スポンサーリンク

 第三章『召喚と掃除の憂鬱』⑥

スポンサーリンク

『やったね、アクア君。色々あったけど、順調に物事が進んでいるね』

 セゾンは安堵しながら、アクアの事を褒める。

「きゃん!」

「そうだな、順調だな」

 アクアはそう返事をし、ケルモドの頭を撫でる。

 アクア達は新校舎に戻り、最上階にある理事長室に入る。

「失礼します!」

 そう言い、大きな扉を開ける。

 少々、事件が起きた。

「うわっ、ちょっと……」

 理事長は驚き、声を出しその場で固まった。

 理事長室は応接室を兼ねているので、理事長の席とは別に、大きなソファーが二つと、その間にテーブルがあるのだが、その来客用のソファーに理事長がいる。

 理事長室に理事長がいても問題ではない、だがそこには理事長の他に男子生徒がいた。

 理事長が彼に膝枕をしていて、耳かきをしていたのは問題だろう。

『耳かきって浮気に入るのでしょうか?』

 セゾンが一番困惑しており、そうアクアに訊ねた。

「でも、専門店もあるくらいだから……セーフ?」

 二人で会話をしていると彼女は、慌てて耳かきの片付けをし、男子生徒を起こす。

「ん?先生、どうしたの?」

「ちょっとだけ、待っていてくれる?君は私と廊下で話をしようか」

 その男子生徒をソファーに置いて、廊下に二人で出る。

「君は……」

「フロート君の同級生のアクアなんですけど。フロート君がピアスを拾って届けに」

 そう言い、ポケットの中を探るのだが、彼女は息子の名前が出た時、肩が跳ねた。

 状況が状況なだけあるので、仕方がない。

 ポケットから折りたたんだ食券を出し、中からピアスを取り出す。

「ありがとう。息子に渡しておくよ」

 そう言う彼女の目は、やはり泳いだままで、そしてアクアはお願いをされる。

「後、この事なんだけれど、息子には……」

「どうしようかな……」

 少し悩みながら、隣のセゾンを見る。

 アクアとフロートの関係だが、喧嘩もするけれどお互いよく話すし、自分が困ったときは今回のピアスのように助けてくれる。

 どちらが彼の為なのだろうか。

『言ったところで、恋愛の癖っていうのは直らないそうなので、放っておくほうがいいのでは?これは家族の問題なので……』

 変に首を突っ込んだら、ややこしくなる場合もあるそうだから、放っておこう。

「そうだ、君。何か望みというか、欲しいものあったりする?用意してあげるよ」

 すると、理事長がアクアに言う。

「んー、特には無いかな?強いて言うなら、今ポアリに頼まれて物々交換して、校内を周っていたから、何か交換できるものが欲しい」

「じゃあ、これとかどうかな。今、手元にあるもので申し訳ないんだけれど」

 彼女が上着のポケットから、煌めく素材でできた万年筆を取り出した。

「外は魔法石で出来ていて、中のペン先はドラゴンの金鱗で出来ているよ」

 それをアクアに手渡しし、理事長は彼の反応を窺う。

 だが、アクアは興味がないのか、よく分からない顔をしている。

(ドラゴンの金鱗一枚で、国の首都好立地に土地付きで、一軒家が建てられるくらいの価値なのに。この子、まだ足りないみたいな目をしているわ……)

 アクアは単純に、物の価値が分からないからの反応だったのだが。

 その興味のない、やる気の無い目が、彼女に恐怖を与えた。

 そして、彼女は更に言った。

「じゃあ、ポアリちゃん、いやそのお友達のお願いも聞こうかな?」

「あぁ、それは助かる。みんなの望みを叶えてやってくれ」

 

 こんな形で、アクアのわらしべ長者ミッションが幕を閉じたのだった。

 校舎の外に出ると、もう夕方で、夕焼けで空が真っ赤に染まっていた。

「もうすぐ、秋なんだな」

『そうですねぇ』

 そして、寮への帰り道、中庭を歩いていると、一人の男子が人工池を覗き込んでいるのが見えた。そこには自分と同じくらいの年齢の男子だったが、この学園の制服を着ていない。

(学園の関係者だろうか……)

 アクアはそう思いながら、その人物の真横を通り過ぎた。

 すると、地面に何か物が落ちるような音がし、振り返る。

 その人物は天を仰ぎ、その場に倒れていた。

 驚き、とりあえず駆け寄る。

「だ、大丈夫か?」

 彼は目を回しているようで、地面に降ろしたケルモドはペロペロと彼の額を舐めている。

「お――」

 彼は声を頑張って絞り出す。

「な、何だ――」

「お腹が空いた……」

 彼の腹が鳴る音がその場に響く。

(折れ線が付いて、ぐちゃぐちゃになった食券が役に立つとは……)

 神様っているんだなと、アクアは感動し、彼に食券を渡し、食堂への生き方を教える。

 その人物と別れ、ルンルンで鼻歌を口ずさみながら、スキップをする。

 ケルモドはトコトコとアクアの後を追い、二年生と三年生の寮に入ると、入ってすぐの場所に服を剥がれ、ブラとスカート、魔法石のネックレスという狂ったファッションコーデのポアリと、大河の姿があった。

