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 第七章『君の最後』⑥

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「誰だったんだ?」

「大家さんがこれ届けてくれて」

 リビングに戻り、志摩に事情を話す。

 大家さんが言ったとおり、充電は無く、電源ボタンを長押ししても、画面は付かなかった。

 志摩が同じ差込口のケーブルを寝室から持ってきて、しばらく充電する。

 思ったよりも早く電源が付いた。

(よかった……データ消えてない……)

 肇は画面ロックを付けてなかったようで、中に入っている情報や検索履歴は全部、閲覧できた。

「よかったな」

 写真のデータを探ると、自分や志摩の写真が何個もあり、肇が生きていた頃の記憶が蘇る。

 一緒に食べた料理、遊園地に行った時の景色、志摩と自分の姿。

今でも鮮明に思い出せる。

「肇、知らない間に、沢山写真撮っていたんだな……」

 志摩はそう呟き、穏やかな顔で微笑んだ。

「そうだね……あれ?」

 その中に知らない男性の写真があった。

 彼はおそらくアルファだろう。

 手足が長く、容姿が整っている。

 間違って、スクリーンショットしたのだろうか、少し見切れている部分もある。

 日付はクリスマス、時間は、自分と別れた後だった。

「この人……」

 自分は何かを察する。

(この人が肇君の……)

 感が良い自分が嫌になる。

 知らなきゃ良かった。

「この人さ」

 志摩も同じ事を思ったのか、声を出した。

 この人物が誰なのか何処にいるのかは、すぐに判明した。

 函館にある孤児院のようで、ホームページに固定電話の番号があった為、志摩がかける。

 志摩は弁護士だと伝え、その人物と思われる人と会話をしていた。

 その人物はやはり、肇の事を知っているようで、志摩は自分が友人の一人だと説明をする。

「はい。それは本当ですか?分かりました。職場と友人に相談して日程を決めます」

 志摩は電話を切り、自分に言う。

「電話したけど、内容聞く?」

「うん……」

 志摩は複雑そうな顔をしていて、彼が話すまで恐怖が自分を心臓の動きを早くした。

「ここの施設、教会が援助しているみたいで、肇は今ここにいるんだって……」

 自分はその言葉を聞いて安心し、瞳から涙が滝のように溢れ出す。

「あー、泣くなよ」

「――ご、ごめん。ずっと、それが気がかりで――」

 キッチンにあった未使用タオルを志摩が持ってきて、自分に渡す。

「まだ納骨前で、函館の孤児院に来てくれるのなら、返すからって」

 志摩はそう言い、自分の肩をポンポン叩く。

「行こう。函館に」

 彼はそう自分に言い、自分は無言で頷いた。

 函館に向かう事を決めた自分達だが、結局三月の中旬になってしまった。

 新幹線で東京から、北海道函館に移動する。

「「寒っ――」」

 志摩と自分が函館駅を出て、最初に出た言葉がそれだった。

 三月だというのに、雪が積もっている。

 東京は桜の開花予想がニュースで、流れているというのに。

 志摩と自分は、駅に戻り、暖を取る。

「駄目だ、薄着じゃ凍え死んでしまう」

 死にはしないだろうが、タクシーや市電、バスを待っている間に、凍傷や霜焼けになる。

「絶対なる……」

 そう思いながら、ブルブル震えていると、志摩がお土産コーナーで、手作り半纏と手編みの手袋を見つけてくる。

 都会人らしからぬ、コーディネートだが、仕方がない。

 それをそれぞれ購入し、志摩と二人で装備する。

「どうぞ――ぶふっ!えっ、待って、ここ駅ですよね――」

 タクシーの運転手(中年男性)その恰好を指摘される。というか、笑われた。

(笑わないでほしかった……)

 一方、志摩はメンタルが強く、行先の孤児院名を伝えた。

 孤児院の前に降ろされるが、車道と歩道の間に雪の塀があり、どう歩道に入ろうか動揺する。

「ちょっと先に低い所があったから、そこから入ろうぜ」

 志摩はそう言い、歩き出す。

 自分も志摩も何回か滑り、転びそうになったが、何とか歩道に入る事ができた。

 その孤児院の入り口は、レンガの壁と冷たい柵で出来ている。

(漫画やゲームのラスボスステージって、こんな感じなのだろうか……)

 緊張し、心臓が今までにないくらい大きく、早く動いている。

 インターホンを押すのをためらい、悩んでいると、隣の志摩が容赦なく押す。

「おい!」

「えっ?押すんじゃなかったのか?」

 緊張がその時MAXで、自分は心の準備がまだできていない。

「はーい、今行きます」

 インターホンのスピーカーから、男性の声が聞こえた。

 しばらくし、出てきたのは、穏やかな雰囲気の男性で、写真で見たよりもずっと若く、品のある雰囲気だった。

「寒かったでしょ?昨日はもう少し気温が高かったんだけど」

 そう言い、彼はスキー用の手袋をした手で、門を開けた。

「どうぞ」

 彼は自分達を中に招いた。

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