第二章『幽霊を物理で殴りに行こう』⑥

 ロベルトは、鉄格子の隙間をすり抜けた。

「痛てて、さっき尻もちついた時に腰痛めちゃったから。よっと」

 それに新聞部が続く。

 見た目は格子に引っ掛かりそうな下腹だが、幻影なので楽々すり抜けた。

「ポアリちゃんも早く――?」

 そこでロベルトはポアリの姿がここに今、無い事に気がついた。

「ポアリちゃん、置いてきちゃった!」

「俺は最初から気がついていたけれど」

 そう言う新聞部を、少し引いたような顔で見るロベルト。

「あぁっ!もう、何で教えてくれないんだよ!」

 また来た道を戻るか、それとも人を呼んでくるか、ロベルトは少し悩んだが。

 とりあえずポアリが、ここまで来た時、スムーズに通れるように、持っていたナイフで鉄格子を擦る。

 キリキリと音は、するが切断するのは難しい。

 老朽化でボロボロだと言っていたが、そんな事は無い。

(コイツの脚力が単純に強いだけでは……)

 そう思いながら、新聞部をロベルトは見るが、彼は自分の痛めた腰を撫で、辛そうに項垂れている。

「――また、キックできたりする?」

「だから、腰を痛めたんだって――」

 そんなやり取りをしていると、暗闇の方から大きい音がする。

 鉄格子側にまた目をやると、濁流が押し寄せてくる。

 その中には、二人の姿もあり、意識がないのだろうか、二人共伸びている。

「あぁ、上の貯水槽壊したか。管理されてなかったから、あの水臭いだろうな……」

 新聞部は、死んだ顔で呟く。

「と、とりあえず、二人で協力してシールド張るよ!」

 二人で呪文を唱えると、魔法陣が現れ、結界が自分達の周りに張られる。

 濁流と転生者二人の体重により、鉄格子が突き破られ、結界内以外の空間が水で満たされる。

「ポアリちゃん!」

 二人は眠っているようで、ロベルトはポアリに手を伸ばすが、結界越しなので、触れる事が出来ない。

「そうだった、守れる代わりに、結界越しに物や人は干渉できないんだった」

 ロベルトがそう呟くと、どこかの窓ガラスが水圧で割れたのか、水位が減り、床が濡れるくらいまでになった。

「ポアリちゃーん!」

 ロベルトは結界を解き、ビチョビチョな姿で倒れているポアリに駆け寄る。

 ポアリは眠っているようで、目を覚まさない。

 だが、アクアの方は復活が早いようで、意識を取り戻り、ゾンビのようにゆっくり立ち上がる。

「殺す――」

 ロベルトはそう呟く彼をゾッとした顔で見ているが、彼はそんなのお構いなしのようだ。

 すると。

 誰かが水浸しになった床を走る音がする。

 走っている際に、被っていたフードが脱げ、男子生徒の顔が露になる。

「幽霊、見ぃつけた!」

 彼は黒魔術研究会の部長で、顔の右半分に入れ墨風のペイントがしてあった。

 そのペイントは彼にとって、お守りらしいという事だ。

 そして、ニコニコの良い笑顔で、虫取り網を彼の頭に被せ、素早く魔法石で電気を作り、彼を感電させた。

「あばばばばばっ――」

 再び、気絶した彼をその男子生徒の服の襟を掴んだ。

「二人共、じゃあ幽霊貰っていくね!バイバイ!」

(相変わらず、マイペースだなぁ――)

 彼は人の話を聞かない事で三年生の中では有名だったが、今の状況であれば好都合だとロベルトは思った。

(頼む。このまま、赤毛を回収してくれ……)

 そんな中、空気が読めない事で有名な新聞部が声を出す。

「いや、それ幽霊じゃ……」

 真実を言いかける新聞部をロベルトは睨み、彼を黙らせる。

 彼の顔には虫取り網をかけたまま、ズルズルと別の通路に引きずっていく。

 彼らの姿が暗闇に消えたところで、ポアリを脇に抱え、ロベルトは新聞部の元へ近づく。

「あのさ、新聞の記事なんだけれど」

「あぁ、発行やめような。幽霊はいない、それでいい」

「後、壊したことも」

 彼とロベルトは簡単に今後の事を打合せし、解散した。

 ロベルトが外に出ると、朝日が顔を出していた。

「あぁ、朝か……」

 すると、ポアリからくしゃみが出て、それがきっかけで目を覚ます。

「ポアリちゃん、おはよう」

「おはよう……アイツは?」

 ポアリはロベルトから離れ、地面に立ち、その場で背伸びをする。

「黒魔術研究会の部長が、幽霊と間違って回収してったよ」

 ロベルトがそう言うと、ポアリは訊いてきたくせに、ふーんと興味がない反応をする。

 だが、それでロベルトは安心した。

「シャワー自分で浴びれる?洗うの手伝おうか?」

「それはいい、いらない」

 ポアリと一緒に歩く景色はとても、明るく美しい。

 見慣れた学園内の景色が、いつもと違うように感じた。

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