「誰だったんだ?」
「大家さんがこれ届けてくれて」
リビングに戻り、志摩に事情を話す。
大家さんが言ったとおり、充電は無く、電源ボタンを長押ししても、画面は付かなかった。
志摩が同じ差込口のケーブルを寝室から持ってきて、しばらく充電する。
思ったよりも早く電源が付いた。
(よかった……データ消えてない……)
肇は画面ロックを付けてなかったようで、中に入っている情報や検索履歴は全部、閲覧できた。
「よかったな」
写真のデータを探ると、自分や志摩の写真が何個もあり、肇が生きていた頃の記憶が蘇る。
一緒に食べた料理、遊園地に行った時の景色、志摩と自分の姿。
今でも鮮明に思い出せる。
「肇、知らない間に、沢山写真撮っていたんだな……」
志摩はそう呟き、穏やかな顔で微笑んだ。
「そうだね……あれ?」
その中に知らない男性の写真があった。
彼はおそらくアルファだろう。
手足が長く、容姿が整っている。
間違って、スクリーンショットしたのだろうか、少し見切れている部分もある。
日付はクリスマス、時間は、自分と別れた後だった。
「この人……」
自分は何かを察する。
(この人が肇君の……)
感が良い自分が嫌になる。
知らなきゃ良かった。
「この人さ」
志摩も同じ事を思ったのか、声を出した。
この人物が誰なのか何処にいるのかは、すぐに判明した。
函館にある孤児院のようで、ホームページに固定電話の番号があった為、志摩がかける。
志摩は弁護士だと伝え、その人物と思われる人と会話をしていた。
その人物はやはり、肇の事を知っているようで、志摩は自分が友人の一人だと説明をする。
「はい。それは本当ですか?分かりました。職場と友人に相談して日程を決めます」
志摩は電話を切り、自分に言う。
「電話したけど、内容聞く?」
「うん……」
志摩は複雑そうな顔をしていて、彼が話すまで恐怖が自分を心臓の動きを早くした。
「ここの施設、教会が援助しているみたいで、肇は今ここにいるんだって……」
自分はその言葉を聞いて安心し、瞳から涙が滝のように溢れ出す。
「あー、泣くなよ」
「――ご、ごめん。ずっと、それが気がかりで――」
キッチンにあった未使用タオルを志摩が持ってきて、自分に渡す。
「まだ納骨前で、函館の孤児院に来てくれるのなら、返すからって」
志摩はそう言い、自分の肩をポンポン叩く。
「行こう。函館に」
彼はそう自分に言い、自分は無言で頷いた。
*
函館に向かう事を決めた自分達だが、結局三月の中旬になってしまった。
新幹線で東京から、北海道函館に移動する。
「「寒っ――」」
志摩と自分が函館駅を出て、最初に出た言葉がそれだった。
三月だというのに、雪が積もっている。
東京は桜の開花予想がニュースで、流れているというのに。
志摩と自分は、駅に戻り、暖を取る。
「駄目だ、薄着じゃ凍え死んでしまう」
死にはしないだろうが、タクシーや市電、バスを待っている間に、凍傷や霜焼けになる。
「絶対なる……」
そう思いながら、ブルブル震えていると、志摩がお土産コーナーで、手作り半纏と手編みの手袋を見つけてくる。
都会人らしからぬ、コーディネートだが、仕方がない。
それをそれぞれ購入し、志摩と二人で装備する。
「どうぞ――ぶふっ!えっ、待って、ここ駅ですよね――」
タクシーの運転手(中年男性)その恰好を指摘される。というか、笑われた。
(笑わないでほしかった……)
一方、志摩はメンタルが強く、行先の孤児院名を伝えた。
*
孤児院の前に降ろされるが、車道と歩道の間に雪の塀があり、どう歩道に入ろうか動揺する。
「ちょっと先に低い所があったから、そこから入ろうぜ」
志摩はそう言い、歩き出す。
自分も志摩も何回か滑り、転びそうになったが、何とか歩道に入る事ができた。
その孤児院の入り口は、レンガの壁と冷たい柵で出来ている。
(漫画やゲームのラスボスステージって、こんな感じなのだろうか……)
緊張し、心臓が今までにないくらい大きく、早く動いている。
インターホンを押すのをためらい、悩んでいると、隣の志摩が容赦なく押す。
「おい!」
「えっ?押すんじゃなかったのか?」
緊張がその時MAXで、自分は心の準備がまだできていない。
「はーい、今行きます」
インターホンのスピーカーから、男性の声が聞こえた。
しばらくし、出てきたのは、穏やかな雰囲気の男性で、写真で見たよりもずっと若く、品のある雰囲気だった。
「寒かったでしょ?昨日はもう少し気温が高かったんだけど」
そう言い、彼はスキー用の手袋をした手で、門を開けた。
「どうぞ」
彼は自分達を中に招いた。

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