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 最終章『ハイキングだ!泉だ!これが愛の鞭だぁ!』⑦

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 彼に事情を聞くと、あの後彼は私みたいに学園側からの処分は無かったらしい。

 だが、私が姉妹校に転校したと聞いて、心配で様子を見に来た。

「そこで眼鏡を無くして、ずっと学園内を迷子して、今月の初めに山に辿り着いたと」

「まぁ、そうだな」

 可哀そうにと哀れんだ瞳で見ているが、彼はやはり視力が悪くなったようで、それに気がついていない。

「あのさ、眼鏡ってこれだったりする?」

 アクアは、銀縁の眼鏡を外す。

「は?」

 自分は思わず、声を漏らす。

「ポアリと初対面した時に、拾ったんだよ。この眼鏡」

「はぁっ!?」

 何をしているんだよ。

 フォーレンの事が可哀そうで仕方がなくたった時、彼は驚きの言葉を言う。

「あっ、この声は!腹減りで倒れた時に、食券をくれた――」

 アクアは誰だっけと言う顔をして、セゾンが困った様子で答えを教える。

『アクア君、物々交換の時の人ですよ』

「……。あっ、あの人か!」

 アクアの方はあまり覚えていなかったようだが、フォーレンとアクアは面識があったようである。

「あの時はありがとう、凄く助かったよ。とても学食が美味しくて、なんだろう。やっぱり人に感謝して食べると同じオムライスでも、こんなに違うのかと」

 それは君が飢餓状態だったから、凄く美味しく感じただけではないか。

 そう思ったが、それは言わないでおこう。

「なんてお礼を言えばいいか」

 そう言い、お辞儀をするが、そこにいたのは、大河だった。

 大河はまたかと困惑しながらアクアの腕を引っ張り、自分のいた場所に彼を置いた。

「こいつ、お前の眼鏡。ネコババしていたんだぞ。そのせいで、一か月弱ホームレスする事になったんだぞ」

 そう私は言うが、アクア本人は気にせず、眼鏡を彼に渡した。

 フォーレンはそれを受け取り、かけてみるが度が合わないのか、また外した。

「度が合わないという。更に目が悪くなったのか……」

 彼が眉間を押さえ、困った声を出す。

「いや、自分用に度を抜いた」

「おいっ!お前、勝手すぎるだろう!ていうか、どうやって……」

 レンズを丸々新しいものにしたのだろうか。

 自分が言った時、アクアは無言で微笑み、セゾンを指差す。

『アクア君がどうしてもと言うので、仕方がなく』

 セゾンは、困惑した声を出す。

 すると、そこにいた理事長が言う。

「水を差すようで悪いんだけれど、そこの泉で視力も戻せるよ」

「えっ、マジ」

「マジ、マジ」

 私が本当か訊くと、理事長は本当だと頷いた。

 すると、後ろから男子二人の声がする。

「何で、精霊の泉の場所にいるのかなぁ??」

「まさか、折れた骨をくっつけて貰おうとしたとかぁ??」

 そこには、後輩君と因縁のあの男がいた。

「ひぇっ、エージャ」

「お久しぶり」

 前の学校の生徒会長である。

 見ない間に耳のピアスがまた増えた気もするが、触れると自分のも増えそうなので、言わないでおこう。

「君、エージャの弟なの?」

 後輩君に言うと、彼は困ったように少し頷いた。

「フォーレンがここに行ったきり帰ってこないと、少し前に生徒から報告があってね。回収しにきた。後、時間があればポアリのピアスを増やそうかなと」

 無理やり彼に、ピアスを開けられたのがトラウマになっているので、首を横に振る。

「もう蛇フェロモンは、抜けたからいらない。エージャはどう?前、会った時は生徒会の人は、皆防護服を着ていたけれど……」

「ピアス、増やしたから大丈夫。それとも、ここにいる子、取ってもいいのなら外す?」

「それはマジ勘弁してください」

 彼と挨拶をほどほどにし、彼らは理事長を無理やり連れて帰る。

「とりあえず、お母さん。骨はそのままで帰ろうね」

「息子達からしたら、浮気は犯罪なんだから」

 そして、エージャはフォーレンに一言。

「その水で目を洗えば、ある程度視力は回復するはずだから。自力で帰ってこい」
自分はフォーレンを泉の前に連れて行き、目を洗わせた。

「どう?視力良くなった?」

「うーん、まあ。さっきよりは、いいのかもしれない。誰が目の前にいるかは分かるから」

「じゃあ、目の前の人物は誰でしょう?」

 そうフォーレンに言い、ニコリと笑う。

「ポアリだ」

「うん、正解」

 視線がよく合うようになり、彼の視力は回復している事が分かった。

「さぁ皆、効力は彼が実証してくれたよ。思いつく悪い所は全部、泉で直してもらうんだ!」

「はぁっ!?ポアリ、お前。俺を実験台にしただろ!」

 彼が私の肩を掴み、ユラユラと揺らす。

(あー、フォーレンってこうだったなぁ……)

 気の強さというか、気象の荒さ元に戻ったようで、安心する。

「なんだぁ、治癒効果だけか。さっきスライムに飲み込まれた時、汗疹治ったからなぁ」

「よかったじゃん。飲み込まれて」

 アクアと大河がそんな事を言い、泉の水を両手で掬い、口にする。

「あぁ、染みわたる。うつ病に効いている気がする」

 そう大河は小刻みに震え、感極まっている。

「その水、心の病気は治らんぞ」

 そう言ったのは生徒会の会計だった。

 そう言われた、彼は。

「何でも治るって、嘘じゃん……こんなの詐欺じゃん……」

 憂鬱そうに下を向いて、そう呟いた。

「あー、ごめん。呼びに行ってもらったのに、もう戦って勝っちゃった」

「そうか、怪我は……しても、泉で治せばいいか……」

 彼は後ろを振り向く、少し離れたところに、レインを連れた副会長と書記の姿があり、彼女を無理やり引っ張って来ていた。

「いや、無理……先生、皆が思っているくらい強くないのよ……」

 レインは涙目で、生徒の私達も引くレベルでヤダヤダ抵抗していた。

「先生、頑張れますって」

「僕らも特別、強くはないけれど戦うんだから!」

 そう励ます二人に、会計は大きな声で話しかける。

「おーい、もう倒したって!」

「えぇ!本当!さすが、ポアリちゃん!」

 そんなやり取りをしている三人は、笑顔で楽しそうだった。

 泉の方を見ると、アクアがふざけて、大河の顔に泉の水をぶっかけていた。

 大河はそれに腹を立て、同じようにやり返す。

 自分はそれを見て笑顔になっていると、隣にいた彼は言う。

「良かった」

 自分は彼が発した言葉の意味が分からず、首を傾げた。

「いや。俺の事、嫌いになって、転校したんだと思っていたから」

 そうじゃないよと言おうとしたが、言葉が詰まる。

「その後、事情を皆に聞いたら、学園と俺達を守るために転校していったんだって」

 彼は、照れながら頬を掻く。

「食券も貰ったし、眼鏡を拾ってもらったし、なんかやってもらってばかりだ」

 アクアが眼鏡をネコババしなければ、ホームレスしなくて済んだんだけどな。

 フォーレンは度の入っていない眼鏡をかけた。

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