結局、二人を見放すことが出来ず、私が蛇と戦うために、技を出して、森は半焼。
言う事にして、おじさんにお願いして、もみ消してもらったんだっけ。
彼を思い出す。
『ポアリちゃん。おじさんはいつでもいいからね』
お願いをする為に対面した時、肩を含めて体を撫でられた。
卒業後はご奉仕するコースなのかもしれない。
おじさんが隠ぺいしたが、私のミスで森が半焼したことになっている為、姉妹校に転校することになったのだった。
(私、転生後も転生前も、苦労人だな……)
自分の両耳の軟骨に、彼エージャが付けたピアスがあった。
「げほっ――」
目を開けると、今いるのは学園内にある池の真横で、その水面には桃色のスイレンの花が咲いている。水の色は、藻や微生物で緑色、その水を飲んでしまったのか、まだそれが肺に入っていると思うと具合が悪くなった。
仰向けになっている体を横に傾け、水を地面に吐く。
まだ男子生徒達がどうすればいいか、あたふたしていた。
「人工呼吸は自分がするの!」
「いや、俺だって!」
丸眼鏡をかけた小柄で細身の男子生徒と、モデルのように手足が長い容姿端麗な男子生徒が言い争っている。
すぐ傍にもう一人、中肉中背の男子生徒がいるが、二人の喧嘩を止める訳ではなく、白けた顔で彼らを見ていた。
そして、無表情のその子と目が合う。
「とりあえず、落ちつけよ。ポアリ、起きたから」
「「あっ――」」
自分は少しだけ嫌な予感がした。
「「ポアリちゃん!!」」
二人が自分に抱き着き、グラグラと体を揺らす。
(脳が揺れる――)
「み――水、まだ肺に入ってるから――」
そういうと二人は手を止め、申し訳なさそうにした。
「あっ、ごめんね」
丸眼鏡はそう自分に謝る。
「えっと、今記憶が混濁していて、何で池に落ちたか分からないんだけど」
「それはね……」
最近、私『ポアリ』は、姉妹校(第一学校から第二学校)から移動してきた。
第一の生徒会長『エージャ』に面倒を見てほしいと、第二校の生徒会にお願いされたそうで、校内を案内していたそう。
丸眼鏡は副会長、長身は書記、無表情は会計。
生徒会長はここにいないというか、三人とも会った事がないという。
(大丈夫か、生徒会がこんなんで――)
と思いながらも、質問があるので彼らにしてみる。
「で、池に落ちたのは……」
「今は逃げたけど、蛇が落ちてきて、ポアリちゃんが驚いて、ピョンからのドボン」
(ピョンからのドボン。蛇に噛まれたの、トラウマになってるじゃんか……)
そう思っていると、生徒会長が自分の右腕を掴む。
「あー、ありがとう」
彼に引っ張られ、体を起こす。
溺れかけたので体が少しだるい気がするけれど、問題なく立ち上がれる。
そして、周囲を見渡すが、近くに木などはない。
その蛇は何処から来たんだという顔をしていると、残りの二人が言った。
「よく鳥とか、蛇を足で捕まえてきて、空から落とすもんな」
「近くに川と森があるからね」
会計と書記は、そう困った顔で言う。
「それは分かったけれど、誰が私を助けてくれたの?」
先程から思っていたが、ここにいる三人は、全く制服が濡れていない。
「ここにいる三人、泳げなくてさ」
(私も入れれば、四人だ――)
三人でどうしようか、悩んでいたところに、一人の男子が通りかかる。
「そうしたら、その人が飛び込んで、助けてくれたんだ」
そう書記が言うと、彼がハンカチを自分の額に当てた。
「そっか、誰か名前とか、クラスとか分かったりしない?」
すると、皆顔をお互い見渡した。
三人全員、顔見知りではないようだ。
「僕達と同じ、二年生じゃない事は分かるけれど」
「じゃあ、特徴教えてくれる?身長とか髪の色とか、最低限でいいからさ」
すると、副会長と書記は数秒、うーんと唸った後、覚えてないと言った。
「嘘吐くなよ。お前達、ガッツリお礼言ってたじゃん」
会計が相変わらずの無表情で、その場に言い放った。
「何で言うの!」
「意地悪!ポアリちゃん、取られちゃうかもしれないじゃん」
そう言われた会計の彼は、面倒そうな顔をした。
そして、書記に肩を掴まれ、グラグラ揺らされる。
「ロマンティックだもの。絶対、取られる。俺も副会長も、ポアリちゃんの事、狙っているって知っているでしょ!」
「脳が揺れるからやめろよ」
