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 第六章『愛』⑥

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「よかったの?これで――」

 リビングで、帰る準備をしている城永に話しかけると、彼は頷いた。

「いい、仕方がないし」

「そうか……」

 元旦那が警察に連行された後、城永が彼の人生を少しだけ話してくれた。

 城永の元旦那であるあの男性は、良家生まれのアルファで、子供の頃からチヤホヤされて育ったという。

 城永は派遣で彼のいる会社で勤め、それが出会いで結婚、子供を授かるが、その後、彼がアルファ同士の派閥争いに負け、それがきっかけで精神がおかしくなっていった。

 言葉も行動も正気じゃなくなり、それが城永や息子であるアオイ少年の、命の危機まで発展した為、離婚。

 親権は本当なら状況的に、城永が持つのが正しいのだが、彼の両親が面倒を見るという事、所有していたマンションの一室や、財産を譲るという事で、話が纏まったという事。

「そっか――」

 あの時、彼は自分を頼ってくれたはずだ。

 SOSを出してくれたはずなのに、何もしてあげられなかった。

 自分はその事を気にしていると、アオイ少年を抱っこしている志摩が言う。

「俺は他のアルファに負けても、精神はおかしくならないけどな」

 それはお前が図太いからだと言葉にしようとすると、志摩が言う。

「もし負け犬になっても、漆は自分の味方してくれるし」

 彼は自分が欲しい言葉を、いつも言ってくれる。

「でも、どうしようかな……この状況で、彼の両親に迷惑かけて、彼のマンションに戻れないし……」

 城永は、そう呟く。

 譲渡されているとはいえ、この状況でマンションに戻るのは気が引けるそうだった。

 とういうか、また元旦那が押しかけ、二人を監禁する事もあるかもしれない。

 そうなると、命の危険まで、可能性がある。

「ここに居候とかって、難しいよね?」

「そ、そうだね……」

 余っていた部屋は志摩が使っている。

 しかも、アオイ少年もいる為、人数的に難しいだろう。

「やましい気持ちとかじゃないよ。下心がない……というのは嘘になっちゃうかもだけど」

 城永は、頬を赤らめる。

(城永君が自分を求めているのは、物凄く嬉しいけど……)

 部屋が無いんだよなと思いながら、困っていると、志摩が言った。

「あるぞ。二人の部屋」

 そう言い、志摩はその場を後にし、しばらくすると、リビングに戻ってきた。

 志摩が手に持っていたのは鍵で、彼は城永とアオイ少年に言う。

「二人共、高い所は平気か?」

 それは、志摩が購入したタワマンの鍵であった。

 城永とアオイ少年を最寄り駅まで、三人で送り届けた。

 その際、志摩が城永に伝える。

「冷蔵庫のものは痛んでいると思うから全部捨ててくれ、洗濯ものは洗っておいてくれ」

「借りる立場だし、文句を言うつもりはないけど、ゴミ系はしっかりしてよ」

 そう言う城永は、志摩に感謝していたし、アオイ少年は、志摩と離れるのが嫌で泣いた。

(子供は可愛いな……部屋が空いていれば、全然住んでよかったんだけどな……)

 自分は、そんなアオイ少年にほっこりする。

「バイバイ、元気でな」

 自分とは真逆で、志摩はそれに対し、無表情で塩対応だったのだが。

 二人を見送り、三人で帰路についていると、肇が自分に言う。

「あの、先生」

「ん?何?」

 彼が自分に話しかけてきた為、返事をする。

「志摩からあの人と別れたって聞いたけど、本当?」

 志摩は自分の個人情報を容赦なく、肇に話していた。

「おい弁護士、情報漏洩だぞ」

「お前の個人情報は、俺の個人情報だから」

 お前の物は俺の物理論をやめてほしいところだが、注意する前に肇が言う。

「あの、今度のクリスマス。僕と一緒に過ごしてくれませんか!」

 それはデートのお誘いだった。

「あ、えっと――」

「忙しいなら、断ってくれていいんだけど」

 そうではなくて、彼が宗教上、そういう祝い事はできないと思っていた為、凄く驚いている。

「宗教上、大丈夫なの?」

「あっ、いや。基本というか、そういうのは、しないんだけど、普通に会って二人で遊びたいって思って……」

 肇はそう言い、頬に両手を当て、照れながら言った。

(あっ、可愛いわ……)

 エロい事をするのではなく、単純に出かけるだけ、やましい気持ちはなく、断じて。

「志摩はどう?一人になっちゃうけど」

「いや、俺はその日は仕事」

 なら、大丈夫だろう。

 志摩を気にせず、肇と遊べる。

「じゃあ――こちらこそ、よろしくお願いします」

 そうして、自分のクリスマスの予定が埋まった。

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