スポンサーリンク

 最終章『ハイキングだ!泉だ!これが愛の鞭だぁ!』⑥

スポンサーリンク

 夕闇の教室で幼馴染に、自分の事どう思っているか訊いた。

「私は大河の事、嫌いじゃないけど、好きでもない」

「僕はヒカリちゃんの事、好きだよ」

 自分は沢山、彼女の良いところを知っている。

「私は好きじゃない」

 彼女の事を理解できるのは自分だけだ。

「もしこれ以上、土足でズカズカと踏み込んでくるつもりなら、もう一緒にいれないからね」

 そう言われた日、お互い別々に帰った。

 その日『歩有』が交通事故で死んだ。

 幼馴染だったから、お通夜に出た。

 そこにはヒカリの姿もあり、話しかけようとすると、彼女は自分に気がつき、近づいてきた。そして、殴られた。

 ヒカリは拳で何度も殴った。

 この時初めて、自分は気がついた。

 ヒカリは自分が綺麗だって、お姫様みたいに愛でていたのが、ずっと嫌だったって事。

 男を拳で殴るという事は、多分ヒカリは彼女の心は男の子だった。

 それは物心ついた時からで、ヒカリは歩有の事が好きだったんだって。

 歩有がいなくなって、ヒカリに殴られて。

 自分は自分というものの、存在意義が分からなくなって。

【歩有じゃなくて、自分が死ねばよかったのに】

 掌に置かれた数個の錠剤を目にする。

 うつ病になった。後、眠れなくなった。

 薬の効果が切れたら、動悸が止まらなくなる。

 その後、ヒカリは高校を中退してしまった。

 自分は通えているが、学校を休む日が多くなった。

「もう、死のう……」

 そう呟き、自分の部屋の窓を開ける。

 自分の家はマンションの三階なので、死ねないかもしれない。

 でも、僕が怪我したら、ヒカリは喜んでくれる。

「でも、怖いから。ご飯を食べてからにしよう……」

 呼吸を整え、カップ麺を棚から取り、ポットでお湯を注ぐ。

 すると、足元に魔法陣のようなものが現れる。

「えっ?」

 そして、見慣れない景色が見えた。

 皆、制服を着ているので、ここは学校だとすぐに分かった。

 ただ、その生徒達の髪は赤毛、銀髪、金髪で、皆日本人ではないようだ。

 その中で一人だけ、日本人のような容姿の子が一人。

 肩くらいの黒髪、茶色く丸い瞳、低い鼻、丸い輪郭の庶民的な表情が特徴の少女だった。

 運命かは分からないけれど、その子と一緒にいなければいけないという使命感があった。

 まぁ、使い魔として召喚された影響だと思うが。

「私は大河君が自分の使い魔だとしても、甘やかしません。絶対!」

「大河君、大事だから落とさないようにね」

「大河君!」

 優しくされると、名前を純粋そうに呼ばれると、死にたくなる。

(君が思っている人間じゃないんだよ……)

 でも、それでも大事にしてくれた。

 それが歩有の姿と重なる。

 そんな中、病気が悪化して、アーノルドに頼もうと思ったが、バレるかもしれないので、セゾンに頼んで同じ成分のものを用意してもらった。

(でも、今思うと、内緒にする必要はなかったんじゃないかな)

 彼女なら気にしないと言うだろうし、普通に心配はするかもしれないけれど、軽蔑したりはしないはずだ。

 スライムの中で目を開けると、理事長と彼女が話をしているのが見えた。

 理事長は自分を指差している。

 彼女は首を横に振り、一生懸命何かを考えているようだ。

(あっ、そうだ。願い事……)

 本当は歩有を生き返らせて、ヒカリにまた人生を頑張ってもらおうと思っていたけれど。

(二人共、ごめんね……いつもわがままで、自分勝手で……)

 ヒカリはどうか分からないけれど、歩有なら許してくれるはずだ。

 そう思った。

 自分は願う。

 この場を脱する力だ欲しいと、ポアリを助けられるようになりたいと。

 すると、アクアがくれた万年筆が光り輝きだした。

 混濁する意識の中で、それをズボンのポケットから出し、かざす。

コメント

タイトルとURLをコピーしました