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 第六章『愛』④

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 その時は意外と早く来た。

 インターホンが鬼のように鳴り、それに志摩が出る。

「はい、どなたですか?」

 そこには志摩と同じくらいの身長で手足の長い、眼鏡をかけたアルファの男性がいた。

 顔は整っているが、眼鏡の下の眉間にしわが寄っており、目つきも鋭い。

(典型的な神経質って感じの人だ)

 志摩はそう思うが、動じない。

「あの、何ですか?」

「小学生の男子とオメガの男が来てるだろ」

「は?何です?」

 志摩は白々しく、その質問に惚けた返事をした。

「お前、真白の新しい恋人だろ?」

「は?誰です?」

「惚けんな!こっちはGPSで、居場所は分かるんだ!」

 志摩は溜息を吐き、城永の元夫に対し、飽きれた表情をする。

「GPSって高さまでは分からないでしょ?別の階の人かもしれなくないですか?」

「ここ以外の階には聞いてきたんだよ!」

(そう言えばここ、このマンションで最上階だったもんな……)

 三階建てという、小さく低い建物のマンションだが、実はそうである。

 そう言い、志摩の胸倉を掴む城永の元夫だったが、そこに演技をした肇がやってくる。

「どうしたの?遅いから心配して――」

「いや、この人何か勘違いしているみたいでさ――」

 そう志摩が肇に言う。

 元夫は肇の姿を上から下まで見て、契約済みのオメガだというのを確認する。

 それで怒りのボルテージが少し下がったのか、少し落ち着いた様子で理性的に会話をしてきた。

「すまない。突然怒鳴ってしまって……子供を匿っているだろ?その子の父親だ。携帯のGPSがここになっていたから、その誘拐されたのだと……」

 すると、肇は何かを思い出したように声を出す。

「あっ、あれかもしれない。実はさっき買い物した時に、子供用の携帯を拾って――」

 肇はリビングに戻り、アオイ少年の携帯を持ち出し、再び玄関に移動する。

「交番に後で届けようと思っていたんですけど、買ったものを冷蔵庫にしまっていたら、これの事忘れちゃって……」

 そして、肇は城永の元夫に手渡す。

「すみません。なんか――」

「いえいえ、こちらこそ、早く交番に届ければよかったなーって」

 そう肇は笑い、目の前のアルファに一言。

「いやぁ、早くお子さん見つかるといいですね」

 そう言い、志摩が扉を閉めようとした時、彼が言った。

「おい、待て」

 志摩と肇は驚き、扉を閉めようとする手を止めた。

「やっぱり、匿っているだろ」

 彼の手には、アオイ少年の携帯がある。

 そこに写されたホーム画面には、アオイ少年と志摩のツーショットがあった。

((あのガキ……))

 志摩と肇は、その時そう思ったという。

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