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 第一章『初恋』④

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 志摩は、リビングでテレビを見ている。

 そして、自分が切ったパインを、彼は無表情のまま、もぐもぐと食べていた。

「クーラー、涼しい」

「パインの感想は?」

 パインを食べながら、クーラーの感想を言うところを見ると、久しぶりに会った彼は昔のままの性格のようで、自分はそれで少し安心感を得る。

「うまい」

 そう呟き、テーブルに置いてあるリモコンを操作する。

「そう。で、何しに来たの?近くに用事でもあったから、寄ったとか?」

 冷蔵庫にあった麦茶をコップに注ぎ、志摩に出す。

「いや、今日からここに住もうと思って」

「何、馬鹿な事言って――えっ?」

「空き部屋あっただろ、俺そこでいいし。服もお前のを着るからさ」

 彼は無表情のまま、テレビの音量を上げ、リモコンをテーブルに置く。

【最近、女子高生にトレンドのあれの取材をしてきました――】

 女子アナの声が部屋に響く。

「ナタデココや、タピオカの次はこれか……」

 興味深そうに彼は、そう呟いた。

「待て待て待て」

 リモコンを手に取り、テレビの電源を切る。

「あっ、見てたのに」

 彼は無表情のまま、少し残念な声を出す。

「ここ住むって、マジで言ってんの?最近、タワマン買ったって聞いたぞ。タワマンに帰れよ!」

「いや、買ったんだけどさ」

 彼は、ここまでの経緯を話し始める。

 趣味の無い彼は、貯金を持て余していた。

 実家も裕福で、両親は今海外に住んでいる。

 服もよく分からない。

 結婚を考えている相手どころか、親しい女性もいない。

 弁護士は、慰謝料や示談金の話をよくする。

 だからお金の価値も大体分かっているつもりだが、つもりなだけ、知ったかぶりだった。

(お金って、どう使うんだろうな……)

 そんな中、彼の弁護士事務所の後輩がタワーマンションの話をしてきた。

 内容は他愛のないもので、購入を悩んでいるというもの。

(なるほど、そうやってお金を使えばいいのか!)

 頭のおかしい彼はそう思ったという。

 という事で、手始めにタワマン(最上階)を購入した。

 好みのアンティーク調のお洒落な家具を揃えに揃え、引っ越しも済ませ、これから幸せな独身生活をと思ったのだが。

 住んでみて気がついたという。

「高い所が苦手だったんだ」

 絶叫マシン程の高さなら問題ないというが、何十階もの高さになると、怖さを感じたようである。

「くだらない……」

 そう言い、溜息を吐く。

 親友の話を尋ねた事に、凄く後悔した。

 親友も虚ろな表情で天井を見上げる。

「タワマン、引っ越し代、揃えた家具諸々で、無一文なんだ」

「いや、知らねーよ。帰れよ」

 自分がそう言うと、彼は悲壮感を漂わせながら顔をじっと見る。

「帰ってくれよ……」

 自分はそう彼に言うが、最終的には根負けし、同居する事を許してしまった。

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