第二章『幽霊を物理で殴りに行こう』⑤

「ポアリちゃん、大丈夫かな――」

「しっかりしているし、大丈夫なんじゃないかな。それより、ロベルト大変だったね」

 新聞部の彼が一眼レフのファインダーから、ロベルトに視線を戻す。

 そう言った自身は怪我どころか、汚れ一つ無いのに対し、ロベルトはかなりボロボロで、壁伝いでフラフラと歩いている。

「確かに、落とし穴に落ちたり、罠を踏んで天井に吊るされたりしたけどさ」

「後、眠いしね」

 睡眠不足で頭が回らない感覚のほうが大きいだろう。

「ロベルト、しんどいのであれば、部屋に戻って休んだらどうだ?ポアリちゃんは、俺が回収しておくから」

 特にロベルトの方が、罠による体力の消費があった為か、辛そうというか、今にも寝落ちしてしまいそうだ。

「駄目。ポアリちゃんがもし、駄々っ子みたいにヤダヤダしてしまったら、説得できないでしょ?」

「ロベルト、君はもう駄目だ。疲れてるし、眠いよね」

 ポアリが床で子供のように転がり、手足をバタつかせているのを想像すると、少し笑える。

 その事実は無いとは思うのだが、彼のイメージがそうなのだろう。

「ふふっ――」

 ふと笑みが零れ、ロベルトに歩幅を合わせて、彼は歩く。

 すると、口論のような争い声が、奥から聞こえる。

 足腰頭が弱ったロベルトを置いて、その方へ走り出す。

「ちょっ――置いていかないで――」

 彼もフラフラだったが、よろけながらも一生懸命走る。

 二人で開けた場所に辿り着くと、使われていない噴水の前で、見覚えの無い男子生徒とポアリが言い争っているのが見えた。

「だから!横断歩道は赤信号だったら、通ったら駄目だろ!」

「は?歩行者がいたら、優先でも止まるのがルールなんだよ!」

 赤毛の男子生徒、二年生でも三年生でもない。

 おそらく、あの子は一年生だろうと彼は思う。

「うるせぇ、お前に衝突して横転して、後ろを走っていたバイクと、衝突して死んだんだ」

「無免でバイク乗ってたお前の過失ですぅ」

 しかも、子供のような口論していて、ポアリの子供のような表情をしている。

「誰?ロベルト、知ってる?」

「いや、知らない。彼氏だったら、始末しなきゃ――」

 ロベルトは、腰に差していたナイフを抜く。

「何で、ナイフを抜いた?」

 シャツの影に隠れて、それにずっと気がつかなかった。

 ナイフを抜いたロベルトを宥め、それを回収する。

(今まで、そんな物騒な物を隠し持っていたのか――)

 彼はそう思いながら、分厚い布に包み、ロベルトの鞄に慎重にしまう。

 その際、彼はロベルトに預けていた変身の指輪を回収も行った。

 そして、新聞部の彼はそれを装着し、ポアリと会った時と同じ姿に戻す。

 そうしている間にも、ポアリと赤毛は互いを罵り合い、掴みかかる。

「このクソ女が!」

「やんのか、本当のケンカを見せてやるよ」

 互いに髪を引っ張り合い、服を引っ張り始めたところで、ロベルトと彼は二人を止め、引き剝がし、羽交い絞めにする。

「君達、いい加減にしなさい」

「うるせぇ、デブは引っ込んでろよ!」

 アクアは羽交い絞めにしている新聞部の事を罵る。

(本当は太ってないんだけどなぁ――)

