、女の子だと召喚魔法の方法が異なるから」

 自分はアーノルドの遠隔操作だから、関係ないが、それを本当にしていたら、どうなったのだろうか。

(爆発で済むだろうか……)

 そう思っていると、彼女は言う。

「で、彼の寝床なんだけれど――」

 彼女の話によると、使い魔は使い魔の寝床というか、飼育小屋があるそうで、そこに彼を入れるか、自分の部屋で面倒を見るかという話らしい。

「飼育小屋は飼育委員がちゃんと面倒を見るし、栄養管理もしているけど」

「ひゃっ――」

 それを聞いた大河は、軽い悲鳴を上げる。

(そんな事したら、飼育委員に虐められちゃうよ……)

 大河は優しいし、可愛いし、凄く良い子だから、ストレスの捌け口にされてしまう気がしてならない。

(でも、自分の部屋には……)

 ロベルトの方を見ると、彼は暗殺者を思わせるようなそんな瞳で大河を見ている。

 大河はその威圧に耐え切れなかったのか、視線を床に向けている。

(大河君、床には何もないよ……不自然だよ……)

 そして、理事長が自分が驚くような話をする。

「それでさ、寮の部屋は空いてないんだけれど、物置に使っている屋根裏部屋があって、そこにポアリちゃんとその使い魔扱いの大河君が移ってくれれば丸く収まるのかなって」

「えっ?」

 ロベルトは、驚きの声を出す。

「理事長、コイツ――いや、その子をそこに入れればいいんじゃないですか?」

「流石に生徒じゃない子に部屋貸せないよ。国の法律的に……」

 理事長的にはこの二択しか選択肢は無いらしい。

(という事は大河君とルームシェアという事なのか……)

 ずっと一緒に暮らすのか、狭い部屋に二人で。

 自分の妄想が広がる。

「ポアリちゃん、まだ起きていたの?」

 暗い部屋の中、小さな照明が点いている事に気がつき、ベッドから起き上がる彼に私が言う。

「大河君、ごめんね。明日テストだから勉強しなきゃいけなくて……」

「勉強なんていいよ。一緒に寝よう」

 すると、彼は後ろから自分を抱きしめ、こう言った。

 月九ドラマ、顔負けのこんなロマンスが起こるかもしれない。

「えっ?でも――」

 だが、同居人ロベルトは、諦めきれず抵抗している。

「君も一人用の部屋に、二人とかきついでしょう?」

「いや、駄目です。僕、ポアリちゃんの事好きなんで!」

 その言葉に理事長がむっと険しい表情をする。

「人間的に好きなら、学食の時とか、放課後とか待ち合わせして話せばいいじゃない?」

 ロベルトは立ち上がり、バンッとテーブルを両手で叩く。

「そうじゃないんです。ポアリちゃんとは、将来結婚したい感じで好きなんです。結婚の申し込みも行いました。まだ、返事は保留中なんだけれど……」

 私は保留したのではなく、断ったつもりだったが、彼の中ではそうではないらしい。

 だが、理事長の意思のほうが強かった。

「それならもっと駄目。うちの学園、恋愛禁止だから」

 理事長の淡々とした声が静かに、生徒指導室に響き渡る。

(この人、ロベルトが恋愛の話をし出した瞬間、厳しくなったな――)

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