彼が少し酔ったのか、少しえずいた。
「マジで吐きそうだから、止めなさい」
目の前で吐かれたら大変な事になりそうなので、仲裁に入る。
「別に運命を感じている訳ではない。お礼したいだけだから、ね?教えてよ」
すると、渋々だったが、彼らは特徴を教えてくれた。
彼の特徴は、身長や体型は書記くらいで、銀縁の眼鏡をかけた、金髪の男子生徒との事だった。
「じゃあ、ポアリちゃん。俺と付き合う事とか考えたり――」
書記がそう言いかけると、副会長の目がギラリと光る。
先程までの和やかさはなく、書記に抜け駆けされたことで、少し機嫌が悪くなったようだ。
また、争いが起こりそうなので、適当に誤魔化して、その場を後にしよう。
「へくちゅぃ――ごめん、寒気してきたから、着替えてくるわ――」
「えー、まだ全部回れてないよ?」
そう書記の彼は言うが、寒いと震える演技をし、その場を退散する。
*
記憶を探りながら、寮まで歩き、建物に入る。
その建物は外観も内装も、古いもののデザインが凝ったもので、郷土資料館や博物館のような雰囲気がある。
赤いカーペットが敷かれた床も、壁に付けてあるランプも、出入口の目の前にある大きなステンドグラスも、とても品があり、上等な物ばかりだ。
(このステンドグラスもランプも凄く高そう――)
それが正直な感想だった。
ポアリとしてこの世界を生きてきた記憶と、転生前の自分の記憶がうまく混ざり合っていない事に困惑する。
特に人の名前とか、その人と過ごした記憶が思い出せないところがある。
元々いた学校の記憶や同級生の名前は少し覚えているが、今の学校の生徒会メンバーの名前は思い出せなかったりする。
(転生前の記憶を思い出したからなのかな――)
歩有としての記憶は、嫌と言うほど思い出せる。
だが、今の肉体『ポアリ』の記憶は曖昧だ。
ポアリの家族は何となく思い出せるが、親や弟の名前、顔はボヤッとしているというか、数回あった知り合いのような感覚である。
レトロなデザインの階段を上がると、大きめの姿見が飾ってあった。
初めて、ポアリを、転生後の自分の姿を見た。
女性の平均的な身長。
肩くらいの黒髪、茶色く丸い瞳、低い鼻、丸い輪郭が、年齢よりも幼く印象付けた。
色っぽさは全くない、素朴な、田舎者。
それがこの体の第一印象だった。
後、それとは対照的に、耳たぶと軟骨のピアスはセンスが良く、都会的。
全く、皮肉な話だ。
開けた男の事を思い出し、嫌な気持ちになる。
着ている制服は、青ベースの膝丈のスカートに白いシャツ、水色のリボンタイ、上品で涼しげな印象を受けるが、その白シャツは先程の池の水で湿っている。
それに、肩部分に水草のおまけ付き。
水草を摘まみ取り、その場に捨てる。
(ダサすぎてないわ。前髪、切ろう――後、眉も少し細くしよう――)
濡れた前髪を触りながら、階段を上がり切る。
そして、自分以外誰もいない廊下を歩き、自分の部屋の前に辿り着いた。
(――この部屋で合ってるよね?)
スカートのポケットや上着のポケットを探る。
あらゆる所、着ている衣類の収納スペースを探る。
「んー」
そして、一息ついて、頭の中を整理した。
(鍵が何所にも無い――)
そう思った瞬間、すると誰かが自分に声をかけた。
「ポアリちゃん、どうしたの?」
そこには先程とは違う男子生徒がいた。
彼は肩ぐらいまで伸ばした黒髪、大きくないが整った緑色の猫目が特徴で、手足が長く、肌が白い。
背丈はかなり高く、180センチはあるのではないだろうか。
きっと身長がなければ、男ではなく、美しい女性だと勘違いされる。
そんな彼に少し緊張する。
「えっと、池に落ちて、鍵無くして――」
事情を話すが、彼の事を思い出せない自分がいる。
「池の中に落としちゃったのかなぁ?」
彼はそう言い、私の濡れた髪に触れる。
「じゃあ、僕の鍵で開けちゃうね?」
「えっ?」
彼は当たり前のようにそう言うと、自分のズボンの左ポケットから取り出し、扉を開ける。
――ガチャン。
自分達しかいない廊下にその音が響く。
「何、ぼうっとしてるの?入るよ?」
「う、うん――」
彼はそう言うと、自分の肩を抱き部屋の中に招き入れる。
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