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 最終章『ハイキングだ!泉だ!これが愛の鞭だぁ!』③

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 遭難です。

 遭難でございます。

 そもそも、こんな滅茶苦茶な地図で、目的地に行くというのが無理な話で。

 皆の方を見ると、落ち葉を拾ったり、河原を覗いたりして、秋を堪能していた。

「なぁ、セゾン。どんぐりって食えんの?」

『アクア君、これは食べられないやつなので、やめましょうね』

「そんな食べてみなきゃ分からない。さあ、ゴリラご飯だぞ」

 アクアはセゾンから食べられないと言われているのに、大河に食べさそうとしている。

(道に迷ったなんて言えない……)

 何て言い訳しようか、言い訳したら、二人共怒るだろうか。

 自分は困ったように、その場を行ったり来たりしていると、草の茂みが微かに揺れた。

「ん?何かいる?」
 自分がそれに気がつき、その陰を覗き込むと、複数の人間の腕が出てきて、自分を引きずり込んだ。

「うわっ!」

「静かに――」

 茂みの中に転がり込むと、そこには見慣れた三人の男子生徒がいた。

「何だ、また君達か……」

 いつもの生徒会、三人組だった。

「「しーっ」」

 自分は状況を理解していないが、とりあえず空気を読んで黙る。

 そして、アクアと大河の様子を、彼らと同様に茂みの影から覗き込む。

「そうだ。そろそろ行かないと、日が暮れちゃうよ?ねっ、ポアリちゃ――あれ?」

 その後すぐ、大河が私に話しかけ、先程までいた場所の方を見る。

「どうした?」

 セゾンと話をしていたアクアも、大河が声を出した事で、それに気がついた。

「ポアリちゃんがいないんだけど」

 だが、アクアは焦る事はなく、こう言う。

「まったく、地図持っている奴が迷子かよ」

「山で迷子とかヤバいんじゃない?大丈夫かな?」

「大丈夫だろ、アーノルドもいるし」

(確かに私は迷子だったけれど、君達も迷子だからね……)

 そう思いながら、彼らを眺める。

「そうだ、ポアリがいないのなら今渡すか。はい、薬」

「あっ、うん。ありがとう」

 アクアは薬の入った小瓶を大河に渡し、大河はそれを受け取る。

「これは黒?」

「本当に薬貰っていたんだね」

 副会長と書記は、困惑した顔でアクアたちのやり取りを見ていた。

 現行犯。

 本当はすぐに出て行って、二人を連行し、事情聴取したい。

 そう思い、立ち上がろうとすると、会計が自分を押さえる。

「何の薬か分からないから、まだ泳がすべきだろう」

 そう言う彼の家は、実は薬屋らしい。

 大河にアクアは、淡々と言う。

「あまり飲み過ぎると、酷くなるから気を付けないと、副作用とか」

「分かってはいるんだけれど、飲まないと辛くて……」

『大河君、少しずつ頑張りましょう。絶対よくなりますからね』

 セゾンが大河を励まし、応援する。

 すると、セゾンが出てきたので思いついたのだろう。

 アクアはセゾンに言う。

「そうだ、セゾン。この山の地図出して、ナビゲートしてくれよ」

「えっ、ポアリちゃんは?見捨てる気?」

 大河は戸惑い、声を漏らす。

「大丈夫だ、アーノルドがいるし」

「そうだね、アーノルドさんがいるし」

 二人の中で、私よりもアーノルドの好感度が高いと実感する。

 同時に、寂しくなった。

『本当はアクア君に、頑張って達成してほしいんだけど』

 セゾンは少々、困った声を出したがアクアは即答する。

「無理、頑張れない」

『そっかー』

 セゾンも速攻諦め、地図をホログラムで二人の目の前の空間に出す。

 その地図は物凄く精密で、細かい道から、現在地まで、全部描かれている。

「すげぇ、いいじゃん」

「僕、地図とか見るのが苦手なんだけど。これは凄いよく分かる」

 学園から受け取った物が、このくらい出来が良かったら、迷子にならなかったのにと、そう思った。

 ただ、セゾンの光の球は、転生者とその使い魔しか見えないので、生徒会メンバーが騒めいた。

「二人共、絶対やってるよ」

「幻覚を見始めて、しかもそれと話し始めたら、もう終わりだよね」

「だな……治癒の泉で駄目になった頭が治ればいいのだが……」

 副会長、書記、会計はお互い顔を見渡している。

 私もアーノルドと話す際は、気を付けなければならないかもしれない。

「そういえば、三人は何でここに?私の事を心配してついてきた訳ではないでしょ?」

 後、気になっていた事があったので、三人に訊く。

「「僕達は、心配してきた」」

「二人共、ストーカーって知ってる?」

 案の定、副会長と書記はそう答える。

「いや、本当は違う。二人も俺もついでだ」

「ついでって、何の?」

 自分は会計に訊ねる。

「ポアリは転校生だから知らないかもしれないが、このイベントは……」

 会計は、このイベントの説明をする。

「よし、出発だ!」

 アクアがそう言い、山道を歩き出すと、絶妙なバランスで突き出た枝を踏んだ。

「うわぁぁっ!」

 すると、木の葉で隠れた網が現れ、たまたまそこにいた大河が大木の枝に、つるし上げられた。

「ペアになった二年生が一年生を絶対、泉に行かせないようにするイベントなんだ」

「えぇ――」

 驚いたというか、戸惑ったというか、引いたというか、色々な感情が混ざる。

「因みに、学園の伝統で二百年続いている歴史あるイベントだよ」

「僕達はペアの一年生を片してきて、その帰りだったんだけど。その道に大好きなポアリちゃんがいたんだよね」

 副会長と書記はそう笑いながら言う。

「三人の一年生が犠牲になった訳か……」

「でも僕達も一年生の時、二年生にやられたからね」

 悲しみの連鎖が二百年、学園の伝統として続いていた。

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