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 第三章『憧れとの再会』①

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 職場である自室で、作業をしている。

 コマ割りが終わり、レイヤーを変更する。

 下書きの上からキャラクターの線画を描いていると、携帯電話に通知音が鳴り、メールが来ている事に気が付く。

 発進先を見るとそこには、肇の名前があった。

『再来週の日曜日、遊びに行ってもいい?』

 それに対して、いいよと返す。

 凄く嬉しい。志摩もおそらく同じ気持ちであろう。

 それに『嬉しい』という言葉と、ニッコリマークの顔文字があるのを確認し、再び作業に集中する。

 その数時間後、今月分の原稿が終わり、取りに来た担当編集に渡す。

 彼を見送った後、ポストに溜まった郵便物が気になり、取り出した。

 廊下を歩きながら、中を確認すると、その中に異様な存在の封筒があった。

 恐る恐る宛先人を確認すると、自分の母校、高校名と、元クラスメイトの名前、同窓会の招待状で、自分は身震いをする。

「うへぇ……」

 思わず、声が出た。

 自分が今、エロ漫画家をしているという事は少ない友人には伝えている為、恥じる事は一切無い。

 だが自分はインドア派、この陽キャの集まりに参加するべきか、少し困っている。

 しかも日時は再来週の土曜で、肇が遊びに来る日の前日だ。

「困るよ……」

 しかも、主催の男性が学生時代に自分がとてもお世話になった男子『村雲君』だ。

 村雲は生徒会長をしていたベータの男子で、ラグビー部に所属していたと記憶している。

 自分が体調不良でゲロを体育館にぶちまけた時、率先して掃除してくれたり、体育の時間に独りぼっちの自分と、準備体操をしてくれた人だ。

(他はどうでもいいけど、村雲君に会いたいなぁ……)

 正直、家に転がり込んできたのが、志摩ではなく、村雲だったら、どれ程歓迎しただろうかとも思ったりするくらい恩がある。

(でも、友達が多い人気者だったから、自分なんて覚えていないかもしれないし……)

 そうリビングで悩んでいる間に、志摩が帰宅してきた。

 志摩にその同窓会の話をすると、志摩がスーツを脱ぎながら言う。

「同窓会なんて、俺には届いてないけど」

「お前の家はここじゃないからだろ」

 志摩が当たり前の事を言うので、少し苛つく。

「主催の子、覚えてる?」

「この村雲って奴?知らんな?」

 志摩はそう言い、ケトルの中に水道水を入れ、スイッチを入れる。

「お前は三年間、同じクラスだっただろ?自分は二年間だったけど……」

「そうだっけ?」

 志摩は棚からインスタントコーヒーを取り出し、自分のマグカップに粉を入れる。

「正直会いたいけど。村雲くん、人気者だったから、同窓会に行っても、自分と話してくれないかもしれないし……行くか、悩む……」

「なぁ、マグカップ。新しいの買いに行こうぜ。週末とかさぁ……」

 自分が悩んでいるのに、彼はあまり興味がないようだ。

「いや、聞いてくれよ。相談に乗らんでいいから、相槌だけは打ってくれよ」

 志摩はそう言われ、困った顔をする。

 志摩からすると、本当に興味無い話題を振られていて、その返事をしろと言われているのだから、会話も少し難しいのだろう。

「じゃあ、俺もついて行くから、行ったら?別にその……」

「村雲君な」

「そう、村雲君と話せなくてもいいじゃないか。俺と一緒にいればいい」

 それを聞いて確かにと唸る。

「後、漫画のネタになるかもしれないんじゃないか?俺はよく分からないが」

 自分は単純な人間である。面白みも無い。

 志摩のその一言で、同窓会に行く事にした。

 だが、この時の自分は思いもしなかった。

 実はこの同窓会というイベントは、ロシアンルーレットであるという事を。

 因縁の相手と、半分の確立で再会してしまうという事を。

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