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 第六章『愛』⑧

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「志摩、この服変じゃないかな?」

「この前も同じこと聞いた気がする」

 志摩はそう言い、スーツのネクタイをしめるが寝ぼけているのか、うまく出来ずにいる。

「もう……貸して……」

 自分の服選びよりも、志摩のネクタイが気になり、志摩のネクタイに手を伸ばす。

 ネクタイは紺色、柄は小さな白の水玉で、志摩にしては無難なデザインである。

「サンタさん、俺に新しいネクタイ買ってよ」

 志摩は寝ぼけた顔で、自分にプレゼントを強請ってきた。

「サンタさんは、ここにいません」

 そう言い、ネクタイをキュッと結び、志摩を睨む。

(早く、家を出て行ってほしい……)

 志摩が家に転がり込んできて、半年が経とうとしている。

 後、今月の家賃払ってもらってない。

(それは帰ってきたら言おう……)

 志摩に弁当を持たせ、見送り、自室で服に着替える。

 ヒートテックを着て、シャツを着て、厚手のパーカーを羽織った時、家のインターホンが鳴った。

 鞄に財布や携帯などの貴重品を入れ、玄関に移動する。

「はーい」

 玄関の扉を開けると、そこには白いフワフワのニットに、レザージャケットを着た青年の姿があった。

(フワフワしてるー)

「おまたせ、ちょっと早いかなって思ったけど、待ちきれなくて来ちゃった」

 可愛いモフモフがそう言い、自分の胸がキュンと鼓動を打った。

 ジャンバーをパーカーの上から更に羽織り、家を出る。

「今日、寒いね。昨日みたいに雪降るかもね」

 鍵を閉め終えると、彼が自分に話しかけてきて、空いている手を握ってきた。

(可愛い、大好き!)

 その手の触感は柔らかく、しなやかで、オメガらしく、少し小さめなのが、とても愛らしい。

「何処に行こうか?」

「そうだなぁ、何処がいい?」

 とりあえず、幅広く店がある都心に行く事にした。

 電車を乗り継ぎ、新宿まで移動する。

「志摩さ、居候の分際で、新しいネクタイを強請ってきてさ」

「へぇ、志摩が?珍しい。本当は今日、一緒に遊びたかったんだよ」

 ネクタイも用意しなきゃねと、彼は笑う。

 クリスマスだからか、新宿はいつもよりも人で溢れていた。

 陰キャの自分は、人で酔い、気分が悪くなる。

「うっ――」

 色々な種類の香水と様々な人の体臭が混ざった臭い。

(鼻が良いのが災いしてる……)

 口を押え、俯いてると手を繋いでいる肇が心配して声をかけてきた。

「ごめんね、人に酔ったみたいで……」

 すると、彼は周囲を見渡した後、何かを見つけたようで、手を引いた。

「先生、あの建物に入ろうよ」

「えっ?あっ、うん」

 そう言われ、彼が向かう方に歩き、近くにあるビルに入ると、そこは大きめの映画館だった。

 上映されている映画のポスターが数枚、壁に貼ってあり、目の前にエスカレーターが見える。

「少しゆっくりしたら、体調も良くなるよ」

 そう言い、肇は手を引きながら、エスカレーターに乗った。

「先生は何が見たい?気になっているのとか、ない?」

 肇はそう言い、首を少し傾げる。

(本当に可愛いな――純粋無垢って感じだ)

「自分は、肇君となら何でも。肇君は、普段どういうの見るの?」

「ホラーとか、アクションとか、かな?」

 オメガの男性って、感性が女性よりで、中性的感覚が鋭いって聞いた事がある為、男の子が見るような映画をチョイスするのは、意外だった。

「あー、でも。先生、今酔って具合悪いから、ホラーとか、アクションとかやめておいた方がいいかも」

 肇の言葉を聞いて、本当に申し訳なく思う。

 すると、反対方向のエスカレーターで、ベータの男女カップルとすれ違った。

「恋愛ものかって、乗り気じゃなかったけど。見てみると、凄く良かったな」

「うん、ハラハラしたけど、とてもよかった」

 映画館への配慮なのか、ネタバレしない程度に映画の感想を語り合っている。

「先生、今やってる恋愛ものが良さそうだよ」

 彼がそう言い、自分に微笑む。

「自分の事気にしなくていいんだよ。肇君が好きなのを見ようよ」

「僕、先生と恋愛もの見たい。折角の――先生との二人きりでお出かけだし」

 彼はそう言い、頬を赤らめる。

 その反応から、先程言いかけたものは『デート』というワードだったと察するのだった。

(あっ、肇君もデートのつもりだったんだ)

 自分の頬が、顔が熱を持っていくのが、確認しなくても分かる。

 映画館の受付で、チケットを購入する。

 お互い、飲み物だけを購入し、シアタールーム移動した。

「入場者特典でしおり、渡していてどうぞ」

 シアタールームの前で、花の模様が付いた水色のしおりを貰う。

(何の花だろう……)

 映画の内容を確認しなかったから、何の花なのか分からない。

 メジャーな花ではないのは確かだという事しか情報がない。

 まだ、開演までの時間がある為、自分達以外の人間はおらず、気楽に席を探す。

「席、あったよ。多分、ここ」

 席番号を二人で再確認し、席に座る。

「どっちに飲み物を置くのが、正しいんだろうね?」

 肇はそう言い、右側に飲み物を置いた。

「そうだよね。自分も毎回迷う。とりあえず自分は、雰囲気で毎回置いているけど」

 そう言いながら自分も、利き手である右側に、飲み物を置く。

 すると、肇は一息ついた後、貰ったしおりを見て話をした。

「可愛いしおり。職場で使おうかな?」

「そういえば、仕事って何してるの?」

 シアタールームの席を探しながら、そんな話をする。

「えっと、教会で祭事とか、結婚式、お葬式のスケジュールを組んだり、会場を押さえたり、用品の発注をしたりしてる」

「そっか。自分と違って、しっかりした仕事だね」

 自分が彼にそう言うと、他の客がシアタールームに集まりだし、お互いこの話をしなくなった。

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