 そう冷めた表情で、暴れる彼を眺めている。

「ポアリちゃんも、お部屋に戻りましょうね」

 ポアリもじたばたしているのだが、すり抜けないように、ロベルトは抱える。

 そして、二人は同時に罵り合い、最後にポアリとアクアはこう同時に叫んだ。

「「お前のせいで自分は死んだんだからな」」

「「二人共、生きてるよ」」

 羽交い絞めにしている二人も同時に同じことを言う。

「うるせぇ!このクソ虫がぁぁ!」

 彼の胸の魔法石がバチバチと光を放ち、彼の足元に青い魔法陣が現れる。

 そして、その瞬間から地面が揺れ始める。

 アクアが魔法石から放っている光はとても強く、それは懐中電灯の明かり無しでも、周囲がどんな構造かが分かるくらいだった。

「うわっ――」

 羽交い絞めにしていた新聞部は地面が揺れた事に驚き、その場に尻もちをつく。

 自分もロベルトから離れ、床に手をつきながら、彼アクアの様子を窺っている。

「アーノルドさん。あ、あれ何?何?」

 空気が揺れるような感覚、それが狭い空間に響いている。

 アーノルドに話をかけると、彼は言う。

『おそらくですが、空気を揺らしているのでは?狭い空間で、大きく空気を揺らすものだから、建物も一緒に揺れているんでしょうね』

 魔法って電気系以外にもあるのかと私はとても驚いた。

「でも、魔法石って発電機みたいなものなんでしょう!」

 電気関係ないじゃんと言うと、彼が言う。

『自分達はあくまで素を、エネルギーの感情を電気に変える装置を与えただけなので』

「ということは?」

 私がよく理解していない顔で、更に訊ねるとアーノルドは困ったように言う。

『現代っ子のポアリさんに分かりやすく、説明するのであればそうだなぁ』

 彼は少し悩みながら、現代っ子の自分に話をする。

『魔法石は電気を流すものではなく、エネルギーを変換し生み出すものです。機械の能力や性能は電気じゃなくて、機械の種類で決まるでしょ?』

 掃除機なら吸引、電子レンジなら温めという事だ。

 単純に記憶にあったクラスメイト達は、電気系の魔法を好んで使っていたというだけか。

「なるほど、元は一緒でも、どんな魔法かはそれぞれ違うと」

「ポアリちゃん、何一人でブツブツ言ってんの!早く逃げるよ!」

 ロベルトは自分の腕を掴み立ち上がらせる。

「えっ?何で逃げるの?」

「この場所、管理されてないからボロボロで、魔法なんて使ったら、崩れちゃうよ」

 ロベルトは驚いた顔してそれを見ている新聞部にも声をかけた。

「お前も逃げるよ!」

「えっ?あぁ、うん」

 二人はそう言い、やって来た道の方へ向かって走るが、私は静かにアクアを見ている。

(多分、逃げても無駄だろうな……)

 彼の言う通り、魔法が放たれたら、建物は崩れる。

 天井が落ちてきたら、二人共怪我するだろうし、下手したら命を落とすかもしれない。

魔法を解き放った本人も同じだろう。

(絶対、怪我するな……)

