「よかったの?これで――」
リビングで、帰る準備をしている城永に話しかけると、彼は頷いた。
「いい、仕方がないし」
「そうか……」
元旦那が警察に連行された後、城永が彼の人生を少しだけ話してくれた。
城永の元旦那であるあの男性は、良家生まれのアルファで、子供の頃からチヤホヤされて育ったという。
城永は派遣で彼のいる会社で勤め、それが出会いで結婚、子供を授かるが、その後、彼がアルファ同士の派閥争いに負け、それがきっかけで精神がおかしくなっていった。
言葉も行動も正気じゃなくなり、それが城永や息子であるアオイ少年の、命の危機まで発展した為、離婚。
親権は本当なら状況的に、城永が持つのが正しいのだが、彼の両親が面倒を見るという事、所有していたマンションの一室や、財産を譲るという事で、話が纏まったという事。
「そっか――」
あの時、彼は自分を頼ってくれたはずだ。
SOSを出してくれたはずなのに、何もしてあげられなかった。
自分はその事を気にしていると、アオイ少年を抱っこしている志摩が言う。
「俺は他のアルファに負けても、精神はおかしくならないけどな」
それはお前が図太いからだと言葉にしようとすると、志摩が言う。
「もし負け犬になっても、漆は自分の味方してくれるし」
彼は自分が欲しい言葉を、いつも言ってくれる。
「でも、どうしようかな……この状況で、彼の両親に迷惑かけて、彼のマンションに戻れないし……」
城永は、そう呟く。
譲渡されているとはいえ、この状況でマンションに戻るのは気が引けるそうだった。
とういうか、また元旦那が押しかけ、二人を監禁する事もあるかもしれない。
そうなると、命の危険まで、可能性がある。
「ここに居候とかって、難しいよね?」
「そ、そうだね……」
余っていた部屋は志摩が使っている。
しかも、アオイ少年もいる為、人数的に難しいだろう。
「やましい気持ちとかじゃないよ。下心がない……というのは嘘になっちゃうかもだけど」
城永は、頬を赤らめる。
(城永君が自分を求めているのは、物凄く嬉しいけど……)
部屋が無いんだよなと思いながら、困っていると、志摩が言った。
「あるぞ。二人の部屋」
そう言い、志摩はその場を後にし、しばらくすると、リビングに戻ってきた。
志摩が手に持っていたのは鍵で、彼は城永とアオイ少年に言う。
「二人共、高い所は平気か?」
それは、志摩が購入したタワマンの鍵であった。
*
城永とアオイ少年を最寄り駅まで、三人で送り届けた。
その際、志摩が城永に伝える。
「冷蔵庫のものは痛んでいると思うから全部捨ててくれ、洗濯ものは洗っておいてくれ」
「借りる立場だし、文句を言うつもりはないけど、ゴミ系はしっかりしてよ」
そう言う城永は、志摩に感謝していたし、アオイ少年は、志摩と離れるのが嫌で泣いた。
(子供は可愛いな……部屋が空いていれば、全然住んでよかったんだけどな……)
自分は、そんなアオイ少年にほっこりする。
「バイバイ、元気でな」
自分とは真逆で、志摩はそれに対し、無表情で塩対応だったのだが。
二人を見送り、三人で帰路についていると、肇が自分に言う。
「あの、先生」
「ん?何?」
彼が自分に話しかけてきた為、返事をする。
「志摩からあの人と別れたって聞いたけど、本当?」
志摩は自分の個人情報を容赦なく、肇に話していた。
「おい弁護士、情報漏洩だぞ」
「お前の個人情報は、俺の個人情報だから」
お前の物は俺の物理論をやめてほしいところだが、注意する前に肇が言う。
「あの、今度のクリスマス。僕と一緒に過ごしてくれませんか!」
それはデートのお誘いだった。
「あ、えっと――」
「忙しいなら、断ってくれていいんだけど」
そうではなくて、彼が宗教上、そういう祝い事はできないと思っていた為、凄く驚いている。
「宗教上、大丈夫なの?」
「あっ、いや。基本というか、そういうのは、しないんだけど、普通に会って二人で遊びたいって思って……」
肇はそう言い、頬に両手を当て、照れながら言った。
(あっ、可愛いわ……)
エロい事をするのではなく、単純に出かけるだけ、やましい気持ちはなく、断じて。
「志摩はどう?一人になっちゃうけど」
「いや、俺はその日は仕事」
なら、大丈夫だろう。
志摩を気にせず、肇と遊べる。
「じゃあ――こちらこそ、よろしくお願いします」
そうして、自分のクリスマスの予定が埋まった。

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