現在は全学年の授業が終わり、放課後だった。
寮生もいるが、それは一部の生徒で、基本学園の外から生徒達は通っている。
だから、寮生の帰りを待って、そこから声をかけ、配るよりも、生徒が溜まっている校舎に持っていくのがいいと思い、今運んでいる。
その際、軽い会話をしているのだが、共通の会話が出来ず、気まずい雰囲気になっていた。
共通の話題を話すと、自分が歩有だって絶対バレる。
(何せ、物心ついた時からの幼馴染だからな……)
最初、天気や気温の会話をしていたのだが、それも長く続かなかった。
(気まずいな……)
彼が自分ではなく、もう一人の幼馴染を選んだというのもあるのかもしれない。
私が死んだ後、二人は付き合ったりしたのだろうか。
私とアーノルドがミスをしなければ、幸せな青春が遅れたのではないだろうか。
そう思っていると、彼の方から話しかけてくる。
「あの!」
「えっ?何?」
自分は驚き、足を止める。
「転生者って、あのアクアっていう人が言っていましたよね?」
「そ、そうだけれど……」
この瞬間がとうとう来てしまった。
私は何て嘘を吐けばいいんだろうかと、そう思った時彼が言う。
「僕、元の世界に帰りたいって、正直な話思ってないんです」
「えっ?そうなの?」
私はてっきり、この世界に転送されて、大迷惑なのかなと思っていた。
「物置小屋に行く前、理事長先生から、元の世界に帰る方法を探しておくと言われたんですけど。あまり乗り気じゃなくて……」
「でもさ、楽しい事あるじゃない?友達とかさ」
「友達……」
私が友達と言った時、彼の目元が少々きつくなった気がする。
もしかしたら、地雷だったのかもしれない。
(大河君、どうしたんだろう……)
そこから、また無言になり、しびれを切らした自分がまた歩き出すと、彼はまたついて歩き出した。
(やっぱり、気まずい……)
すると、私が落ちた池の前で、誰かが話しかけてきた。
「ポアリちゃん」
「あぁ、新聞部の人」
ぽっちゃりしているが、人の良さそうな人相、少しサバサバしているが知性的な話し方なのが、安心感と安定感がある。
(丁度良かった……)
凄く気まずかったから、ここでこの人がいるのは助かる。
「ポアリちゃん、そちらの人は?」
「あー、彼は」
そう思いながら、聞かれたので事情を話すと、彼は親身になってガラクタを、いくつか引き取ってくれる事になった。
「これ、いいなぁ。いくらで売ってんの?」
それは昔の新聞の切り抜きをまとめたアルバムで、新聞部の彼らしいなと感じる。
「あー、そういえば決めてなかった」
とりあえず、五百円くらいに設定しようか。
因みに通貨単位がこの国だと【ウェルトン】という。
後、硬貨と紙幣の数は変わらないが、基本二百五十円から三百円くらい物価が違う。
千円札のような紙幣、1000ウェルトンが1250円の価値って事だ。
(でもまあ、おつりとか面倒くさいし、ワンコイン750円くらいでいくとしよう)
「全品、500ウェルトンにしましょうかね」
「おっ、お買い得。じゃあ、君のほうの箱も見せてもらってもいいかな?」
まぁ、250円値上げしても、ここの学園にいる生徒は金持ちばかりなので、気にすることはない。
「えっ、あっ、どうぞ……」
ガラクタ箱を二つその場に降ろし、見ている新聞部を眺める。
「こっちの箱もいいじゃないか、どうしようかな?」
中のブリキの玩具とかを手に取りながら、そう嬉しそうに悩み始めた新聞部。
「でも、あの三人には幼稚かな?でも、何が好きとか分からないし」
誰かへの贈り物だろうか、数分悩んでいたが、彼は結局ブリキではなく、植物標本を三つ追加した。
彼は良質な財布から、料金分の紙幣を抜く。
その際、左手の薬指に指環がしてある事に気がついた。
「あの、新聞部さんは結婚されているんですか?」
その疑問を口にしたのは、私よりも大河のほうが早かった。
「いや、違うけれど、何で?」
「薬指に指環していたから」
大河が指差した方向を見て、彼は納得した顔をする。
「あー、指環ね。この国、指環の意味とか文化とか無いんだよね」
彼の話によると、最初はおそらくあったのだが、この国は魔法学校やギルドが幾つか存在し、魔法を使う人間が他より多いのだそう。
魔法石の加工品は、魔法石の職人がその能力を最大限に発揮できるように、加工している。
指環の輪っかの大きさも同じで、それを計算して作られている。
なので、指環のサイズ直しをすると、能力が半減してしまうらしい。
「これは魔法石の亜種でできた指環で、指のサイズがここしか合わなくて、付けてるんだ。魔法を家業にしている家出身だと、そういう人多いよ」
合う指にはめる。
指環の意味を考えて、仕事が出来なくなったら元も子もない、それが魔法使い。
(でもなぁ……)
ロベルトに求婚された時、彼がホタルモドキを乗せようとしたのは左手の薬指だったなと、思い返す。
すると、彼が言う。
「指環の場所にこだわっているとしたら、本人か親がこの国出身じゃないか、魔法が家業じゃないかだな」
1000ウェルトン紙幣を二枚貰い、お金用の箱に入れる。
「大河君、大事だから落とさないようにね」
彼は買ったものを機嫌よく持ち、自分に言った。
「後、ポアリちゃん。さっきロベルトに会ったんだけど、すげぇ泣いてたよ」
そう言われ、罪悪感というのだろうか、複雑な感情になった。
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