スポンサーリンク

 第五章『陽キャ』⑩

スポンサーリンク

(城永君にどう説明しよう……)

 自分はそう思いながら、二人に視線を向ける。

 そこには、胡坐を掻いている志摩の抱き着くように、座っているアオイ少年がいた。

「ねぇ志摩、キスしたい。していい?」

 志摩は分からないが、アオイ少年はもう二人だけの世界にいるという雰囲気で、目の前の彼だけに視線を向けている。

(性癖が壊れちゃったよ……)

 アオイ少年はまだ八歳、小学二年生。

 壊れるにはかなり早い年齢である。

(いや、自分は小学一年生で壊れたな……)

 彼の父である城永が、自分の純情という名の性癖を壊したのを思い出す。

 後、幼い頃の城永と瓜二つの見た目だから、寝取られている感がある。

(いや、もう自分の恋人ではないのか……)

 自分がこの間の出来事を思い出し、暗くなっていると、志摩が自分の名前を口にした。

「駄目だ、漆が見てる――」

 志摩の世界には、自分がまだいたようである。

「春島さん、春島さん」

「ん?何かな?」

 アオイ少年が話しかけてきた為、自分は聞き返す。

「目、閉じて――」

 アオイ少年はそう言い、顔を赤らめる。

(この子、鬼だ――)

 キスされる立場じゃないのに、言われるなんて初めてだ。

 城永もませていたが、結構アオイ少年も、ませているというか、恋愛体質であった。

「ほら、チュッ」

 アオイ少年が許可を取らずに、志摩の頬にキスをし始めたところで、彼は言う。

「ほら、ねんねするぞ。ねんね、ねんね」

 志摩はアオイ少年の面倒を見る事が飽きた様子で、彼の背中をポンポン叩き、寝かしつけようとしている。

(赤ちゃんじゃないし、寝ないでしょ……)

 そう思っていたが、アオイ少年は心地よさそうにしていた。

 甘い物を食べて、いっぱい遊んで、志摩にポンポンされている。

 彼の瞼は徐々に下がっていき、船を漕ぎ始めた。

「漆、毛布――」

「俺は毛布じゃありません」

 そう言いながら、志摩が使っている部屋から、毛布を持ってきて、彼に渡す。

「ありがと」

 志摩はアオイ少年を起こさないように、上手く毛布で包み、その場に寝かした。

「疲れているんだろう。こいつからしたら、今日は忙しい一日だったと思う――」

「うん」

 志摩はそう言いながら、横になっているアオイ少年の体を引き続き、ポンポン叩く。

「いっぱいお菓子食べて、遊んで、お喋りしてさ――」

 志摩は満更じゃない様子で、そう言う。

「その前に、不審者に追いかけられて」

「えっ、その事聞いてない――」

 自分がそう言うと、志摩は無言だった。

(城永君になんて話そう……)

 自分がそう悩んでいる最中も、彼は無言で、興味も関心もない表情をしていた。

「関心持とうよ――」

 そう言う自分だったが、彼は相変わらずで、再び煙草を上着から取り出し、ライターで火を付けた。

「でも、なんか子育てしてるみたいで楽しい」

 この無表情、淡々が特徴の男にそんな感情があったのか。

(志摩がそう言うのは、珍しいな……)

 そう持っていると、志摩は何か思い出したように自身が脱ぎ捨てた上着に手を伸ばす。

 どうやら、何かを思い出したらしい。

「ほら、これ」

 彼が上着のポケットから取り出したのは、手作りの焼き菓子だった。

「どうしたの、これ?」

「貰った」

 マドレーヌだろうか、貝の形をしている。

「誰からよ」

 自分はそれを志摩から受け取ると、彼は無表情のまま淡々と答えた。

「名前は知らない」

「自分で食え」

 先程、不審者情報が出てきたばかりだった為、警戒する。

(というか、他人から貰ったものを横流しするな……)

 志摩が人間らしく、優しくなるのは、まだまだ先の話らしい。

 志摩は自分からそれを受け取り、困り顔で近くのテーブルの上に置いた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました