『やったね、アクア君。色々あったけど、順調に物事が進んでいるね』
セゾンは安堵しながら、アクアの事を褒める。
「きゃん!」
「そうだな、順調だな」
アクアはそう返事をし、ケルモドの頭を撫でる。
アクア達は新校舎に戻り、最上階にある理事長室に入る。
「失礼します!」
そう言い、大きな扉を開ける。
少々、事件が起きた。
「うわっ、ちょっと……」
理事長は驚き、声を出しその場で固まった。
理事長室は応接室を兼ねているので、理事長の席とは別に、大きなソファーが二つと、その間にテーブルがあるのだが、その来客用のソファーに理事長がいる。
理事長室に理事長がいても問題ではない、だがそこには理事長の他に男子生徒がいた。
理事長が彼に膝枕をしていて、耳かきをしていたのは問題だろう。
『耳かきって浮気に入るのでしょうか?』
セゾンが一番困惑しており、そうアクアに訊ねた。
「でも、専門店もあるくらいだから……セーフ?」
二人で会話をしていると彼女は、慌てて耳かきの片付けをし、男子生徒を起こす。
「ん?先生、どうしたの?」
「ちょっとだけ、待っていてくれる?君は私と廊下で話をしようか」
その男子生徒をソファーに置いて、廊下に二人で出る。
「君は……」
「フロート君の同級生のアクアなんですけど。フロート君がピアスを拾って届けに」
そう言い、ポケットの中を探るのだが、彼女は息子の名前が出た時、肩が跳ねた。
状況が状況なだけあるので、仕方がない。
ポケットから折りたたんだ食券を出し、中からピアスを取り出す。
「ありがとう。息子に渡しておくよ」
そう言う彼女の目は、やはり泳いだままで、そしてアクアはお願いをされる。
「後、この事なんだけれど、息子には……」
「どうしようかな……」
少し悩みながら、隣のセゾンを見る。
アクアとフロートの関係だが、喧嘩もするけれどお互いよく話すし、自分が困ったときは今回のピアスのように助けてくれる。
どちらが彼の為なのだろうか。
『言ったところで、恋愛の癖っていうのは直らないそうなので、放っておくほうがいいのでは?これは家族の問題なので……』
変に首を突っ込んだら、ややこしくなる場合もあるそうだから、放っておこう。
「そうだ、君。何か望みというか、欲しいものあったりする?用意してあげるよ」
すると、理事長がアクアに言う。
「んー、特には無いかな?強いて言うなら、今ポアリに頼まれて物々交換して、校内を周っていたから、何か交換できるものが欲しい」
「じゃあ、これとかどうかな。今、手元にあるもので申し訳ないんだけれど」
彼女が上着のポケットから、煌めく素材でできた万年筆を取り出した。
「外は魔法石で出来ていて、中のペン先はドラゴンの金鱗で出来ているよ」
それをアクアに手渡しし、理事長は彼の反応を窺う。
だが、アクアは興味がないのか、よく分からない顔をしている。
(ドラゴンの金鱗一枚で、国の首都好立地に土地付きで、一軒家が建てられるくらいの価値なのに。この子、まだ足りないみたいな目をしているわ……)
アクアは単純に、物の価値が分からないからの反応だったのだが。
その興味のない、やる気の無い目が、彼女に恐怖を与えた。
そして、彼女は更に言った。
「じゃあ、ポアリちゃん、いやそのお友達のお願いも聞こうかな?」
「あぁ、それは助かる。みんなの望みを叶えてやってくれ」
こんな形で、アクアのわらしべ長者ミッションが幕を閉じたのだった。
校舎の外に出ると、もう夕方で、夕焼けで空が真っ赤に染まっていた。
「もうすぐ、秋なんだな」
『そうですねぇ』
そして、寮への帰り道、中庭を歩いていると、一人の男子が人工池を覗き込んでいるのが見えた。そこには自分と同じくらいの年齢の男子だったが、この学園の制服を着ていない。
(学園の関係者だろうか……)
アクアはそう思いながら、その人物の真横を通り過ぎた。
すると、地面に何か物が落ちるような音がし、振り返る。
その人物は天を仰ぎ、その場に倒れていた。
驚き、とりあえず駆け寄る。
「だ、大丈夫か?」
彼は目を回しているようで、地面に降ろしたケルモドはペロペロと彼の額を舐めている。
「お――」
彼は声を頑張って絞り出す。
「な、何だ――」
「お腹が空いた……」
彼の腹が鳴る音がその場に響く。
(折れ線が付いて、ぐちゃぐちゃになった食券が役に立つとは……)
神様っているんだなと、アクアは感動し、彼に食券を渡し、食堂への生き方を教える。
その人物と別れ、ルンルンで鼻歌を口ずさみながら、スキップをする。
ケルモドはトコトコとアクアの後を追い、二年生と三年生の寮に入ると、入ってすぐの場所に服を剥がれ、ブラとスカート、魔法石のネックレスという狂ったファッションコーデのポアリと、大河の姿があった。
「露出魔か?」
「違う!」
そうアクアが言うと、ポアリが怒った口調で言った。
「いや、なんか順調に物を売っていったんだけれど――」
一時間ほど前のポアリと大河。
中庭の前の人工池の前を通っていた。
全部売れて、大河の顔にも全開ではないものの笑顔が出てきた時、事件が起こった。
