長編

天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 第三章 『マユと蛹』③

255年、終戦後の夜。この日は空母『有馬』が平間基地周辺海上から『北栄』の海軍基地、海上へ移動した。空母から降りると、北栄勤務の海軍達が出迎えてくれる。「お疲れ様です」 マユ達は無言のまま、大きく息を吸う。戦争は終わったはずだというのに、気...
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 第三章 『マユと蛹』②

255年 睦月。 本日、撃ち落した西洋竜は黒い鱗の個体だった。黒い竜は東洋でも、縁起が良くないと言われているらしい。だが、艶のある鱗はとても美しく、敵だが惚れ惚れした。(強かった……死ぬかもって思った……) マユが安堵していると、飛行機内の...
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 第三章 『マユと蛹』①

「で、神棚を用意したんだ?桑子さんに借金して」 帰宅した勇五郎はそう言い、軍服を脱ぎ、和装に着替える。「ぶえぇ、無職にこの出費は辛いよ……」 マユの言葉など気にしない玉之丞が、脱いだ軍服に潜り、遊び始めると、彼はそれごと抱きかかえた。『きゅ...
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 第二章 『マユと桑子』⑥

ヤクザを始末した後、特高警察か、それに雇われている者か、死体を運び出していく。 そして、清掃員らしい人物と、解体作業員がやってきて、何かを話し始めた。耳を傾けると、どう片付けすれば、近隣にこの出来事を内密にできるか話し合っているらしい。「三...
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 第二章 『マユと桑子』⑤

留吉は気が付くと、ダンスホールではない場所に立っており、困惑する。(ん?ここは何所だ?) 視力は少し戻っているのだろうか。水の中で目を開けた時のように、ぼやけているが、何があるのか、どういう場所にいるかは分かる程度には回復しているようだ。 ...
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 第二章 『マユと桑子』④

五年程前 『叶虎』のダンスホール。中に入ると、奥のステージで奏者は、ジャズを奏でており、それに合わせて若い男女が手を取り、社交ダンスを踊っている。(凄く風紀が乱れている……) こんな場所に姉が通っていたという事に、留吉は呆れ、溜息が自然に零...
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 第二章 『マユと桑子』③

市電で北東へ、県境の駅で汽車に乗り換え、角之上の港町へ。 空が曇っており、片頭痛がマユを襲う。「うぅ……頭が……」「全く、マユはどうしようもないな……ぼやっとしてると、置いていく」 そう言う彼の肩に玉之丞が乗っており、乗り物酔いしたのか、い...
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 第二章 『マユと桑子』②

広い居間は学校の教室くらいの大きさで、西洋から取り寄せた絨毯に、フカフカなソファー、棚の上にはワニや猛禽類の剥製が置いてある。ラジオから今流行っているらしい歌謡曲が流れているが、時間帯からかそれがジャズの演奏に切り替わった。 だが、ソファー...
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 第二章 『マユと桑子』①

マユは陸軍基地で、衛生兵の『衛星(えいせい)』とリハビリを行っている。「いつものぶつかると、電球が光るやつをしますからね」 それは赤子の玩具のような見た目で、太いワイヤーで出来たグネグネとしたもの。同じ素材の輪っかとそれが触れると、付属して...
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 第一章 『西洋乙女』③

(なんか、盛り上がっちゃったな……) 市電の中から見える景色は、街灯が輝き、とても煌めいている。そして、酒を飲みすぎたのか、マユは少し具合が悪い。マユはあの後、悟と百貨店を出て、ダンスホールに行き、一踊りしてきた。ダンスホールなら、公共の場...