彼らの事が心配で覗くと、アクアが木に登り、持っていたナイフで網を切ろうとしていた。
「ねぇ、木と括り付けられている縄をナイフで切ったら、落ち――」
大河は思いっきり、その場に落下した。
それを見て数秒後、アクアが言う。
「なんか言ったか?」
「何でもない――」
大河は目を回しながら、そう呟く。
そんな彼を心配し、ケルモドがペロペロと顔を舐めていた。
ここからは彼らの冒険で。
「うぉっ、危なっ!」
「えっ!おわぁっ!」
川の岩を渡り、反対側に行こうとして、落ちそうになったアクアが大河の服を掴み、大河だけが体勢を崩し川に落ちたり。
「いけ!シャイニング・ウェーヴ!」
「あたっ!」
アクアが間違って破壊した木の破片が大河の頭にぶつかったり。
蜂に追いかけられたり、電流が走ってビリビリしたり、また罠でつるし上げられたり。
そんな事が何回も何回も起こった。
「もう異世界ヤダ……おうち、帰りたい……」
「きゃん!」
ケルモドを抱っこしながら、草原に体育座りをしている大河。
「そんな事言うなって、もうすぐ目的地につくぞ」
「どの口が言ってんのかなぁっ?」
その隣に腰をかけるアクアに苛立ちながら言う。
(そりゃあ、そうだよ……)
アクアは罠を作動させるが、アクアは無傷。
一方、大河は巻き込まれでボロボロだった。
「強く生きるんだよ。大河君……」
そう生徒会の三人と隠れながら、彼を応援する。
すると、アクアは大河にこんな話をし始めた。
「そういえば、目的地の泉なんだけど。すげぇ、泉らしいぜ。聞きたい?」
「一応、聞く……」
そう、大河は知らないのだ。
何の病でも怪我でも治せる泉だという事を。
「何の願いでも叶えてくれる泉らしいぜ」
アクアは、ガセ情報を掴まされていた。
「えっ、マジ?」
「マジ、マジ」
大河は凄く驚いた顔をし、アクアはそれに頷く。
(そう勝手に信じられて、お願いされて泉は迷惑だろうな……)
そう思い、二人の様子を窺う。
すると、アクアは自分が今一番気になっている事を大河に訊いた。
「で、お前は元の世界に戻るの?さっき、そう言っていたけれど」
「本当はそうしたいいんだけど……でも、何の願い事でも叶うんなら、別のにしようかな?」
大河は、秋空を眺めながら言う。
「帰らないのか?」
「だって、アーノルドさんやセゾンさんが帰る方法見つけてくれそうだし。何の願いでも叶えてくれるのなら、この機会じゃないと叶わないのにするよ」
そして、彼の口から驚きの言葉が出る。
「元の世界で幼馴染が死んでしまったから、生き返らせたいんだ」
そう言った。
その瞬間、私の瞳から涙が流れ落ちた。
「ポアリちゃん?」
「大丈夫?」
そう生徒会の二人が自分の心配し、声を出す。
「いや、大丈夫。目にゴミが入っちゃって……」
私は服の袖で、涙を拭き取った。
「そいつ、女?」
「うん、女の子」
アクアと彼は、転生前の自分の話をしている。
だが、二人共それには気が付いていない。
「それは何で?その子の事が好きだったのか?」
「いや、仲は良かったけれど。全然、そういうのではないよ。それに好きな子は別にいたから。あぁ、後その好きな子には嫌われちゃったんだけどね」
大河はそう言い、困った顔をした。
「その子が交通事故でいなくなってさ。それで好きな子が病んじゃって、自分も、自分の事で精一杯で。結局、それぞれ別の道を歩く事になった。ずっと三人で一緒にいたけど、彼女の中で僕は要らなかったみたい」
悲しいけどねと笑いながら大河が言う。
「だから。死んだ幼馴染を生き返らせて、彼女に元気になってほしい」
大河がそう言うとアクアが言った。
「でもさ。その死んだ幼馴染はさ、多分お前の事大好きだったと思うぞ」
その言葉に驚き、大河が目を見開く、アクアの赤毛が瞳に映っているのが、離れた場所から様子を窺っている自分にも見える。
「女ってやつは、女だけの世界を作るんだ。その方が気を使わなくて、楽だからな」
秋の風が彼の赤茶色い前髪を揺らす。
「だけど、男のお前もそれに入っている。という事は、お前が好きだった子ではなく、その死んでしまった子が好きだったという事だ。お前が必要だったって事だ」
「何それ、恋愛した事ない人に言われたくない」
彼の言う通り、アクアはずるいと思う。
「願い、叶うといいな」
そう言い、立ち上がり背伸びをするアクア。
それを見て大河も、ケルモドを抱っこした状態で立ち上がる。
『さてさて、二人共。行きましょう、もうすぐ目的地ですよ』
セゾンが頃合いを見て出てきて、話しかける。
再び、二人で歩き出す。
自分達もばれないように気を付けながら、それを追う。
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