何で、嫌な事思い出しちゃったんだろう。
遠すぎて、実際の記憶なのかも危ういのに。
(そろそろ、元に戻らないと)
リビングの窓を開け、部屋の空気を入れ替える。
(あー寒い。もう冬なんだなぁ……)
季節はもう十二月上旬、もうすぐクリスマス、そして年が明ける。
すると、玄関のほうから聞きなれた男性の声が聞こえた。
「ただいまー」
菓子を買いに行った志摩が戻ってきたのだろう。
(ある時、玄関に迎えに行かなかったら、半泣きで寝転がっていた事があったな……)
精神が子供なんだよなと思いながら、志摩を迎えに行く。
「おかえり――んん!」
そこには自分の精神をゴリゴリ削った、小さな怪獣がいた。
「ただいまぁ、なんちゃって――」
「ただいまだって」
志摩はそう言い、靴を脱ぐ。
「ほら、アオイも上がって」
「うん」
アオイは背負っていたリュックを下ろし、靴を脱ぐ。
「ちょ、し、志摩さん?」
「なんか、いたから連れてきた。後、これお菓子、落としちゃったから、崩れてるかもだけど――」
そう言い、ケーキが入った箱を自分に渡し、志摩はアオイと洗面所に移動する。
「手、洗うぞ」
「洗う!」
自分は状況が読めず、その場に立ち尽くした。
(あ、考えるのやめよう……後で、志摩に理由を訊こう……)
とりあえず、渡されたお菓子が入った箱をリビングに運ぶ。
*
リビングの窓を閉め、暖房のスイッチを入れる。
箱からケーキを取り出すと、やはりケーキは衝撃で崩れていた。
「アオイ君は何のケーキがいい?」
「志摩と一緒の」
ジャンバーを脱いだ彼は無地のグレーのパーカー、半ズボンで、小学生らしい恰好だった。
「一個ずつしか買ってなかった気がする」
「じゃあ、志摩と半分こにする」
そして、志摩が大好きな様子。
(相変わらず、可愛いなぁ……志摩に、すごく懐いてるし……)
自分と大違い。
何で自分には、懐いてくれなかったんだろう――
アオイ少年は、リビングのテーブル前に胡坐で座っている彼の背中に抱き着いていた。
「志摩、チュウしていい?」
「駄目」
アオイ少年は、提案を断った志摩の背中に顔を押し付け、香りを吸う。
(あっ、懐いているんじゃなくて、恋しちゃっているんだ――)
志摩のほうは淡々とした様子で、煙草を取り出し、ライターで火を付ける。
「揺らすなよ。煙草吸うから」
「うん――」
アオイ少年は頬を赤らめ、志摩の背中に頬ずりしていた。
(あー、性癖が歪む……)
彼は、これから沢山の苦労をする事だろう。
(だって初恋の相手が親と同い年だよ……歪むって……)
志摩は今のところ浮いた話は無いが、彼に好意がある人間は沢山いる。
いつもは換気扇の前で煙草を吸えというところだが、そんな状況ではない為、そのままキッチンにある灰皿を持ってきた。
「ありがとう。自分はケーキよりもこれだな」
「アオイ君の前じゃなかったら、殴ってた」
そう彼に言う。

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