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 第三章『召喚と掃除の憂鬱』④

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 現在は全学年の授業が終わり、放課後だった。

 寮生もいるが、それは一部の生徒で、基本学園の外から生徒達は通っている。

 だから、寮生の帰りを待って、そこから声をかけ、配るよりも、生徒が溜まっている校舎に持っていくのがいいと思い、今運んでいる。

 その際、軽い会話をしているのだが、共通の会話が出来ず、気まずい雰囲気になっていた。

 共通の話題を話すと、自分が歩有だって絶対バレる。

(何せ、物心ついた時からの幼馴染だからな……)

 最初、天気や気温の会話をしていたのだが、それも長く続かなかった。

(気まずいな……)

 彼が自分ではなく、もう一人の幼馴染を選んだというのもあるのかもしれない。

 私が死んだ後、二人は付き合ったりしたのだろうか。

 私とアーノルドがミスをしなければ、幸せな青春が遅れたのではないだろうか。

 そう思っていると、彼の方から話しかけてくる。

「あの!」

「えっ?何?」

 自分は驚き、足を止める。

「転生者って、あのアクアっていう人が言っていましたよね?」

「そ、そうだけれど……」

 この瞬間がとうとう来てしまった。

 私は何て嘘を吐けばいいんだろうかと、そう思った時彼が言う。

「僕、元の世界に帰りたいって、正直な話思ってないんです」

「えっ?そうなの?」

 私はてっきり、この世界に転送されて、大迷惑なのかなと思っていた。

「物置小屋に行く前、理事長先生から、元の世界に帰る方法を探しておくと言われたんですけど。あまり乗り気じゃなくて……」

「でもさ、楽しい事あるじゃない?友達とかさ」

「友達……」

 私が友達と言った時、彼の目元が少々きつくなった気がする。

 もしかしたら、地雷だったのかもしれない。

(大河君、どうしたんだろう……)

 そこから、また無言になり、しびれを切らした自分がまた歩き出すと、彼はまたついて歩き出した。

(やっぱり、気まずい……)

 すると、私が落ちた池の前で、誰かが話しかけてきた。

「ポアリちゃん」

「あぁ、新聞部の人」

 ぽっちゃりしているが、人の良さそうな人相、少しサバサバしているが知性的な話し方なのが、安心感と安定感がある。

(丁度良かった……)

 凄く気まずかったから、ここでこの人がいるのは助かる。

「ポアリちゃん、そちらの人は?」

「あー、彼は」

 そう思いながら、聞かれたので事情を話すと、彼は親身になってガラクタを、いくつか引き取ってくれる事になった。

「これ、いいなぁ。いくらで売ってんの?」

 それは昔の新聞の切り抜きをまとめたアルバムで、新聞部の彼らしいなと感じる。

「あー、そういえば決めてなかった」

 とりあえず、五百円くらいに設定しようか。

 因みに通貨単位がこの国だと【ウェルトン】という。

 後、硬貨と紙幣の数は変わらないが、基本二百五十円から三百円くらい物価が違う。

 千円札のような紙幣、1000ウェルトンが1250円の価値って事だ。

(でもまあ、おつりとか面倒くさいし、ワンコイン750円くらいでいくとしよう)

「全品、500ウェルトンにしましょうかね」

「おっ、お買い得。じゃあ、君のほうの箱も見せてもらってもいいかな?」

 まぁ、250円値上げしても、ここの学園にいる生徒は金持ちばかりなので、気にすることはない。

「えっ、あっ、どうぞ……」

 ガラクタ箱を二つその場に降ろし、見ている新聞部を眺める。

「こっちの箱もいいじゃないか、どうしようかな?」

 中のブリキの玩具とかを手に取りながら、そう嬉しそうに悩み始めた新聞部。

「でも、あの三人には幼稚かな?でも、何が好きとか分からないし」

 誰かへの贈り物だろうか、数分悩んでいたが、彼は結局ブリキではなく、植物標本を三つ追加した。

 彼は良質な財布から、料金分の紙幣を抜く。

 その際、左手の薬指に指環がしてある事に気がついた。

「あの、新聞部さんは結婚されているんですか?」

 その疑問を口にしたのは、私よりも大河のほうが早かった。

「いや、違うけれど、何で?」

「薬指に指環していたから」

 大河が指差した方向を見て、彼は納得した顔をする。

「あー、指環ね。この国、指環の意味とか文化とか無いんだよね」

 彼の話によると、最初はおそらくあったのだが、この国は魔法学校やギルドが幾つか存在し、魔法を使う人間が他より多いのだそう。

 魔法石の加工品は、魔法石の職人がその能力を最大限に発揮できるように、加工している。

 指環の輪っかの大きさも同じで、それを計算して作られている。

 なので、指環のサイズ直しをすると、能力が半減してしまうらしい。

「これは魔法石の亜種でできた指環で、指のサイズがここしか合わなくて、付けてるんだ。魔法を家業にしている家出身だと、そういう人多いよ」

 合う指にはめる。

 指環の意味を考えて、仕事が出来なくなったら元も子もない、それが魔法使い。

(でもなぁ……)

 ロベルトに求婚された時、彼がホタルモドキを乗せようとしたのは左手の薬指だったなと、思い返す。

 すると、彼が言う。

「指環の場所にこだわっているとしたら、本人か親がこの国出身じゃないか、魔法が家業じゃないかだな」

 1000ウェルトン紙幣を二枚貰い、お金用の箱に入れる。

「大河君、大事だから落とさないようにね」

 彼は買ったものを機嫌よく持ち、自分に言った。

「後、ポアリちゃん。さっきロベルトに会ったんだけど、すげぇ泣いてたよ」

 そう言われ、罪悪感というのだろうか、複雑な感情になった。

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