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 第二章『好きな人』①

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「志摩、ここって高い店なんじゃ……」

「ん?」

 お洒落な店というのは、外観から高級感があるものだ。

 西洋をイメージしたのか、赤茶色のレンガ、看板は外には出さず、入り口前には薄桃色の薔薇が植えてある。

 そう、自分は原稿代行してもらったお礼を午後から行く事になっており、志摩が買ってきたプリンの店なら味に文句ないだろうと、やってきた。

『店名とか知らない。何か、入り口に花が植えてある』

 だが、志摩は店名を一切覚えておらず、説明もよく分からなかった。

 本当に仕方がないので、志摩の休憩時間に待ち合わせをし、お菓子を買いにきたのだ。

 店内に入ると、ドアベルが鳴る。

 洋菓子特有の生クリームと洋酒の心地よい香りが鼻を通り抜けた。

「「「いらっしゃいませ」」」

 店員の声もとても爽やかで、心地いい。

 女の子と混じり、一人オメガの男の子を発見し、心躍る。

「借りている作業場は、冷蔵庫ある気がするけど、焼き菓子の方がいいよね」

「いいんじゃね?この詰め合わせセットで」

「適当言わないでよ……」

 そう会話しながら、その店員の男子を見る。

 茶髪に染められた髪が、少し巻き毛で、大きな瞳が愛らしい。

「お前、チョコブラウニー好きだったよな」

 その子はそんな志摩に、熱い視線を送っている。

「よし、これに決めた」

 自分の手土産を何故か志摩が決め、何故か二つカウンターに持っていく。

 そして、例の子がレジをし、財布からカードを取り出し、会計をする。

「あの、今日はプリンじゃないんですね……」

「今日はアイツのお土産を買いに。何でそんな事、訊くんだ?」

 志摩は自分に指を差す。

「えっと、その……き、気になって……」

 志摩は無表情のまま、紙袋に入れられたお菓子を二つ、彼から受け取ると、素っ気なく歩き出す。

「ま、また来てくださいね!」

 そんな彼に挨拶なく、自分のもとにやってきた。

「おまたせ」

「ちょ、ちょっと――お、お前――」

 レジにいる彼を慌てて確認すると、やはり悲しかったようで、寂しい犬のように、しゅんとしている。

「手だけでも振ってやれよ……」

「ん?こう?」

 状況が相変わらず読めないようで、志摩の体を無理やり彼のほうに向け、手を掴み、それっぽく上げる。

 すると、菓子屋の彼はそれが面白かったようで、ふわふわした笑みを浮かべる。

「よかったね」

 彼の隣の女子の声が微かに聞こえた。

 店の外に出て志摩に話しかける。

「お、お前――」

「何で怒ってるんだよ?」

 言わないと分からないと、志摩は本当に分かってないんだなと思わせる表情をした。

「…………」

「…………」

 しばらくお互い話さず、歩道を歩く。

 そして、大きな車道が見えた時、志摩が口を開いた。

「もしかして……俺がこのお菓子達を、家賃代わりにしようとした事だろうか……」

「それはそれで怒りそう……」

 とは言うが、紙袋を一つ受け取る。

 志摩が渡してこないもう一つの包みは、自宅用のものらしい。

「その……凄く言いにくいのだが……多分、あの子。お前に好意があると思うぞ」

「じゃあ、もうこの店に来るのをやめる」

 彼はそう言った。

「お前の言う事が、仮にそうだとしても、俺はあの子の事、そんな風に見てないから」

 確かに志摩の気持ちを考えてなかった。

「いや、くっ付けと言ってるんじゃなくて。冷たくするなって事だよ」

 自分は少し反省していると、志摩は言う。

「後、運命の人と会えば、自分もその子も一瞬で分かる」

 後、志摩がアルファだったって事を忘れていたのを反省する。

「お前がその運命の人に出会って、その空気が読めない所とか変わる事を願っているよ」

 そう言うと、彼は『そんなやつ、自分にはいらない』と言った。

「そろそろ、休憩時間終わるから。また家で」

「了解。お菓子ありがとう。後、家賃はちゃんと払え」

 彼は聞いていないのか、無言、無表情のまま、自分の職場へ向かって歩きだすのだった。

(全く……)

 彼が見えなくなった所で、担当編集に携帯から電話をかけ、待ち合わせ場所を確認する。

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