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 第五章『陽キャ』⑤

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 食事を終えた後、お会計を済ませる為に、三人でレジに向かう。

「いいよ。折角だから奢るよ」

 その際、城永が自分の分もお会計しようとした為、自分がそう提案をした。

「で、でも――なんか悪いし……この間も遊園地のチケットも奢ってもらったし」

「いいよ。あれは貰い物だから――」

 そう言うと、アオイ少年の興味が自分達ではなく、別の方向に向いているのが、気になった。

 視線を向けると、そこはレジ付近にある玩具コーナーで、面白おかしいものや、食玩、ぬいぐるみが置かれていた。

「城永君、ちょっと待って」

 城永との会話を切り上げ、アオイ少年に近づき、彼に声をかける。

「アオイ君、欲しいものある?おじさんが買ってあげようか?」

「いい。いらない」

 話しかけると、相変わらず彼は塩対応で、そっけない返事をする。

 だが彼の視線は、自分の背丈くらいの高さに展示してある、車のラジコンに釘付け状態だった。

「これが気になってるの?」

 そう言い、そのラジコンを手に取る。

「ち、違うもん!見ていただけだもん!」

 彼はそう言うが、顔が真っ赤に染まっており、自身が思っている事を見透かされ、照れているようだと感じる。

(図星って感じだな……)

 自分はそのラジコンを伝票と一緒にレジ係に渡し、お会計を済ませる。

「いい!いらない!」

 アオイ少年はそう言うが、自分が会計を済ませたラジコンを目の前に差し出すと、父親である城永をチラチラと確認した。

「貰ったら?買ってもらったんだから」

 城永がそう言うと、彼はそのラジコンを受け取り、一言だけ口にする。

「ありがとう――」

 それはかなり小さい声で、自分は小鳥のさえずりのようだと思った。

(可愛いな……)

 何故、こんなに愛おしいのだろう。

 最初、この子に会うのをためらっていたが、会ってよかったのかもしれないと思い始める。

 ラジコンを買ってもらった彼は、とても機嫌が良かった。

「本当にありがとうね」

 ファミレスを出る時、アオイ少年はそう言い、自分の手を握ってくる。

 小さい手、小さい声、幼い頃の城永と顔は一緒なのに、性格が反対の彼にとてもワクワクした感情を向けた。

 彼は大人しめな笑みを浮かべ、歩いている。

 そして、自分に言った。

「ねぇ、おじさん。僕がラジコンを動かすところみたいでしょ?」

 ずっと警戒した顔だったから、自分はとても嬉しく感じる。

「うん、そうだね」

 笑みを作り、そう返事するとアオイ少年は言う。

「今度会う時、このラジコン持ってくるから、一緒に遊ぼうよ」

 その言葉で実感する。

 彼はやっと自分に心を開いてくれたのだと。

(あー、よかった。今日、この子と出会って)

 自分は彼の横顔をこまめに確認しながら、ゆっくり歩く。

「これからどうする?」

 城永がそう言い、アオイ少年と繋いでいる手の反対の腕を組んでくる。

「いや、アオイ君も城永君と二人で、色々遊びたいだろうし、自分はもう帰るよ」

 そう言うと、アオイ少年ではなく、城永の方が別れを惜しむ声を出した。

「えー、自分はまだ春島君と一緒にいたい」

「また、会えるよ。締め切り前だったら困るけど、それ以外なら大丈夫だから」

 三人で歩いて最寄り駅まで向かう。

 自分はまだ結婚した事が無い為、こう子供と手を繋ぎ、パートナーが隣にいるという感覚がとても新鮮だった。

(運命の人と結ばれて、子供が生まれたら、こういうものなのだろうか)

 とても幸せな時間だった。

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