友人と会う際、その友人の家には出向いてはいけない。
誰かに聞いた話だ。
路面電車を降りると、アスファルトの熱が自分をジリジリ焼く。
東京は雨ばかりの時期が終わったばかりで、からっとした初夏の風が、自分とその旅路を見送った。
それが昨日の話。
(何だよ。急な猛暑って……)
自分は昔から運が悪く、こういうのをよく引く。
『えぇ、こんな時にこれが来ちゃう?』
そういう事ばかりだ。
(考えても仕方がなし……)
そう思いながら、肩からかけている鞄から手描きの地図を取り出し、周囲を眺める。
建物は少々古めかしいのに、歩いている人間は東京都と変わらない。
タイムスリップしてきたというよりは、別世界パラレルワールドにでも、迷い込んだような感覚だ。
そして都会でも田舎でも、ギャルはギャル、髪はカラフルに染められ、つけまつげで目元を盛っている。
(毎度思うが。すっぴんは、どんな顔なのだろうか……)
派手な恰好の女子を見て、そう思う。
横断歩道を渡り、少し歩いていると、素朴な高校生が話しかけてきた。
地図と道を見比べていた為、観光客だと気がついたのだろう。
「ここの孤児院は分からないけれど、近くの自然公園なら分かりますよ。あそこの道を真っ直ぐ行って……」
話をしているのは、自分と同じベータの少年で、しっかりとした口調の少年だった。
思春期特有の肌荒れ、声変り途中の掠れた声がとても和む。
「ありがとう、助かるよ」
そう挨拶をすると、彼の友人だろうか、童顔で小柄の少年が声をかけてきた。
道を教えてくれた彼と同じ学ランを着ており、自分の事を睨みつけてくる。
見ただけで分かる。睨んでいる彼はオメガだ。
自分は一人のオメガを思い出し、息を飲む。
「ねぇ、このおじさん。大丈夫な人?舐め回すような目で見てたけど……」
「失礼だよ……そんなんじゃないって……」
しっかり者の彼は困った顔をしながら、自分にその事を謝ってきた。
「すみません。僕の幼馴染なんですけど、少しヒステリーで……」
その言葉に腹を立てたのか、オメガの少年は彼の足をガシガシと蹴る。
「痛いって……」
「君は警戒しなさすぎなんだよ!もう!僕の気も知らないでぇ!」
そう言い、そのオメガの少年は、しっかり者の彼の腕を引っ張り、帰路へ戻っていった。
(君は自分のようになるなよ……)
仲良く帰り道を歩いている男子の背中を眺めながら、そう思った。
オメガとベータの恋愛は報われない。
それはこの世界、全人類、皆分かっているはずだ。
自分の経験は特殊だったけれど、記憶の彼は尊く、振舞いが一つ一つ清く、美しい。
真っ直ぐな髪は木炭のように黒く、瞳は混血児らしく、灰色で、幼さが抜けない顔や表情がとても美しい。
(初めて会った日も、こんな日だったっけ?)
日差しが自分の肌を焼く。
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