第二章『幽霊を物理で殴りに行こう』①

「一応、方位磁石と魔法石と地図と――」

 夕食後、彼は探検の為に準備をしていた。

「魔法石は分かるけれど、方位磁石って――校内を探索するだけだから、遭難しないでしょ?」

「それで遭難したらどうするの?」

 そう呆れながら言うのだが、彼は必要だと言う。

(朝になれば流石に、何処にいるのか分かるだろうに――)

 幽霊を探しに行くと言っても、夜の校内を見回るだけなので、準備は無駄だと思う。

(暇だなぁ――)

 そう思いながら床のカーペットの上で、自分は胡坐をかいている。

 すると、見かねたのかロベルトは、部屋の奥から声を出した。

「虫よけのお香、焚くから、体に浴びておくんだよ」

 彼はテーブルの上に、お香が入った容器を置く。

(蚊取り線香のようなものだろうか?)

 それは灰皿ぐらいの大きさの青い陶器に、隙間が所々空いている金属の蓋がしてある。

 それの蓋は花や植物がモチーフで、かなり作り込まれていて、とても上品だ。

 植物の隙間から中を覗くと、木を砕いて、乾かしたものがいくつか入っていた。

「今、付けるね」

 ロベルトは机の棚からマッチを取り出し、擦る。

 すると、火ではなく、電気がパチパチと発生する。

(まるで、線香花火のようだ――)

 それを蓋の隙間から、その容器に入れると、白い真っ直ぐの煙が出て、ヒノキとハーブを混ぜたような、香ばしい匂いが部屋に広がった。

(凄く、心地がいい――)

 その煙と匂いを浴びていると、リラックス効果なのか、意識が遠のく。

「ポアリちゃん、寝ない。寝ないよー」

 自分は少し仮眠を取ることにした。

 そして、その日の夜の十一時、彼に起こされ、ソファーから起き上がる。

寝ぼけ眼を擦りながら、一眼レフを持ったロベルトと新聞部の集合場所に向かう。

 そこは寮のステンドグラス前で、自分達が辿り着くと、もう既にメンバーが勢ぞろいしていた。

「ポアリちゃんも来たんだ。まぁ、多いほうがいいよね」

 昼間に部屋を訪ねてきた男子がそう言う。

「新聞部は自分とロベルトの二人で、他は黒魔術研究会の方たち」

 彼らの方向を見ると、ローブを羽織っており、そのフードで顔や表情は見えない。

 黒魔術研究会なるものが存在するとはと感心していると、彼らは物騒な事を言う。

「幽霊を捕まえて、薬の材料にするんじゃ――」

 そう言った彼は、虫取り網を片手に持っている。

「鍋は用意している――」

 そう言う彼は、少し大きめの鍋を両手で持ち上げた。

「一緒に煮る薬草もバッチリですぞ――」

 そう彼は言い、ローブのポケットから、ネギやニラのような草を取り出す。

 どうやら幽霊は、虫取り網で捕らえられ、草と一緒に鍋で煮られるらしい。

自分が幽霊だったら、彼らにだけは捕まらないようにしたいものだ。

「みんな、協力して頑張って捕まえような!」

 そう新聞部が話をすると、黒魔術研究会はそれぞれ別の方向に歩いて行った。

 手分けして探すという事らしいが、虫取り網と鍋は物理的に捕まえられるが、草だけを持っている子は、捕まえられるのだろうか。

 新聞部も一眼レフを調整し、歩き出そうとしたので、彼に声をかける。

「あのすみません。私、ここに来たばかりで幽霊の噂とか聞いた事ないんですけど、どんなやつなんですか?」

 私の質問に彼はキョトンとした拍子抜けした顔をし、ロベルトの方を見る。

「ロベルト、話してないの?」

「僕もあまり詳しくないから――」

 ロベルトは、困ったように笑う。

「というけれど、自分もよく知らないんだよね。男の人だっていう人もいるし、女の人だったという人もいる」

 彼も話をしてくれるのだが、全部曖昧というか、決まった特徴がないという事。

 幽霊は深夜帯に出るそうで、場所は中庭だったり、校舎前だったり、寮内だったり、場所は決まっていない。

 というと、ただの徘徊するのが趣味の生徒がいるというだけの気がするが――

「とりあえず白くて、人魂が近くに浮いているという事らしいよ」

 そう言う彼は、懐中電灯を私達に手渡した。

(懐中電灯って存在するんだなぁ……)

 先程、ロベルトがマッチを擦った時、火ではなく、電気が発生したのを思い出す。

 アーノルドが魔法石も発電機と言っていたので、この世界では炎というものが、あまり流通していないのかもしれない。

(現世の炎も、別人類が遠隔操作していたとか言っていたしな――)

 カチカチとスイッチを押したり、切ったりすると光が点滅する。

「中に聖水と魔法石を砕いたやつが入っているから、長持ちするよ」

 確かに振ると、水特有のチャプチャプとした音と、細かい何か混ざる音がする。

「あぁ、本当だ。聖水と一緒に入れると持ちが良くなるんですか?」

「魔法石が大きいほうが強い魔力を出せるんだけど、ヒートアップするらしく、一時的に使えなくなるんだよ。でも、細かく砕いて、水と一緒にすれば、それが防げるから半永久的に使えちゃうわけで」

 魔法石がヒートアップすると、一時的に使えなくなるというパワーワードに驚く。

 因みにヒートアップした魔法石は、しばらく休ませたり、冷やせば使えるようになる事。

「俺、オカルト的知識が無いから、よく分からないけれど。光を当てれば怯むだろうし、魔法で感電させて」

「もし、幽霊の正体が危ない生物だったり、技が通らなかったらどうするんですか?」

「魔法が効かなければ、懐中電灯で殴って切り抜けてよ」

 彼はそう言い、別の方向に歩き出した。

(本当はこの人、一番幽霊に関心がないんだな――)

 動揺した顔でそう思っていると、ロベルトが自分の腕を掴み、引っ張る。

「じゃあ、ポアリちゃん。お化け探しに行こうか」

 そう言い、歩き出す。

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