(城永君にどう説明しよう……)
自分はそう思いながら、二人に視線を向ける。
そこには、胡坐を掻いている志摩の抱き着くように、座っているアオイ少年がいた。
「ねぇ志摩、キスしたい。していい?」
志摩は分からないが、アオイ少年はもう二人だけの世界にいるという雰囲気で、目の前の彼だけに視線を向けている。
(性癖が壊れちゃったよ……)
アオイ少年はまだ八歳、小学二年生。
壊れるにはかなり早い年齢である。
(いや、自分は小学一年生で壊れたな……)
彼の父である城永が、自分の純情という名の性癖を壊したのを思い出す。
後、幼い頃の城永と瓜二つの見た目だから、寝取られている感がある。
(いや、もう自分の恋人ではないのか……)
自分がこの間の出来事を思い出し、暗くなっていると、志摩が自分の名前を口にした。
「駄目だ、漆が見てる――」
志摩の世界には、自分がまだいたようである。
「春島さん、春島さん」
「ん?何かな?」
アオイ少年が話しかけてきた為、自分は聞き返す。
「目、閉じて――」
アオイ少年はそう言い、顔を赤らめる。
(この子、鬼だ――)
キスされる立場じゃないのに、言われるなんて初めてだ。
城永もませていたが、結構アオイ少年も、ませているというか、恋愛体質であった。
「ほら、チュッ」
アオイ少年が許可を取らずに、志摩の頬にキスをし始めたところで、彼は言う。
「ほら、ねんねするぞ。ねんね、ねんね」
志摩はアオイ少年の面倒を見る事が飽きた様子で、彼の背中をポンポン叩き、寝かしつけようとしている。
(赤ちゃんじゃないし、寝ないでしょ……)
そう思っていたが、アオイ少年は心地よさそうにしていた。
甘い物を食べて、いっぱい遊んで、志摩にポンポンされている。
彼の瞼は徐々に下がっていき、船を漕ぎ始めた。
「漆、毛布――」
「俺は毛布じゃありません」
そう言いながら、志摩が使っている部屋から、毛布を持ってきて、彼に渡す。
「ありがと」
志摩はアオイ少年を起こさないように、上手く毛布で包み、その場に寝かした。
「疲れているんだろう。こいつからしたら、今日は忙しい一日だったと思う――」
「うん」
志摩はそう言いながら、横になっているアオイ少年の体を引き続き、ポンポン叩く。
「いっぱいお菓子食べて、遊んで、お喋りしてさ――」
志摩は満更じゃない様子で、そう言う。
「その前に、不審者に追いかけられて」
「えっ、その事聞いてない――」
自分がそう言うと、志摩は無言だった。
(城永君になんて話そう……)
自分がそう悩んでいる最中も、彼は無言で、興味も関心もない表情をしていた。
「関心持とうよ――」
そう言う自分だったが、彼は相変わらずで、再び煙草を上着から取り出し、ライターで火を付けた。
「でも、なんか子育てしてるみたいで楽しい」
この無表情、淡々が特徴の男にそんな感情があったのか。
(志摩がそう言うのは、珍しいな……)
そう持っていると、志摩は何か思い出したように自身が脱ぎ捨てた上着に手を伸ばす。
どうやら、何かを思い出したらしい。
「ほら、これ」
彼が上着のポケットから取り出したのは、手作りの焼き菓子だった。
「どうしたの、これ?」
「貰った」
マドレーヌだろうか、貝の形をしている。
「誰からよ」
自分はそれを志摩から受け取ると、彼は無表情のまま淡々と答えた。
「名前は知らない」
「自分で食え」
先程、不審者情報が出てきたばかりだった為、警戒する。
(というか、他人から貰ったものを横流しするな……)
志摩が人間らしく、優しくなるのは、まだまだ先の話らしい。
志摩は自分からそれを受け取り、困り顔で近くのテーブルの上に置いた。

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