その時は意外と早く来た。
インターホンが鬼のように鳴り、それに志摩が出る。
「はい、どなたですか?」
そこには志摩と同じくらいの身長で手足の長い、眼鏡をかけたアルファの男性がいた。
顔は整っているが、眼鏡の下の眉間にしわが寄っており、目つきも鋭い。
(典型的な神経質って感じの人だ)
志摩はそう思うが、動じない。
「あの、何ですか?」
「小学生の男子とオメガの男が来てるだろ」
「は?何です?」
志摩は白々しく、その質問に惚けた返事をした。
「お前、真白の新しい恋人だろ?」
「は?誰です?」
「惚けんな!こっちはGPSで、居場所は分かるんだ!」
志摩は溜息を吐き、城永の元夫に対し、飽きれた表情をする。
「GPSって高さまでは分からないでしょ?別の階の人かもしれなくないですか?」
「ここ以外の階には聞いてきたんだよ!」
(そう言えばここ、このマンションで最上階だったもんな……)
三階建てという、小さく低い建物のマンションだが、実はそうである。
そう言い、志摩の胸倉を掴む城永の元夫だったが、そこに演技をした肇がやってくる。
「どうしたの?遅いから心配して――」
「いや、この人何か勘違いしているみたいでさ――」
そう志摩が肇に言う。
元夫は肇の姿を上から下まで見て、契約済みのオメガだというのを確認する。
それで怒りのボルテージが少し下がったのか、少し落ち着いた様子で理性的に会話をしてきた。
「すまない。突然怒鳴ってしまって……子供を匿っているだろ?その子の父親だ。携帯のGPSがここになっていたから、その誘拐されたのだと……」
すると、肇は何かを思い出したように声を出す。
「あっ、あれかもしれない。実はさっき買い物した時に、子供用の携帯を拾って――」
肇はリビングに戻り、アオイ少年の携帯を持ち出し、再び玄関に移動する。
「交番に後で届けようと思っていたんですけど、買ったものを冷蔵庫にしまっていたら、これの事忘れちゃって……」
そして、肇は城永の元夫に手渡す。
「すみません。なんか――」
「いえいえ、こちらこそ、早く交番に届ければよかったなーって」
そう肇は笑い、目の前のアルファに一言。
「いやぁ、早くお子さん見つかるといいですね」
そう言い、志摩が扉を閉めようとした時、彼が言った。
「おい、待て」
志摩と肇は驚き、扉を閉めようとする手を止めた。
「やっぱり、匿っているだろ」
彼の手には、アオイ少年の携帯がある。
そこに写されたホーム画面には、アオイ少年と志摩のツーショットがあった。
((あのガキ……))
志摩と肇は、その時そう思ったという。

コメント