この世界の秋も同じように紅葉シーズンが来るようで、落葉樹の木の葉が赤や黄色に染まっていた。
この日は三連休の初日、秋らしくなってきたので、秋らしい事をしたい話になった。
そして、アクアと大河と話し合いをした結果。
「焼き芋焼きたいねぇ」
「そうだなぁ」
中庭の人口池の前で、ホウキで木の葉をかき集め、焼き芋を焼くことにした。
『サツマイモはこの世界に無いから、違う芋になりますが』
保護者、アーノルドとセゾンの許可も出たので、張り切って作る。
用意されたのはサトイモに似た丸い芋で、加熱すると甘栗のような味になる品種を用意した。ナガイモと同じく、粘りがあり、肌に着いたら痒くなるらしい。
本来ならアルミホイルで、芋を包むのだが、それはこの世界にないので、鉄くずを潰し、薄い紙のように加工して、それを巻いた。
(焼き芋を作るよりも、偽アルミホイルを作るほうに時間がかかるとは……)
そう思いながら、包んだ芋に落ち葉を被せる。
「アーノルドさん、セゾンさん。この電気マッチで木の葉に火が付くんですか?」
『まぁ、出来るって話なので、大丈夫かと。アクア君、マッチを擦ってくれるかな?』
アクアがマッチを擦ると、その先からパチパチと電気の火花が飛び出す。
それを入れると、木の葉が黒く変色し、煙が上がる。
「この世界、不思議ですよね。火という物が無いなんて」
大河が言い、その火が付いていないのに燃えている状況を不思議がっている。
「ロベルトさん、来れないのは可哀そうだったね。仕方が無いよ、大学に上がる為には勉強しないといけないし」
彼ロベルトは、三年生なので一生懸命勉強していた。
この学園に大学部はあるのだが、入試試験は受けなければならないようだ。
高等部からの生徒なので、面接や魔法の実技試験は免除らしいが。
「エスカレーター式で入学できるって思っていたんだけど、勉強もうし始めなきゃいけないかな……」
「俺もそろそろ勉強しなきゃ」
アクアが悩んだように言う。
「お前は勉強しても無駄なんじゃないか……」
「一応、俺。成績は学年二位だぞ」
アクアは私達が驚く事実を話した。
「「えっ!?」」
驚き、声を出すと、そうだよと話すアクア。
「だって、お前こんなに馬鹿じゃん」
『私が説明しましょう。以前、彼が転生前のお願いが頭を良くしてくださいと説明しましたよね』
初めて会った時、そんな事を話していた気がする。
「でも彼、話は滅茶苦茶だし、奇行は目立つし、凄く頭悪いですよ?」
そう大河がセゾンに言うと、説明をする。
『最初に話をした時、頑張れないタイプの不良だなと思い、文字や数字の処理能力を上げたんですよ』
「そんなパソコンのような……」
セゾンが初めて会った時から、言葉も教養も滅茶苦茶だったそうだ。
『彼、ダルダルの服をダルダル着ていた系の不良なので……』
それで、セゾンが可哀そうに思ったようで、これから困らないようにスペックを上げたのだった。
『アクア君は1パーセントでも努力すれば、学年一位になれますよ?』
「そんなに頑張れないからいい」
アクアはセゾンがそう言っているのに、首を横に振った。
「たった1パーセントじゃん……」
私が呆れて言うが、アクアは首を横に振るだけだった。
「そうだよね、頑張っても無意味だもんね……」
大河が暗い顔でぽつりと呟く。
それは本当に小さな声で、たまたま聞き取れたぐらいの音量だった。
アクアが彼の元にズカズカ近づき、学ランの胸倉を掴み、手を振りかぶった。
「やめて、僕を殴ったって学年一位になれないよぉ!」
「なめんな。マジなめんなよ」
彼の瞳は死んでいて、本当に引っ叩きそうだったので、引き離す。
「そんな態度だと、セゾンから大河が薬貰っているの、ポアリに言う!」
「ちょ、ちょっと!」
アクアが解き放った言葉に、大河は動揺した。
「あっ、やべっ――」
アクアも彼の反応で、まずい事を言ったなという反応をしていた。
私は彼が何か病気を持っていたり、薬を飲んでいたのを見たことがなかった為、彼に何の薬を飲んでいるか訊ねた。
「大河君、薬って何処か悪いの?」
「いや、別に何でも……」
自分が訊ねると、適当にあしらい、視線を逸らす。
(何で、私に秘密なんだろう……)
まさか、危ない薬とかではないだろうか。
アクアの転生前は暴走族で、無免でバイク走らせていたし、もしかしたらやばいお薬とかに精通していても、おかしくはない。
「なぁ、セゾン。焼き芋って何分くらいでできるの?」
『一時間くらいでは?』
セゾンも仲良くしているのは、表面だけで、本当は裏の顔とかあるのかも。
私はこの日を境に人間不信になり、悩み始めてしまう。
そんな三連休が終わり、学校の授業が始まる。
「はぁ――」
教室の隅の席に座り、溜息を吐く。
「なんか、三連休後から、元気無いよね?」
すると、それを見た同級生の副会長と書記は心配して、声をかけてきた。
「僕たち、だったりする?」
「ポアリちゃんの制服と靴下を貰っちゃったから……」
実際、今の私はワイシャツと、たまたま守れたスカート、適当に購入したカーディガン。
それとなく、制服っぽい恰好を見繕い、登校していた。
(確かに、スカートしか制服じゃないけれど……)
それも困ってはいるが、それが理由ではないので違うと言う。
「目の下のクマも凄いし、唇の血色も悪い気がする」
「後、髪もパサパサしているよね」
目のクマ以外は秋の乾燥が原因だと思うが、彼らは私の事をよく見ているらしい。
自分が分からない、自分のコンディションを知っている。
「あまり寝られていなかったりする?」
「う、うん……寝ているんだけれど、体の疲れが取れなくて……」
自分は困り笑いをし、彼らに悩みを打ち明ける。
「なんか、うちの大河君がその……お薬を貰っていたようで……それが何の薬なのか教えてくれないんだ」
そう相談すると、彼らは凄く困惑した顔をした。
「えぇっ!」
「凄い、重い相談だった!」
「しかも病院からではなく、知り合いから、こう横流しで……」
副会長と書記はそう言い、泣きそうになる自分を宥める。
「怖いね」
「ポアリちゃん、飲まされそうになったら、すぐに逃げるんだよ」
「他人に言いにくい、怪我や病気。痔とか、泌尿器系なら、いいんだけれど……」
私はそう彼らに言う。
「そうそう、ポアリちゃん。そういえば今週末、一年生と二年生混同で、裏山にハイキング行くじゃない?」
「そうそう。目的地が、精霊のいる泉なんだけれど、何の病気でも治るらしいって伝説だよ」
副会長の話で、書記も思い出したように言う。
「へぇ、それはいいね。本当に何でも効くの?」
「何でもっていう話だけれど、骨折と痔、水虫に効くのは先輩たちが検証済みらしい」
週末に控えた一、二年混同ハイキングは、使い魔も連れていっても問題ないそうなので、大河も連れて行こう。
薬物で駄目になった脳は治せないかもしれないけれど、他の病気であれば良くなるという事だから、安心だ。
「週末が楽しみになってきたよ。二人共ありがとう」
そう二人にお礼を言うと、彼らは少し困ったような笑い方をした。
この時の私は知らなかった。
彼らがどうして困ったように、笑ったのかを。
コメント