遭難です。
遭難でございます。
そもそも、こんな滅茶苦茶な地図で、目的地に行くというのが無理な話で。
皆の方を見ると、落ち葉を拾ったり、河原を覗いたりして、秋を堪能していた。
「なぁ、セゾン。どんぐりって食えんの?」
『アクア君、これは食べられないやつなので、やめましょうね』
「そんな食べてみなきゃ分からない。さあ、ゴリラご飯だぞ」
アクアはセゾンから食べられないと言われているのに、大河に食べさそうとしている。
(道に迷ったなんて言えない……)
何て言い訳しようか、言い訳したら、二人共怒るだろうか。
自分は困ったように、その場を行ったり来たりしていると、草の茂みが微かに揺れた。
「ん?何かいる?」
自分がそれに気がつき、その陰を覗き込むと、複数の人間の腕が出てきて、自分を引きずり込んだ。
「うわっ!」
「静かに――」
茂みの中に転がり込むと、そこには見慣れた三人の男子生徒がいた。
「何だ、また君達か……」
いつもの生徒会、三人組だった。
「「しーっ」」
自分は状況を理解していないが、とりあえず空気を読んで黙る。
そして、アクアと大河の様子を、彼らと同様に茂みの影から覗き込む。
「そうだ。そろそろ行かないと、日が暮れちゃうよ?ねっ、ポアリちゃ――あれ?」
その後すぐ、大河が私に話しかけ、先程までいた場所の方を見る。
「どうした?」
セゾンと話をしていたアクアも、大河が声を出した事で、それに気がついた。
「ポアリちゃんがいないんだけど」
だが、アクアは焦る事はなく、こう言う。
「まったく、地図持っている奴が迷子かよ」
「山で迷子とかヤバいんじゃない?大丈夫かな?」
「大丈夫だろ、アーノルドもいるし」
(確かに私は迷子だったけれど、君達も迷子だからね……)
そう思いながら、彼らを眺める。
「そうだ、ポアリがいないのなら今渡すか。はい、薬」
「あっ、うん。ありがとう」
アクアは薬の入った小瓶を大河に渡し、大河はそれを受け取る。
「これは黒?」
「本当に薬貰っていたんだね」
副会長と書記は、困惑した顔でアクアたちのやり取りを見ていた。
現行犯。
本当はすぐに出て行って、二人を連行し、事情聴取したい。
そう思い、立ち上がろうとすると、会計が自分を押さえる。
「何の薬か分からないから、まだ泳がすべきだろう」
そう言う彼の家は、実は薬屋らしい。
大河にアクアは、淡々と言う。
「あまり飲み過ぎると、酷くなるから気を付けないと、副作用とか」
「分かってはいるんだけれど、飲まないと辛くて……」
『大河君、少しずつ頑張りましょう。絶対よくなりますからね』
セゾンが大河を励まし、応援する。
すると、セゾンが出てきたので思いついたのだろう。
アクアはセゾンに言う。
「そうだ、セゾン。この山の地図出して、ナビゲートしてくれよ」
「えっ、ポアリちゃんは?見捨てる気?」
大河は戸惑い、声を漏らす。
「大丈夫だ、アーノルドがいるし」
「そうだね、アーノルドさんがいるし」
二人の中で、私よりもアーノルドの好感度が高いと実感する。
同時に、寂しくなった。
『本当はアクア君に、頑張って達成してほしいんだけど』
セゾンは少々、困った声を出したがアクアは即答する。
「無理、頑張れない」
『そっかー』
セゾンも速攻諦め、地図をホログラムで二人の目の前の空間に出す。
その地図は物凄く精密で、細かい道から、現在地まで、全部描かれている。
「すげぇ、いいじゃん」
「僕、地図とか見るのが苦手なんだけど。これは凄いよく分かる」
学園から受け取った物が、このくらい出来が良かったら、迷子にならなかったのにと、そう思った。
ただ、セゾンの光の球は、転生者とその使い魔しか見えないので、生徒会メンバーが騒めいた。
「二人共、絶対やってるよ」
「幻覚を見始めて、しかもそれと話し始めたら、もう終わりだよね」
「だな……治癒の泉で駄目になった頭が治ればいいのだが……」
副会長、書記、会計はお互い顔を見渡している。
私もアーノルドと話す際は、気を付けなければならないかもしれない。
「そういえば、三人は何でここに?私の事を心配してついてきた訳ではないでしょ?」
後、気になっていた事があったので、三人に訊く。
「「僕達は、心配してきた」」
「二人共、ストーカーって知ってる?」
案の定、副会長と書記はそう答える。
「いや、本当は違う。二人も俺もついでだ」
「ついでって、何の?」
自分は会計に訊ねる。
「ポアリは転校生だから知らないかもしれないが、このイベントは……」
会計は、このイベントの説明をする。
「よし、出発だ!」
アクアがそう言い、山道を歩き出すと、絶妙なバランスで突き出た枝を踏んだ。
「うわぁぁっ!」
すると、木の葉で隠れた網が現れ、たまたまそこにいた大河が大木の枝に、つるし上げられた。
「ペアになった二年生が一年生を絶対、泉に行かせないようにするイベントなんだ」
「えぇ――」
驚いたというか、戸惑ったというか、引いたというか、色々な感情が混ざる。
「因みに、学園の伝統で二百年続いている歴史あるイベントだよ」
「僕達はペアの一年生を片してきて、その帰りだったんだけど。その道に大好きなポアリちゃんがいたんだよね」
副会長と書記はそう笑いながら言う。
「三人の一年生が犠牲になった訳か……」
「でも僕達も一年生の時、二年生にやられたからね」
悲しみの連鎖が二百年、学園の伝統として続いていた。
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