「アオイ君は、城永君と同じでオメガなんだね?」
態度がツンツンしていた為、勝手にアルファだと思い込んでいたが、単純に性格というか、個性らしい。
「まぁ、元旦那もアルファ同士の夫婦って訳ではないから、それに関して理解あるけど。それ以外の問題がね……」
踏み込んだ話は子供の前でしにくいだろう。
流石にそれは城永も同じだったようで、彼は自身の息子に別の話題を振る。
「そうそう、アオイ。実はこのおじさん、漫画家さんなんだよ」
自分は、口に含んだコーヒーを噴出しそうになった。
「ちょっと、城永君!」
「いいじゃん。少しフィルターかけちゃえば」
彼はそう言い、揶揄うように笑う。
「そうなんだ。漫画とか詳しくないけど、どういうの描いてるの?」
ツンデレの少年が、少しでも自分に興味を持ってくれた事は嬉しいが、どう隠せばいい。
自分が今連載しているのは、エロ漫画。
ラッキースケベとかではなく、ガッツリ内容が濃い、アダルト作品だ。
「大人向けの――女の子多めの――」
「オタク向けのやつ?」
アオイ少年がそう訊ねてきた。
実際、間違いではないので、肯定するが、罪悪感からか彼と視線を合わせられない。
「あっ、そんな感じです――」
子供に対してだというのに、敬語になる。
「じゃあ、僕分からない」
自分は安堵していたが、事件が起こった。
(よかった。これで解放される……)
「ペンネームでやってるの?本名で検索すれば出てくる感じ?」
アオイ少年は、自分の携帯電話を取り出し、インターネットに繋げる。
その時、自己紹介で自分の名前を言ってしまった事、ペンネームではなく、本名で漫画を描いている事を後悔した。
「ちょっと、恥ずかしいから!」
慌てて彼を止めようとするが、アオイは何が恥ずかしいのという顔をする。
「えっ?何で?」
アオイ少年は結構、マセガキだった。
低学年の口から、そういう言葉が出てくるとは思わない。
すると、女性の声がすぐ傍から聞こえる。
「あの、すみません」
声のほうを見ると、そこには料理を積んだカートを運んできたファミレス店員が、困った顔で自分達を見ていた。
「注文のものを、お持ちいたしました」
彼女はそう言い、困った表情のまま、料理をテーブルの上に置く。
(ナイスタイミングだ……)
これは、奇跡と言ってもいい。
アオイ少年の興味はやってきたハンバーグに行き、自分は地獄のような空間から解放される。
最後に自分の前にステーキが置かれ、ニンニクと醤油の焼けた匂いが香ばしい。
「注文の品は全部でしょうか?追加があれば、またお呼びください」
彼女はそう言い、注文伝票をテーブルの上に置いた。
(ステーキがあったから注文しちゃったけど、胃もたれしちゃうかな……)
もう若くないのに、体の事を考えなかったなと、ステーキを前に思う。
すると、ハンバーグが目の前にあるのに、自分のステーキに釘付けな少年が目に入る。
「もしよかったら、おじさんのステーキ、何切かあげようか?」
自分は気を回して話したのだが、少年はその瞬間、緩んだ顔から警戒した顔に戻ってしまう。
「いらない」
そして、そう冷たい言葉を口にした。
「そんな言い方しない。失礼でしょ?春島君、ごめんね。普段はこういう子じゃないんだけど――」
城永がそう軽く叱ると、少年はそっぽを向く。
「いいよ。気にしないで――自分、一人っ子だし、親戚の子とも会う事滅多にないからさ。距離感とか、下手なの自覚してるから」
自分はこの場にいていいのだろうか。
そうずっと思っている。
アオイ少年は、久しぶりの親との時間に、何者か知らない奴が入っているのだから、当たり前の話。
アオイ少年の事を考えたら、食事を取ったら、自分は帰るべきだろう。
(ご飯食べたら、自分はお暇しよう……)
(にしても、アオイ君――)
可愛い。
社交性に関しては、幼少期の城永の方が優れていたのかもしれないが、こう少し冷めているというか、ツンデレ的な雰囲気も魅力的だ。
(次の原稿は、ツンデレ属性のオメガしょたで決まりだ――)
エロ漫画家で良かったところは、自分の趣味や描きたい題材に理解があるところだ。
(勿論、そのままアオイ君を描きませんよ。あくまで、題材を思いついただけで――)
平常心からか、本能的に首を横に振る。
(後、ファミレス店員も描いてもいいなぁ)
ファミレス店員のフリフリした制服が自分の好奇心を刺激するのだった。
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