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 最終章『ハイキングだ!泉だ!これが愛の鞭だぁ!』⑤

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 山の落葉樹は、紅葉で色が変わっているというのに、ここのエリアの木々は青々とした葉を付けていた。

 そして、空気もこの場所が段違いに美味しい気がする。

 特に看板とかある訳ではないが、この雰囲気、美しい景色で、二人はここが目的地だと気がついたようだ。

「やった!」

「やったよ、アクア!」

「きゃん!」

 二人で感動して、ケルモドを挟んだ状態で抱き合った。

「アクアは何をお願いするの?」

「最近、汗疹が酷いから、手始めにそれを治してもらうんだ。後はそうだな、あれかな?」

「そうだね、あれだね」

 二人は神社を参拝するように、手を二回叩き、お願いする。

「「ロベルトが大学受験を失敗しませんように」」

(汗疹は多分治せるけれど、もう一つは本人次第かな……)

 ロベルトに、後でこの出来事を教えることにしよう。

 きっと泣いて感謝するはずだ。

 すると、泉が煌めき、動き出す。

「な、何!?」

「お前は引っ込んでろ!セゾン!」

『分かった!』

 それはスライムのような物体で、泉がそのまま半固体になったかと思うくらいの巨体だった。

「あれって何?何!?」

 自分は三人に問いかけると、副会長が言う。

「あれは泉の精霊が集合したもの」

「やっぱり、精霊怒っていたんだね……」

「毎年、水虫の足を突っ込まれたり、痔を治すために裸で飛び込まれたりしているからな」

 精霊の堪忍袋の緒がたまたま今年、切れてしまったようだ。

 セゾンは炎を出し、アクアは魔法石に力を籠める。

 そして、魔法陣が足元に出現し、竜巻を起こす。

 セゾンの生み出した炎が、それに巻き込まれ、炎の渦になる。

「【ファイヤー・ウェーヴ】!」

 アクアは解き放つが、スライム状の体が炎の渦を吸収した。

 そして、その集合体は触手のようなものを出し、アクアの右足を掴み、振り上げる。

「うわぁぁっ!」

 アクアもバタバタと抵抗し、空気の弾をその集合体に打ち込むが吸収され、最終的にそれの体内に飲み込まれた。

 ブクブクと口から空気の泡を出した後、彼は休眠モードに切り替わり、その中で眠った。

「「「あっ、食べられた」」」

 その様子を見ていた生徒会の三人は、静かにそう言った。

「食べられたじゃないよ!助けないと!」

 自分は彼の元に走る。

「とりあえず、自分達は先生呼んでくるから!」

 書記がそう言い、三人は慣れた足取りで、山道を駆けていく。

 あまりにも速足だった為、逃げたのではないかと思うくらいだ。

(本当に、逃げてないよね?)

 とりあえず、皆がいなくなったので、アーノルドと堂々と会話する。

「そういえば、セゾンさんは?」

『我々、別人類の干渉は、担当が起きている時間でないと基本できないので……』

 アーノルドと自分の二人で、対処しないといけないという事らしい。

「精霊ってさ、遠隔操作で無効化できたりしないの?」

『一応、作ったのは私達別人類ですが、人工的でも生命体なので、操れませんね。催眠術をかけようにも、操れるくらいあれに知能がないというか。なので、戦ってください』

 アーノルドはそう解説し、自分でどうにかしてくれと言う。

『ポアリさん、アクアさんは休眠モードなので、攻撃しても大丈夫です』

「じゃあ、遠慮なく……蒼火!」

 掌にアーノルドが青い炎を出し、それが青白く変化する。

『ポアリさんが思ったように変化するようにしていますので。ポアリさんは、自分を信じて行動してください!』

 それが槍のように変化し、それをその集合体に打ち込む。

 集合体は怯み、それは呻き声を上げた。

【ぎぇぇぇい!ガガガガ!】

 それはとても不快な鳴き声で、ご利益のある泉の精の声とは思えないくらいだ。

 黒板を爪で引っ掻いたような音に似ている気がする。

「ポアリちゃん!」

「大河君、前!前!」

 自分の方に気がつき、声を出した大河だったが、彼も足を掴まれ、食べられる。

「あぁ!大河君!」

 彼はスライム状の中で、息を止める。

「休眠モードのアクアはとにかく、大河君は窒息して死んじゃう!」

「あぁ、機嫌が最近悪いとは思っていたんだよね」

 後ろから女性の声が聞こえ、振り返ると、そこには理事長がいた。

 色々あったと聞いたので察するが、右腕にはギプスをしていた。

 彼女の腕を折ったのは、息子さんだろうか、それとも旦那さんだろうか。

 助けだったら、ちゃんとした大人を呼んでほしかったが、仕方がない。

「あの大きさだと、外からの攻撃は全部吸収するよ。炎でも電気でも、物理も駄目」 

 そんなチート能力、あっていいものか。

「理事長先生!あなたも魔法使えるのなら、戦ってください!」

「今、腕折れているから」

 理事長は、そう静かに言う。

「それは貴方の浮気癖が招いた結果でしょ!」

「まぁ、攻略法というか。ヒントを与えるとしたら、そうだな……」

 理事長は折れていない腕で、顎を押さえ、少し悩んだ後言う。

「逆にいえば、中からの攻撃は通じるし、半分くらいのサイズなら、攻撃はバンバン通るんだよね」

「中からの攻撃ですか?」

 だが、休眠モードになっているアクアの様子からすると、あの集合体は水と同じ性質だ。

 私も飲み込まれたら休眠モードに切り替わる。

(アーノルドやセゾンの遠隔操作で中から攻撃とか……)

 いや、できればそうしているはずだ。

「あのさ、中にいるあの子、魔法使えないの?」

 理事長は折れていない腕の指で、大河を指差す。

「君の使い魔じゃん?」

「彼は普通の人間ですよ!そんなの、できる訳無いじゃないですか!」

 二人を吸収したその集合体は、凄く機嫌が良いのか、三位階建ての建物くらいの大きさくらいに変化する。

 こうなると、もう手の施しようがない。

 彼の方をみると、大河はジタバタ、中で暴れるが、息が続かずに意識を失った。

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