山の落葉樹は、紅葉で色が変わっているというのに、ここのエリアの木々は青々とした葉を付けていた。
そして、空気もこの場所が段違いに美味しい気がする。
特に看板とかある訳ではないが、この雰囲気、美しい景色で、二人はここが目的地だと気がついたようだ。
「やった!」
「やったよ、アクア!」
「きゃん!」
二人で感動して、ケルモドを挟んだ状態で抱き合った。
「アクアは何をお願いするの?」
「最近、汗疹が酷いから、手始めにそれを治してもらうんだ。後はそうだな、あれかな?」
「そうだね、あれだね」
二人は神社を参拝するように、手を二回叩き、お願いする。
「「ロベルトが大学受験を失敗しませんように」」
(汗疹は多分治せるけれど、もう一つは本人次第かな……)
ロベルトに、後でこの出来事を教えることにしよう。
きっと泣いて感謝するはずだ。
すると、泉が煌めき、動き出す。
「な、何!?」
「お前は引っ込んでろ!セゾン!」
『分かった!』
それはスライムのような物体で、泉がそのまま半固体になったかと思うくらいの巨体だった。
「あれって何?何!?」
自分は三人に問いかけると、副会長が言う。
「あれは泉の精霊が集合したもの」
「やっぱり、精霊怒っていたんだね……」
「毎年、水虫の足を突っ込まれたり、痔を治すために裸で飛び込まれたりしているからな」
精霊の堪忍袋の緒がたまたま今年、切れてしまったようだ。
セゾンは炎を出し、アクアは魔法石に力を籠める。
そして、魔法陣が足元に出現し、竜巻を起こす。
セゾンの生み出した炎が、それに巻き込まれ、炎の渦になる。
「【ファイヤー・ウェーヴ】!」
アクアは解き放つが、スライム状の体が炎の渦を吸収した。
そして、その集合体は触手のようなものを出し、アクアの右足を掴み、振り上げる。
「うわぁぁっ!」
アクアもバタバタと抵抗し、空気の弾をその集合体に打ち込むが吸収され、最終的にそれの体内に飲み込まれた。
ブクブクと口から空気の泡を出した後、彼は休眠モードに切り替わり、その中で眠った。
「「「あっ、食べられた」」」
その様子を見ていた生徒会の三人は、静かにそう言った。
「食べられたじゃないよ!助けないと!」
自分は彼の元に走る。
「とりあえず、自分達は先生呼んでくるから!」
書記がそう言い、三人は慣れた足取りで、山道を駆けていく。
あまりにも速足だった為、逃げたのではないかと思うくらいだ。
(本当に、逃げてないよね?)
とりあえず、皆がいなくなったので、アーノルドと堂々と会話する。
「そういえば、セゾンさんは?」
『我々、別人類の干渉は、担当が起きている時間でないと基本できないので……』
アーノルドと自分の二人で、対処しないといけないという事らしい。
「精霊ってさ、遠隔操作で無効化できたりしないの?」
『一応、作ったのは私達別人類ですが、人工的でも生命体なので、操れませんね。催眠術をかけようにも、操れるくらいあれに知能がないというか。なので、戦ってください』
アーノルドはそう解説し、自分でどうにかしてくれと言う。
『ポアリさん、アクアさんは休眠モードなので、攻撃しても大丈夫です』
「じゃあ、遠慮なく……蒼火!」
掌にアーノルドが青い炎を出し、それが青白く変化する。
『ポアリさんが思ったように変化するようにしていますので。ポアリさんは、自分を信じて行動してください!』
それが槍のように変化し、それをその集合体に打ち込む。
集合体は怯み、それは呻き声を上げた。
【ぎぇぇぇい!ガガガガ!】
それはとても不快な鳴き声で、ご利益のある泉の精の声とは思えないくらいだ。
黒板を爪で引っ掻いたような音に似ている気がする。
「ポアリちゃん!」
「大河君、前!前!」
自分の方に気がつき、声を出した大河だったが、彼も足を掴まれ、食べられる。
「あぁ!大河君!」
彼はスライム状の中で、息を止める。
「休眠モードのアクアはとにかく、大河君は窒息して死んじゃう!」
「あぁ、機嫌が最近悪いとは思っていたんだよね」
後ろから女性の声が聞こえ、振り返ると、そこには理事長がいた。
色々あったと聞いたので察するが、右腕にはギプスをしていた。
彼女の腕を折ったのは、息子さんだろうか、それとも旦那さんだろうか。
助けだったら、ちゃんとした大人を呼んでほしかったが、仕方がない。
「あの大きさだと、外からの攻撃は全部吸収するよ。炎でも電気でも、物理も駄目」
そんなチート能力、あっていいものか。
「理事長先生!あなたも魔法使えるのなら、戦ってください!」
「今、腕折れているから」
理事長は、そう静かに言う。
「それは貴方の浮気癖が招いた結果でしょ!」
「まぁ、攻略法というか。ヒントを与えるとしたら、そうだな……」
理事長は折れていない腕で、顎を押さえ、少し悩んだ後言う。
「逆にいえば、中からの攻撃は通じるし、半分くらいのサイズなら、攻撃はバンバン通るんだよね」
「中からの攻撃ですか?」
だが、休眠モードになっているアクアの様子からすると、あの集合体は水と同じ性質だ。
私も飲み込まれたら休眠モードに切り替わる。
(アーノルドやセゾンの遠隔操作で中から攻撃とか……)
いや、できればそうしているはずだ。
「あのさ、中にいるあの子、魔法使えないの?」
理事長は折れていない腕の指で、大河を指差す。
「君の使い魔じゃん?」
「彼は普通の人間ですよ!そんなの、できる訳無いじゃないですか!」
二人を吸収したその集合体は、凄く機嫌が良いのか、三位階建ての建物くらいの大きさくらいに変化する。
こうなると、もう手の施しようがない。
彼の方をみると、大河はジタバタ、中で暴れるが、息が続かずに意識を失った。
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