「露出魔か?」

「違う!」

 そうアクアが言うと、ポアリが怒った口調で言った。

「いや、なんか順調に物を売っていったんだけれど――」

 一時間ほど前のポアリと大河。

 中庭の前の人工池の前を通っていた。

 全部売れて、大河の顔にも全開ではないものの笑顔が出てきた時、事件が起こった。

「「ポアリちゃん!」」

 目の前に見慣れた丸眼鏡と高身長の同級生、生徒会の副会長と書記が現れた。

 それに生徒会会計の姿があり、ポアリ達に軽く会釈をする。

 彼らはいつもの制服ではなく、私服姿なのを見ると、一度彼らは家に戻っていたが、今ポアリ達がガラクタを売り歩いているというのを人づてで聞き、急いでやってきたのだと予想できた。

「ポアリちゃんが僕達にも何か売って!」

「いや、もう売れきれたし……」

 ポアリが迷惑そうな顔で言うがそんなのお構いなしのようだ。

「じゃあ、ポアリちゃんの持っているものでいいから!」

「じゃあ、僕はポアリちゃんのリボンタイと靴下貰う!」

 ポアリも引いたが、大河はそのグイグイさに驚き、怖がっている。

「そんな500ウェルトンで売れないし……」

「「じゃあ、もっと出せば買ってもいいんだね?」」

 自分がそう言うが聞いてくれず、二人でポアリに掴みかかり、体を撫でながら、装備品を一つ一つ丁寧に剥がしていった。

 結局、一個5000ウェルトンで、制服など身に付けていたものを持ってかれた。

「あいつら、財力が高校生ではない。富豪だよ、富豪――」

「という感じだね。おかげでお金が潤ったんだけど」

 お金が入っているブリキ缶を振る彼の笑顔に、この時はポアリも狂気を感じたという。

「服を取りに行きたいけれど、ロベルトが泣いていると言うし、自室に行くのが怖くて」

 そう言うポアリに、アクアが言う。

「まぁ、気が狂って大河に襲い掛かってきても。三対一のタイマンなら負けねぇべ」

「えっ、僕襲われるの?」

((というか、三対一ならタイマンって言わないだろう……))

 そうポアリと大河は思ったが、とりあえず部屋に向かう。

 階段を上がり、廊下を渡り、部屋の前まで来た。

 深呼吸をし、部屋の扉に手をかける。

 だが、ロベルトの部屋は開いていた。

 入ってみると、小さいテーブルを出しており、そこにはクッキーと白いティーセットが並べられていた。

(――どっちだ?ロベルトはどっちの気分で用意しているんだ?)

 それが大河の歓迎会なのか、お別れ会なのかはまだ分からない。

「あっ、おかえり。ポアリちゃん、大河君。家庭科室でクッキー焼いてきたんだけど食べる?お紅茶も良いの、買っちゃったんだ」

 悲しすぎておかしくなってしまったのか、私は哀れんで顔を下に向ける。

「ロベルト、君にはとても感謝しているし、これからも良い関係を続けられたらと思っているよ。君以上に親切な人が存在しないんじゃと思うくらいだ」

「ヤダなぁ、歓迎会なんだから、しんみりした雰囲気を出さないでよ」

 ロベルトがそう言い、私は顔を上げる。

「最初はマイナスな事ばかり考えて、ナイフを研いだりしていたんだけれど。先程、理事長先生から人づてで伝言があって、これからもルームシェアしてもいい事になりました」

 彼はパチパチと手拍子をするが、私はナイフを研いでいたという事実に震える。

 大河も同じだったようで、少し震えている。

「これからは三人でこの部屋で暮らすよ」

「えっ?屋根裏部屋は?」

 レイン先生が一生懸命掃除していたのに、何故そうなるのだろうか。

 そう思っていると、ロベルトが言う。

「そこは先生が使うらしいよ」

「あー、確かにレイン先生、私が人を召喚したから、減給になるかもって言っていたな」

 後でロベルトが焼いたクッキーをお裾分けに伺おう。

「いや、理事長先生だよ。生徒に手を出している事が息子にバレたというか、浮気相手の男子が、別れ話の腹いせに校内放送で全部暴露したんだって」

「なんだろう。全然、可哀そうだと思わないね」

 大河とポアリは、呆れながらそう話をする。

『アクア君。手を下さなくても、なるようになりましたね』

 そうセゾンがアクアに言う。

「じゃあ、とりあえず着替えてくるよ。ついでにシャワーも浴びてくる」

 とりあえず、ソファーにアクアは座り、ロベルトが淹れた紅茶を飲んで、一息吐く。

 クッキーの皿を膝に乗せていると、隣にケルモドがやって来た。

「これは人しか食べられないんだ、ごめんな」

 使い魔とそんなやり取りをしていると、大河がアクアに話しかけた。

「あの、さっきはごめんね。こっちの世界に来たばっかりで、不安でいっぱいで、八つ当たりしてしまったというか――」

「ん?別に気にしてないし、後これやるよ。俺からの歓迎プレゼント」

 ズボンのポケットからそれを出し、渡す。

 それは理事長から貰った、魔法石で出来た万年筆だった。

「後、これも!」

「むぐっ――な、なに!」

 彼はロベルトから貰ったクッキーを無理やり、大河に食べさせた。

「毒は入って無さそうだな――」

「えっ?酷い!毒見させたの!後、さっき僕の事、ゴリラって呼んだの、それ許してないんだからね!」

「毒、入れる訳ないでしょ?ポアリちゃんに作ったクッキーなんだから」

 ロベルトはそう言い、ポアリの寝間着をシャワールームに運ぶ。

 ロベルトが見た彼らは、言葉がやや喧嘩っぽくなっていたが、少し嬉しそうだったという。

コメント

タイトルとURLをコピーしました