「「ポアリちゃん!」」
目の前に見慣れた丸眼鏡と高身長の同級生、生徒会の副会長と書記が現れた。
それに生徒会会計の姿があり、ポアリ達に軽く会釈をする。
彼らはいつもの制服ではなく、私服姿なのを見ると、一度彼らは家に戻っていたが、今ポアリ達がガラクタを売り歩いているというのを人づてで聞き、急いでやってきたのだと予想できた。
「ポアリちゃんが僕達にも何か売って!」
「いや、もう売れきれたし……」
ポアリが迷惑そうな顔で言うがそんなのお構いなしのようだ。
「じゃあ、ポアリちゃんの持っているものでいいから!」
「じゃあ、僕はポアリちゃんのリボンタイと靴下貰う!」
ポアリも引いたが、大河はそのグイグイさに驚き、怖がっている。
「そんな500ウェルトンで売れないし……」
「「じゃあ、もっと出せば買ってもいいんだね?」」
自分がそう言うが聞いてくれず、二人でポアリに掴みかかり、体を撫でながら、装備品を一つ一つ丁寧に剥がしていった。
結局、一個5000ウェルトンで、制服など身に付けていたものを持ってかれた。
「あいつら、財力が高校生ではない。富豪だよ、富豪――」
「という感じだね。おかげでお金が潤ったんだけど」
お金が入っているブリキ缶を振る彼の笑顔に、この時はポアリも狂気を感じたという。
「服を取りに行きたいけれど、ロベルトが泣いていると言うし、自室に行くのが怖くて」
そう言うポアリに、アクアが言う。
「まぁ、気が狂って大河に襲い掛かってきても。三対一のタイマンなら負けねぇべ」
「えっ、僕襲われるの?」
((というか、三対一ならタイマンって言わないだろう……))
そうポアリと大河は思ったが、とりあえず部屋に向かう。
階段を上がり、廊下を渡り、部屋の前まで来た。
深呼吸をし、部屋の扉に手をかける。
だが、ロベルトの部屋は開いていた。
入ってみると、小さいテーブルを出しており、そこにはクッキーと白いティーセットが並べられていた。
(――どっちだ?ロベルトはどっちの気分で用意しているんだ?)
それが大河の歓迎会なのか、お別れ会なのかはまだ分からない。
「あっ、おかえり。ポアリちゃん、大河君。家庭科室でクッキー焼いてきたんだけど食べる?お紅茶も良いの、買っちゃったんだ」
悲しすぎておかしくなってしまったのか、私は哀れんで顔を下に向ける。
「ロベルト、君にはとても感謝しているし、これからも良い関係を続けられたらと思っているよ。君以上に親切な人が存在しないんじゃと思うくらいだ」
「ヤダなぁ、歓迎会なんだから、しんみりした雰囲気を出さないでよ」
ロベルトがそう言い、私は顔を上げる。
「最初はマイナスな事ばかり考えて、ナイフを研いだりしていたんだけれど。先程、理事長先生から人づてで伝言があって、これからもルームシェアしてもいい事になりました」
彼はパチパチと手拍子をするが、私はナイフを研いでいたという事実に震える。
大河も同じだったようで、少し震えている。
「これからは三人でこの部屋で暮らすよ」
「えっ?屋根裏部屋は?」
レイン先生が一生懸命掃除していたのに、何故そうなるのだろうか。
そう思っていると、ロベルトが言う。
「そこは先生が使うらしいよ」
「あー、確かにレイン先生、私が人を召喚したから、減給になるかもって言っていたな」
後でロベルトが焼いたクッキーをお裾分けに伺おう。
「いや、理事長先生だよ。生徒に手を出している事が息子にバレたというか、浮気相手の男子が、別れ話の腹いせに校内放送で全部暴露したんだって」
「なんだろう。全然、可哀そうだと思わないね」
大河とポアリは、呆れながらそう話をする。
『アクア君。手を下さなくても、なるようになりましたね』
そうセゾンがアクアに言う。
「じゃあ、とりあえず着替えてくるよ。ついでにシャワーも浴びてくる」
とりあえず、ソファーにアクアは座り、ロベルトが淹れた紅茶を飲んで、一息吐く。
クッキーの皿を膝に乗せていると、隣にケルモドがやって来た。
「これは人しか食べられないんだ、ごめんな」
使い魔とそんなやり取りをしていると、大河がアクアに話しかけた。
「あの、さっきはごめんね。こっちの世界に来たばっかりで、不安でいっぱいで、八つ当たりしてしまったというか――」
「ん?別に気にしてないし、後これやるよ。俺からの歓迎プレゼント」
ズボンのポケットからそれを出し、渡す。
それは理事長から貰った、魔法石で出来た万年筆だった。
「後、これも!」
「むぐっ――な、なに!」
彼はロベルトから貰ったクッキーを無理やり、大河に食べさせた。
「毒は入って無さそうだな――」
「えっ?酷い!毒見させたの!後、さっき僕の事、ゴリラって呼んだの、それ許してないんだからね!」
「毒、入れる訳ないでしょ?ポアリちゃんに作ったクッキーなんだから」
ロベルトはそう言い、ポアリの寝間着をシャワールームに運ぶ。
ロベルトが見た彼らは、言葉がやや喧嘩っぽくなっていたが、少し嬉しそうだったという。
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