志摩は、リビングでテレビを見ている。
そして、自分が切ったパインを、彼は無表情のまま、もぐもぐと食べていた。
「クーラー、涼しい」
「パインの感想は?」
パインを食べながら、クーラーの感想を言うところを見ると、久しぶりに会った彼は昔のままの性格のようで、自分はそれで少し安心感を得る。
「うまい」
そう呟き、テーブルに置いてあるリモコンを操作する。
「そう。で、何しに来たの?近くに用事でもあったから、寄ったとか?」
冷蔵庫にあった麦茶をコップに注ぎ、志摩に出す。
「いや、今日からここに住もうと思って」
「何、馬鹿な事言って――えっ?」
「空き部屋あっただろ、俺そこでいいし。服もお前のを着るからさ」
彼は無表情のまま、テレビの音量を上げ、リモコンをテーブルに置く。
【最近、女子高生にトレンドのあれの取材をしてきました――】
女子アナの声が部屋に響く。
「ナタデココや、タピオカの次はこれか……」
興味深そうに彼は、そう呟いた。
「待て待て待て」
リモコンを手に取り、テレビの電源を切る。
「あっ、見てたのに」
彼は無表情のまま、少し残念な声を出す。
「ここ住むって、マジで言ってんの?最近、タワマン買ったって聞いたぞ。タワマンに帰れよ!」
「いや、買ったんだけどさ」
彼は、ここまでの経緯を話し始める。
趣味の無い彼は、貯金を持て余していた。
実家も裕福で、両親は今海外に住んでいる。
服もよく分からない。
結婚を考えている相手どころか、親しい女性もいない。
弁護士は、慰謝料や示談金の話をよくする。
だからお金の価値も大体分かっているつもりだが、つもりなだけ、知ったかぶりだった。
(お金って、どう使うんだろうな……)
そんな中、彼の弁護士事務所の後輩がタワーマンションの話をしてきた。
内容は他愛のないもので、購入を悩んでいるというもの。
(なるほど、そうやってお金を使えばいいのか!)
頭のおかしい彼はそう思ったという。
という事で、手始めにタワマン(最上階)を購入した。
好みのアンティーク調のお洒落な家具を揃えに揃え、引っ越しも済ませ、これから幸せな独身生活をと思ったのだが。
住んでみて気がついたという。
「高い所が苦手だったんだ」
絶叫マシン程の高さなら問題ないというが、何十階もの高さになると、怖さを感じたようである。
「くだらない……」
そう言い、溜息を吐く。
親友の話を尋ねた事に、凄く後悔した。
親友も虚ろな表情で天井を見上げる。
「タワマン、引っ越し代、揃えた家具諸々で、無一文なんだ」
「いや、知らねーよ。帰れよ」
自分がそう言うと、彼は悲壮感を漂わせながら顔をじっと見る。
「帰ってくれよ……」
自分はそう彼に言うが、最終的には根負けし、同居する事を許してしまった。
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