「ラストオーダーのお時間ですけど、追加注文ございます?」
「皆、ラストオーダーだって!追加の飲み物頼む人は頼んじゃって」
店員が村雲にそう知らせに来て、彼は全員に届く声でその場に言うが、皆出来上がっており、話を聞いていない。
「とりあえず、生ビールとハイボールが十五個ずつで……後、お冷も同じ数……」
「お冷は三十で足りますかね……」
店員と冷めた目で周囲を見ている村雲。
という自分も結構出来上がっており、くだらない会話を永遠と城永としていた。
「ねぇ、漫画って、どんな感じのを描いてるの?」
「えー、内緒」
「えー、ずるい。話してくれるまで、こちょこちょの刑だ!」
そう言われ、くすぐられ、悶えている自分は、完全に出来上がっていた。
「ふふふ、どうだ参ったか!」
村雲にはどう見えていたかは不明だが、凄く幸せだった。
「ほらほら、二人共お冷持ってきたよ」
「あー、ありがとう」
自分が村雲から水を受け取った時、酔っている為か、隣にいた城永の足にかかる。
「あっ、ごめん」
テーブルに水の入ったジョッキを置き、ハンカチをズボンから取り出した。
「よかったら、これ」
「別に気にしなくてもいいからね。少し濡れただけだし……」
彼はそう言いながらも、ハンカチを受け取り、濡れた部分に当てる。
「村雲、僕もお冷貰っていい?」
「はい、どうぞ」
村雲から水を受け取り、それを一気飲みする城永を真横で眺める。
ゴクゴクと水が喉を通るたびに、喉仏が動き、それがとても色っぽい。
(やっぱり、綺麗だな……)
小学生の頃から、女子や母親たちから、美少年と言われていたが、やはり大人になっても美形だ。
しかも、結婚して、子供もいる為、属性が追加されていて、色気が出ている。
(うわぁ、感動する……来てよかった……)
今度の漫画のネタは、人妻で決まりだ。
(勿論、首に噛み跡も付ける)
「ん?何?」
彼が自分の視線に気がつき、声を出した。
「いや、別に……」
視線を逸らす。
そして、それを誤魔化すように、近くにあったジョッキを一気飲みする。
すると、頭にアルコールが上り、クラクラと視界が回り出した。
「それ志摩が飲んでいた焼酎のソーダ割りじゃない?」
村雲がそう言うがもう遅く、自分は真後ろに倒れ、意識を手放す。
*
「二次会行こうぜ!」
「二次会いいね!」
村雲は二次会をセッティングしていないらしく、更に飲みに行きたい人は個人でお任せスタイルだった。
「煙草、煙草――」
志摩は煙草が吸いたくてたまらなく、会計を済ませ、居酒屋の前で速攻煙草を咥えた。
ライターで火を付け、一息。
「ふぅ――」
そんな中、一人のオメガの男性が志摩に声をかけてきた。
そのオメガは、志摩と一緒にカラオケをした同級生の一人なのだが、両目尻に涙ボクロがある。
「ねぇ、志摩。この後、飲み行くの?」
それは甘えた猫のようで、近づいてきて、胸や腕に小柄な体や頬、頭をすり寄せてくる。
「行かないけど、何で聞くんだ?」
「分かってるくせに――可愛い」
そう言い、志摩の手を取り、指を甘噛みする。
(あー、漆こういうの好きそう)
そして数秒、指を吸ったり、舌を絡ませた後、口を離した。
唾液が線を引く。
「皆で騒ぐのが嫌なら、二人で静かに飲める店に行こうよ」
「いや、漆と帰るから」
そう即答するが、彼も負けられないと思ったのか、引かない。
「じゃあ、漆君も一緒ならいいじゃない?」
「うーん、どうだろう。漆、確か用事があったから――」
周囲を見渡すが、漆の姿が見当たらない。
「あれ?」
志摩は先程まで一緒に居たであろう村雲に話しかける。
「村雲、漆が何所にいるか知らないか?」
「えっ?さっきまで、城永が介抱していたけど……」
村雲も驚いた顔をし、周囲を見渡した。
城永の姿も、その場に無い為、二人でどこかに移動したのだろうとの事だ。
「じゃあ、二人で飲み直そうよ。ね、ね?」
(どうしよう、家に戻っても会えないだろうし……)
志摩は眉間にしわを寄せ、険しい顔をしていると、村雲が言う。
「じゃあ、二人共。うちに来なさいよ。サービスするわよ」
「えー、二人きりが良かったんだけど……」
隣のオメガはそう言うが、志摩が村雲の店に行く事になった。
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