2025-06

天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 最終章『終わってから始まる物語』①

255年、終戦後 海上。 波は高く、揺れが大きい気がするが、海面を覗き込んでも、暗く波が見えない。 そんな中、空母『有馬』に乗ったマユは、夜風に吹かれ、体を震わせていた。「寒い……桑子、何か防寒具貸してよ……一個だけでいいから……」 という...
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 第三章 『マユと蛹』⑤

「正解だなぁ。この色――」 翡翠色に染まった自身の機体を見て、マユはキラキラとした表情になる。 それを心なしか満足そうな顔で見ている久を桑子は冷めた瞳で眺めた。 そして、ふと気になったのだろう。桑子は久に質問を投げかける。「そういえば、この...
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 第三章 『マユと蛹』④

宮司が屋台から焼き鳥を受け取り、モグモグと食べていると、テーブル席のほうで、エールの瓶に口を付けた桑子と、蕎麦を食べているキヌの姿が見える。「二人とも、マユさんは?」 宮司は団らんしている二人に声をかけた。「んー?旦那様がお仕事頼んでいたか...
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 第三章 『マユと蛹』③

255年、終戦後の夜。この日は空母『有馬』が平間基地周辺海上から『北栄』の海軍基地、海上へ移動した。空母から降りると、北栄勤務の海軍達が出迎えてくれる。「お疲れ様です」 マユ達は無言のまま、大きく息を吸う。戦争は終わったはずだというのに、気...
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 第三章 『マユと蛹』②

255年 睦月。 本日、撃ち落した西洋竜は黒い鱗の個体だった。黒い竜は東洋でも、縁起が良くないと言われているらしい。だが、艶のある鱗はとても美しく、敵だが惚れ惚れした。(強かった……死ぬかもって思った……) マユが安堵していると、飛行機内の...
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 第三章 『マユと蛹』①

「で、神棚を用意したんだ?桑子さんに借金して」 帰宅した勇五郎はそう言い、軍服を脱ぎ、和装に着替える。「ぶえぇ、無職にこの出費は辛いよ……」 マユの言葉など気にしない玉之丞が、脱いだ軍服に潜り、遊び始めると、彼はそれごと抱きかかえた。『きゅ...
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 第二章 『マユと桑子』⑥

ヤクザを始末した後、特高警察か、それに雇われている者か、死体を運び出していく。 そして、清掃員らしい人物と、解体作業員がやってきて、何かを話し始めた。耳を傾けると、どう片付けすれば、近隣にこの出来事を内密にできるか話し合っているらしい。「三...
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 第二章 『マユと桑子』⑤

留吉は気が付くと、ダンスホールではない場所に立っており、困惑する。(ん?ここは何所だ?) 視力は少し戻っているのだろうか。水の中で目を開けた時のように、ぼやけているが、何があるのか、どういう場所にいるかは分かる程度には回復しているようだ。 ...
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 第二章 『マユと桑子』④

五年程前 『叶虎』のダンスホール。中に入ると、奥のステージで奏者は、ジャズを奏でており、それに合わせて若い男女が手を取り、社交ダンスを踊っている。(凄く風紀が乱れている……) こんな場所に姉が通っていたという事に、留吉は呆れ、溜息が自然に零...
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 第二章 『マユと桑子』③

市電で北東へ、県境の駅で汽車に乗り換え、角之上の港町へ。 空が曇っており、片頭痛がマユを襲う。「うぅ……頭が……」「全く、マユはどうしようもないな……ぼやっとしてると、置いていく」 そう言う彼の肩に玉之丞が乗っており、乗り物酔いしたのか、い...