食事を終えた後、お会計を済ませる為に、三人でレジに向かう。
「いいよ。折角だから奢るよ」
その際、城永が自分の分もお会計しようとした為、自分がそう提案をした。
「で、でも――なんか悪いし……この間も遊園地のチケットも奢ってもらったし」
「いいよ。あれは貰い物だから――」
そう言うと、アオイ少年の興味が自分達ではなく、別の方向に向いているのが、気になった。
視線を向けると、そこはレジ付近にある玩具コーナーで、面白おかしいものや、食玩、ぬいぐるみが置かれていた。
「城永君、ちょっと待って」
城永との会話を切り上げ、アオイ少年に近づき、彼に声をかける。
「アオイ君、欲しいものある?おじさんが買ってあげようか?」
「いい。いらない」
話しかけると、相変わらず彼は塩対応で、そっけない返事をする。
だが彼の視線は、自分の背丈くらいの高さに展示してある、車のラジコンに釘付け状態だった。
「これが気になってるの?」
そう言い、そのラジコンを手に取る。
「ち、違うもん!見ていただけだもん!」
彼はそう言うが、顔が真っ赤に染まっており、自身が思っている事を見透かされ、照れているようだと感じる。
(図星って感じだな……)
自分はそのラジコンを伝票と一緒にレジ係に渡し、お会計を済ませる。
「いい!いらない!」
アオイ少年はそう言うが、自分が会計を済ませたラジコンを目の前に差し出すと、父親である城永をチラチラと確認した。
「貰ったら?買ってもらったんだから」
城永がそう言うと、彼はそのラジコンを受け取り、一言だけ口にする。
「ありがとう――」
それはかなり小さい声で、自分は小鳥のさえずりのようだと思った。
(可愛いな……)
何故、こんなに愛おしいのだろう。
最初、この子に会うのをためらっていたが、会ってよかったのかもしれないと思い始める。
ラジコンを買ってもらった彼は、とても機嫌が良かった。
「本当にありがとうね」
ファミレスを出る時、アオイ少年はそう言い、自分の手を握ってくる。
小さい手、小さい声、幼い頃の城永と顔は一緒なのに、性格が反対の彼にとてもワクワクした感情を向けた。
彼は大人しめな笑みを浮かべ、歩いている。
そして、自分に言った。
「ねぇ、おじさん。僕がラジコンを動かすところみたいでしょ?」
ずっと警戒した顔だったから、自分はとても嬉しく感じる。
「うん、そうだね」
笑みを作り、そう返事するとアオイ少年は言う。
「今度会う時、このラジコン持ってくるから、一緒に遊ぼうよ」
その言葉で実感する。
彼はやっと自分に心を開いてくれたのだと。
(あー、よかった。今日、この子と出会って)
自分は彼の横顔をこまめに確認しながら、ゆっくり歩く。
「これからどうする?」
城永がそう言い、アオイ少年と繋いでいる手の反対の腕を組んでくる。
「いや、アオイ君も城永君と二人で、色々遊びたいだろうし、自分はもう帰るよ」
そう言うと、アオイ少年ではなく、城永の方が別れを惜しむ声を出した。
「えー、自分はまだ春島君と一緒にいたい」
「また、会えるよ。締め切り前だったら困るけど、それ以外なら大丈夫だから」
三人で歩いて最寄り駅まで向かう。
自分はまだ結婚した事が無い為、こう子供と手を繋ぎ、パートナーが隣にいるという感覚がとても新鮮だった。
(運命の人と結ばれて、子供が生まれたら、こういうものなのだろうか)
とても幸せな時間だった。
コメント