彼に事情を聞くと、あの後彼は私みたいに学園側からの処分は無かったらしい。
だが、私が姉妹校に転校したと聞いて、心配で様子を見に来た。
「そこで眼鏡を無くして、ずっと学園内を迷子して、今月の初めに山に辿り着いたと」
「まぁ、そうだな」
可哀そうにと哀れんだ瞳で見ているが、彼はやはり視力が悪くなったようで、それに気がついていない。
「あのさ、眼鏡ってこれだったりする?」
アクアは、銀縁の眼鏡を外す。
「は?」
自分は思わず、声を漏らす。
「ポアリと初対面した時に、拾ったんだよ。この眼鏡」
「はぁっ!?」
何をしているんだよ。
フォーレンの事が可哀そうで仕方がなくたった時、彼は驚きの言葉を言う。
「あっ、この声は!腹減りで倒れた時に、食券をくれた――」
アクアは誰だっけと言う顔をして、セゾンが困った様子で答えを教える。
『アクア君、物々交換の時の人ですよ』
「……。あっ、あの人か!」
アクアの方はあまり覚えていなかったようだが、フォーレンとアクアは面識があったようである。
「あの時はありがとう、凄く助かったよ。とても学食が美味しくて、なんだろう。やっぱり人に感謝して食べると同じオムライスでも、こんなに違うのかと」
それは君が飢餓状態だったから、凄く美味しく感じただけではないか。
そう思ったが、それは言わないでおこう。
「なんてお礼を言えばいいか」
そう言い、お辞儀をするが、そこにいたのは、大河だった。
大河はまたかと困惑しながらアクアの腕を引っ張り、自分のいた場所に彼を置いた。
「こいつ、お前の眼鏡。ネコババしていたんだぞ。そのせいで、一か月弱ホームレスする事になったんだぞ」
そう私は言うが、アクア本人は気にせず、眼鏡を彼に渡した。
フォーレンはそれを受け取り、かけてみるが度が合わないのか、また外した。
「度が合わないという。更に目が悪くなったのか……」
彼が眉間を押さえ、困った声を出す。
「いや、自分用に度を抜いた」
「おいっ!お前、勝手すぎるだろう!ていうか、どうやって……」
レンズを丸々新しいものにしたのだろうか。
自分が言った時、アクアは無言で微笑み、セゾンを指差す。
『アクア君がどうしてもと言うので、仕方がなく』
セゾンは、困惑した声を出す。
すると、そこにいた理事長が言う。
「水を差すようで悪いんだけれど、そこの泉で視力も戻せるよ」
「えっ、マジ」
「マジ、マジ」
私が本当か訊くと、理事長は本当だと頷いた。
すると、後ろから男子二人の声がする。
「何で、精霊の泉の場所にいるのかなぁ??」
「まさか、折れた骨をくっつけて貰おうとしたとかぁ??」
そこには、後輩君と因縁のあの男がいた。
「ひぇっ、エージャ」
「お久しぶり」
前の学校の生徒会長である。
見ない間に耳のピアスがまた増えた気もするが、触れると自分のも増えそうなので、言わないでおこう。
「君、エージャの弟なの?」
後輩君に言うと、彼は困ったように少し頷いた。
「フォーレンがここに行ったきり帰ってこないと、少し前に生徒から報告があってね。回収しにきた。後、時間があればポアリのピアスを増やそうかなと」
無理やり彼に、ピアスを開けられたのがトラウマになっているので、首を横に振る。
「もう蛇フェロモンは、抜けたからいらない。エージャはどう?前、会った時は生徒会の人は、皆防護服を着ていたけれど……」
「ピアス、増やしたから大丈夫。それとも、ここにいる子、取ってもいいのなら外す?」
「それはマジ勘弁してください」
彼と挨拶をほどほどにし、彼らは理事長を無理やり連れて帰る。
「とりあえず、お母さん。骨はそのままで帰ろうね」
「息子達からしたら、浮気は犯罪なんだから」
そして、エージャはフォーレンに一言。
「その水で目を洗えば、ある程度視力は回復するはずだから。自力で帰ってこい」
自分はフォーレンを泉の前に連れて行き、目を洗わせた。
「どう?視力良くなった?」
「うーん、まあ。さっきよりは、いいのかもしれない。誰が目の前にいるかは分かるから」
「じゃあ、目の前の人物は誰でしょう?」
そうフォーレンに言い、ニコリと笑う。
「ポアリだ」
「うん、正解」
視線がよく合うようになり、彼の視力は回復している事が分かった。
「さぁ皆、効力は彼が実証してくれたよ。思いつく悪い所は全部、泉で直してもらうんだ!」
「はぁっ!?ポアリ、お前。俺を実験台にしただろ!」
彼が私の肩を掴み、ユラユラと揺らす。
(あー、フォーレンってこうだったなぁ……)
気の強さというか、気象の荒さ元に戻ったようで、安心する。
「なんだぁ、治癒効果だけか。さっきスライムに飲み込まれた時、汗疹治ったからなぁ」
「よかったじゃん。飲み込まれて」
アクアと大河がそんな事を言い、泉の水を両手で掬い、口にする。
「あぁ、染みわたる。うつ病に効いている気がする」
そう大河は小刻みに震え、感極まっている。
「その水、心の病気は治らんぞ」
そう言ったのは生徒会の会計だった。
そう言われた、彼は。
「何でも治るって、嘘じゃん……こんなの詐欺じゃん……」
憂鬱そうに下を向いて、そう呟いた。
「あー、ごめん。呼びに行ってもらったのに、もう戦って勝っちゃった」
「そうか、怪我は……しても、泉で治せばいいか……」
彼は後ろを振り向く、少し離れたところに、レインを連れた副会長と書記の姿があり、彼女を無理やり引っ張って来ていた。
「いや、無理……先生、皆が思っているくらい強くないのよ……」
レインは涙目で、生徒の私達も引くレベルでヤダヤダ抵抗していた。
「先生、頑張れますって」
「僕らも特別、強くはないけれど戦うんだから!」
そう励ます二人に、会計は大きな声で話しかける。
「おーい、もう倒したって!」
「えぇ!本当!さすが、ポアリちゃん!」
そんなやり取りをしている三人は、笑顔で楽しそうだった。
泉の方を見ると、アクアがふざけて、大河の顔に泉の水をぶっかけていた。
大河はそれに腹を立て、同じようにやり返す。
自分はそれを見て笑顔になっていると、隣にいた彼は言う。
「良かった」
自分は彼が発した言葉の意味が分からず、首を傾げた。
「いや。俺の事、嫌いになって、転校したんだと思っていたから」
そうじゃないよと言おうとしたが、言葉が詰まる。
「その後、事情を皆に聞いたら、学園と俺達を守るために転校していったんだって」
彼は、照れながら頬を掻く。
「食券も貰ったし、眼鏡を拾ってもらったし、なんかやってもらってばかりだ」
アクアが眼鏡をネコババしなければ、ホームレスしなくて済んだんだけどな。
フォーレンは度の入っていない眼鏡をかけた。
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