 そう思い、アーノルドに声をかける。

「アーノルドさん、魔法」

『じゃあ、手を目の前に突き出す感じで……』

「こう?」

 掌を突き出した瞬間、魔法陣が現れた。

 そして、その魔法陣から、青白い光が生み出され、真っ直ぐ解き放たれる。

「うおっ!」

 私が一番、この時間、この空間で驚いた。

 自分がアーノルドの遠隔操作に驚いて腕を動かした為か、その光線はアクアの方向ではなく、建物の天井に向かい放たれた。

『何で、驚いているんです?』

「アクアの魔法陣が足元に出ていたから、腕に出ると思わなくて……」

 そういうやり取りをしていると、アクアの方は足元の魔法陣が青から緑色に変化しており、その光が彼を照らしていた。

「へへへ、魔法の技術は俺の方が上だなぁ」

 彼が静かに言う。

『アクア君、やめよう。こんな事をしても、意味ないよ』

 それに呆れた声で声をかけるセゾン。

 だが彼はそのような事を言われても、聞こえてないようだった。

「チャージは済んだ。解き放つぞ【シャイニング・ウェーヴ】

 彼が自分達に向けて、掌を前に突き出す。

『はい、終わりです。私が封じ込めました』

 アクアの魔法陣がセゾンの声と同時に消える。

『ポアリさん、セゾンが魔法を封じ込めたようですよ』

「良かった。というか、最初からそうお願いすればよかったね」

 私とアーノルドは安堵しているが、今度はアクアとセゾンが言い争いを始める。

「なんで、邪魔するんだよ!ただでさえ、チャージに時間が掛かるのに!」

 まぁ、言い争いというよりも、アクアが一方的にセゾンに抗議しているのだが。

 セゾンはそれに対し、無言だがアクアは話を続ける。

「人ぐらいの大きさのハリケーンを複数作って、四方向に打つという俺のオリジナル技。ちなみに実家の中庭で使ったら、庭の木が折れたり、消失した」

『こんな狭い所で使おうと思ったんですか?危ない、危ない』

 そう言われたアクアは不服そうな顔をすると、アクアの頭に天井から、水が降ってくる。

「何で、セゾンは俺の味方してくれな、ぶぐっ――」

 それは風呂桶の水をかけられたようなくらいで、アクアは肩まで濡れた。

 そして、アクアは濡れたので機嫌がさらに悪くなったのか、自分を睨む。

「アーノルドさん、これって私が放ったやつ?」

 自分の攻撃が逸れた場所から落ちてきた水だったので、一応確認をする。

『いえ、先程のはあくまでレーザー光線なので。それで、おそらく天井に穴が開いて、溜まっていた水が落ちてきたか、貯水槽に穴が開いたかのどちらかでしょうね』

 それを聞いて、その場で噴き出す。

「ぶっ――ふへへ。こんな場所でそんな技使おうとするからでしょ?自業自得って言葉、知ってますかぁ??」

『ポアリさん、怒っている人間にそんなこと言っては――彼、また怒り出しますよ?』

 そう諭すアーノルドだが、自分は止めない。

「まぁ、その水もばっちぃかもしれないから、後で寮に戻ったら頭洗ってやるよ」

 中指を立てて、そう彼に言い放つと、自分の方にも天井から、水が降ってくる。

「うへぇ――私の方にも水が降ってきたけど」

 その水は凄く錆び臭く、滴っている水滴を指で取ると、赤茶色く、変色していた。

 すると、その水が彼と自分の間を隔てるように、大量の水が滝のように落ちてきた。

「えっ!?水!!凄い量の水がぁ!?」

 水に頭まで浸かると、泳げない私の体は活動停止するのと聞いていたので、その大量の水にビビる。

『この感じだと、大き目の貯水槽が上にあって、それをポアリさんが破壊したという事でしょうか?』

 アーノルドは淡々とそう推理をし、口にした。

「アクア、私は泳げないから、マジで逃げるよ!」

「えっ?マジで――」

 彼に話しかけ、彼が何か言いかけた時に、水量が更に増し、それで声が聞こえなくなる。

「おそらく大丈夫だって、言ってる。アーノルドさん【蒼火】」

『大丈夫と言っているかは分かりませんが、セゾンがいるので大丈夫でしょう』

 アーノルドは青い炎を出し、その状態でロベルトと新聞部が向かった方に走り出す。

 そこは私がやって来た道と一緒なので、おそらく迷う事がないだろう。

 自分がその方向に走り出す。

「えっと、出口!来た道は!」

『ポアリさん、そっちではなく、こっちです』

 レンガ造りの壁は同じような景色で、少々迷いそうになるが、その時はアーノルドが教えてくれた。

 すると、来た方向から大きい音がし、振り返る。

「――ん?えっ?えぇっ!?」

 そこには大量の茶色い水というか、濁流が押し寄せてくる。

「アーノルドさん!洪水を思わせるような、大量の水がっ!」

 その水はもうかなりの近い所まで、迫っており、逃げられる自身がない。

 そして、その波に飲み込まれる。

「ぶくくっ――」

 水の中に入ると、そこにはアクアがいて、意識が無いのであろう、伸びていた。

(お前も、私とおんなじかい!)

 そして、私も水に全身が浸かったので、意識を失う。

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