夕闇の教室で幼馴染に、自分の事どう思っているか訊いた。
「私は大河の事、嫌いじゃないけど、好きでもない」
「僕はヒカリちゃんの事、好きだよ」
自分は沢山、彼女の良いところを知っている。
「私は好きじゃない」
彼女の事を理解できるのは自分だけだ。
「もしこれ以上、土足でズカズカと踏み込んでくるつもりなら、もう一緒にいれないからね」
そう言われた日、お互い別々に帰った。
その日『歩有』が交通事故で死んだ。
幼馴染だったから、お通夜に出た。
そこにはヒカリの姿もあり、話しかけようとすると、彼女は自分に気がつき、近づいてきた。そして、殴られた。
ヒカリは拳で何度も殴った。
この時初めて、自分は気がついた。
ヒカリは自分が綺麗だって、お姫様みたいに愛でていたのが、ずっと嫌だったって事。
男を拳で殴るという事は、多分ヒカリは彼女の心は男の子だった。
それは物心ついた時からで、ヒカリは歩有の事が好きだったんだって。
歩有がいなくなって、ヒカリに殴られて。
自分は自分というものの、存在意義が分からなくなって。
【歩有じゃなくて、自分が死ねばよかったのに】
掌に置かれた数個の錠剤を目にする。
うつ病になった。後、眠れなくなった。
薬の効果が切れたら、動悸が止まらなくなる。
その後、ヒカリは高校を中退してしまった。
自分は通えているが、学校を休む日が多くなった。
「もう、死のう……」
そう呟き、自分の部屋の窓を開ける。
自分の家はマンションの三階なので、死ねないかもしれない。
でも、僕が怪我したら、ヒカリは喜んでくれる。
「でも、怖いから。ご飯を食べてからにしよう……」
呼吸を整え、カップ麺を棚から取り、ポットでお湯を注ぐ。
すると、足元に魔法陣のようなものが現れる。
「えっ?」
そして、見慣れない景色が見えた。
皆、制服を着ているので、ここは学校だとすぐに分かった。
ただ、その生徒達の髪は赤毛、銀髪、金髪で、皆日本人ではないようだ。
その中で一人だけ、日本人のような容姿の子が一人。
肩くらいの黒髪、茶色く丸い瞳、低い鼻、丸い輪郭の庶民的な表情が特徴の少女だった。
運命かは分からないけれど、その子と一緒にいなければいけないという使命感があった。
まぁ、使い魔として召喚された影響だと思うが。
「私は大河君が自分の使い魔だとしても、甘やかしません。絶対!」
「大河君、大事だから落とさないようにね」
「大河君!」
優しくされると、名前を純粋そうに呼ばれると、死にたくなる。
(君が思っている人間じゃないんだよ……)
でも、それでも大事にしてくれた。
それが歩有の姿と重なる。
そんな中、病気が悪化して、アーノルドに頼もうと思ったが、バレるかもしれないので、セゾンに頼んで同じ成分のものを用意してもらった。
(でも、今思うと、内緒にする必要はなかったんじゃないかな)
彼女なら気にしないと言うだろうし、普通に心配はするかもしれないけれど、軽蔑したりはしないはずだ。
スライムの中で目を開けると、理事長と彼女が話をしているのが見えた。
理事長は自分を指差している。
彼女は首を横に振り、一生懸命何かを考えているようだ。
(あっ、そうだ。願い事……)
本当は歩有を生き返らせて、ヒカリにまた人生を頑張ってもらおうと思っていたけれど。
(二人共、ごめんね……いつもわがままで、自分勝手で……)
ヒカリはどうか分からないけれど、歩有なら許してくれるはずだ。
そう思った。
自分は願う。
この場を脱する力だ欲しいと、ポアリを助けられるようになりたいと。
すると、アクアがくれた万年筆が光り輝きだした。
混濁する意識の中で、それをズボンのポケットから出し、かざす。
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