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 第一章『初恋』②

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「一緒にシャワー浴びようか?」

「は、はい……」

 お兄さんはとても手慣れていた。

 ホテルのチェックインから、行為前のシャワーまで。

 自分は借りてきた猫状態で、緊張し、体がガチガチになる。

 逆に、半勃ちした自分の物は、ホテルに着くまでの間に落ち着いてしまったが、性的興奮を抑えられない。

「緊張しなくていいからね」

 そう言い、お兄さんはタオルネットで泡を立たせ、自分の体にくっ付ける。

「ふふ、泡だらけ」

 体を洗う時は、自分の体に自身の体を擦り付けた。

 ある程度それをすると、自分を風呂場の椅子に座らせ、シャワーを当てる。

「お兄さんはこういうの、よくするの?」

「布教の事?それともこういう事?」

 質問をしたのだが、それをはぐらかすように、曖昧な返事をし、自分の物を口に入れる。

「ちょ、ちょっと……」

「んー?」

 お兄さんは、とても手慣れている。

 受け答えも、こういう官能的な事も。

 勿論、口でするのも、上手で、舌で自分の良い所を見つけると、そこをねちっこく責め、絶頂しそうになる寸前で、舌を動かすのをやめた。

「続きはベッドでだね」

「う、うん……」

 息を切らしながら、そう返事をする。

 ベッドでのお兄さんは、とても素晴らしかった。

 横になっている自分の体に覆い被さる感じで、抱き着いている。

「その……は、初めてで……」

「そうなの?女の子とも?」

 顔が紅潮するのが分かる。

「じゃあ、俺が教えてあげるね」

 お兄さんの両手が自分の両頬に触れ、お互いの唇が重なる。

 それはとても長く、自分は苦しくなり、空気を少しでも吸おうと、唇を微かに開ける。

 その瞬間、彼は舌をねじ込み、それを絡ませた。

 キスが終わる頃には、彼とのこれが、カルトの勧誘であったという事を忘れていた。

 ついさっき出会い、名前を知らない間柄にも関わらず、これだけ興奮し、自分の欲望を晒す事ができる事に驚愕している。

 驚きと性的興奮で、頭がおかしくなっていると、ベッドの上の彼が不敵な笑みを浮かべる。

「さぁ、どうぞ」

 カルトのお兄さんは、自分に対し、足を開き、穴を広げた。

(どうしよう……しちゃった……)

 自分はベッドの上に横になり、天井を眺めている。

 カルトのお兄さんは、自分の横でスヤスヤと眠っている。

 何回か行為した後、ベッドの中で体を撫でたり、キスしたりをしていたが、力尽きたのかお兄さんは眠ってしまった。

(この後、どうしよう……)

 自分も眠れたら良かったのだが、ベッドの寝心地が良くないというか、自分と合わないというか、落ち着かない。

(やっぱり、カルトの話聞かなきゃ駄目なのかな……抱いちゃったし……)

 正直、カルトに入信する気が無い。

 大きな悩みは特に無いし、無宗教で困った事がない。

 大体、カルトに入っている人は何が楽しくて、こんな事をしているんだろう。

(このお兄さんだって、初対面の人間の相手をして、辛くないのだろうか?)

 お兄さんの事を思うと、説明だけ聞くのもありだが、それがきっかけで、教団からしつこく勧誘されるのは面倒だ。

 そんな中、ある考えが頭を過る。

『逃げちゃう?』

 お兄さんには申し訳ないが、面倒事に巻き込まれたくない。

 幸いなことに、シャワーを浴びる時も、ベッドに入ってからも、ずっと一緒だった為、自分の荷物を探られたりしてはいない。

 カルトのお兄さんは、自分が誰なのかも、何処の大学なのかも、全く知らない。

(ごめんね……)

 自分は着替え、鞄から財布を取り出す。

 財布の中には、画材を買うためのお金、二万円が入っていた。

 それを取り出し、比較的分かりやすい場所を探す。

(ここなら分かるかも……)

 それはアンティーク風の古いテーブルで、シャワーを浴びる前にお兄さんが置いた宗教の冊子が数個、上にあった。

自分はその冊子の上に万札を二枚置き、心の中で謝罪をする。

それが今、自分にできる最大限の誠意であった。

「ん――」

 そんな中、お兄さんが寝返りを打った。

 体と心臓が跳ねたが、お兄さんが起きる事はなかった。

 そのお兄さんとは、これで終わり。

 速やかにホテルを出て、本来の目的を達成せず、快速電車に乗った。

(早く、この場所から、この地域から逃げなければ……)

 心臓が早く鼓動し、視線も定まらず、黒目がキョロキョロしているのが自身でも分かる。

 逃亡している指名手配犯は、こんな気持ちなのだろうか、それとも捕まったら死ぬタイプのデスゲームに巻き込まれたような感覚に、これは近いのだろうか。

 中途半端な時間帯というのもあり、電車はガラガラで、小学生の子が椅子に座りながら、謎の手遊びをしている。

 しばらくすると、電車が発車し、窓からの景色が左から右に流れ始め、それがきっかけでやっと、気持ちが落ち着き始めた。

「あーあ、負けちゃった」

「もう一回」

 そう盛り上がっている小学生が気になり、視線を向けると、自分の事を気にせず、とても楽しそうに笑っていた。

(そうだよ……自分は間違ってない……)

 あどけなく笑う小学生達を見て、そう考え始める。

 責任転換なのかもしれないが、仕方がない。

 無宗教の人間からすれば、彼らは異常でしかないのだ。

 特別、宗教を信仰しなくても、人間は分かり合えるし、幸せになれるのだから。

 もう宗教と関わるのは絶対にやめよう。

 オメガと関係を持つこともだ。

 他人も自分も傷つけたくない。

 そう思った。

 そこから、幸福な事に宗教とは無縁の十年が過ぎる。

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