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 第三章『憧れとの再会』④

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 新宿二丁目にタクシーで移動する。

 飲み屋街、個人経営のバーが並んでいる一角に彼の店はあった。

 店に入ると、バーカウンターにいた従業員が挨拶をする。

「いらっしゃい。あぁ、おかえりなさい」

 カウンターにいたのは、小綺麗にしている若い女性だった。

 一般的なバーテンダーの恰好をしており、長い髪を後ろでお団子にしている。

「何で女の子がいるの?それともこの子、ニューハーフとか?」

「いや、ベータの女性だろう」

 志摩は勘が良く、そういうところは、本能的に理解する。

「村雲の店って、オカマバーじゃなかったの?」

「普通の店よ。カクテルとか出してるの。さぁ、二人共入って」

 そう言われ、二人は中に入れられ、カウンターに座る。

「後、この人。自分の奥さんだから」

「あっ、ども。嫁です」

 志摩はそれに無表情のまま、愛想なく挨拶をする。

「えっ?えぇっ?」

 動揺したのは同伴したオメガのみだ。

「二次会行ってきてもよかったのに」

「だって、最近物騒だし、心配で。後、酔ったら早く帰りたくなったんだもん」

 女装中年おじさんと、若い女子が夫婦というのも、少し歪というか、奇妙な光景だが、本人達が幸せならいいのかもしれない。

「まぁ、自分は志摩と飲めればいいんだけど」

 考える事を諦めたオメガは、隣の志摩に寄り掛かる。

「ねぇ、志摩って結構お酒強いの?」

「まぁ、そうなのかもしれない」

 志摩自身、飲酒はあまり好まず、飲み会や付き合いがないと飲まない。

 今回の飲み会では、結構飲んでいるが、一般的に言われている症状、ふらつき、火照り、嘔吐などは出ていない。

「そうなんだー。自分も強くて――」

 そうオメガの男性が言うが、村雲夫婦は思う。

「普通に飲んでも楽しくないから、ゲームしない?」

「ゲーム?」

 志摩は困惑した顔で隣のオメガの顔を見つめた。

「お互い、同じお酒を飲んでいって、潰したり、参ったと言わせたら勝ちとかどう?あと、負けたら、勝った人のいう事を聞く」

 その会話を聞いていた村雲夫婦は同じことを思った。

((あぁ、コイツ負ける……))

 この戦いは志摩が勝つというのは、経験から察する。

(志摩は結構ハイペースで飲んでいたのに、顔色一つ変わっていない――)

 食事の時も、カラオケの時も、結構強めの酒を飲んでいた事に村雲は気づいていた。

(だが、もう片方は少し頬が赤らんでいる)

 村雲嫁も同じことを思ったようで、可哀そうなものを見る目を向ける。

「折角だから、ガツンと来るやつがいいよね」

 そう言い、近くにあったスタンド型のメニュー表を手に取った。

「モヒート系とか、テキーラが入っているやつとか――」

「じゃあ、そういうので――」

 志摩はまだ焼酎を飲みながら、顔色変えずに返事をする。

(やめとけ、君が潰れるんだから……)

 村雲は最初そう思っていたが、脳裏にある事が過る。

(いや、待て。違う。こいつ自分が潰れてもいいと思っている――)

 まさか、持ち帰られるのが目的か。

 とりあえず、泥酔した状態で、同じ部屋、密室で一晩過ごしたという事実さえあれば、後々好き放題言える。

(アルファで、現役の弁護士、かなりの高スペックだものね……)

 そこで、肉体的な関係まで発展したら、もっと良いという事だろう。

(流石オメガやることが腹黒い……)

 それは嫁も同じことを思っていたようで、かなり渋い顔をしていた。

「でも、ハイボールが好きだから、最初はそれにする」

「じゃあ、ハイボールで」

 村雲嫁はそう言われ、ハイボールと別皿でレモンを用意し、二人に差し出す。

「志摩、いっぱい飲もうね」

 ハイボールが入ったジョッキをお互い注文し、ハイペースで飲み始めるのだった。

 そんな様子で一時間くらい経過すると、案の定、志摩は同席者を潰し、カウンターに突っ伏しているオメガの頭を撫でている。

「それはどういう心理で撫でてるの……」

 洗浄済みのグラスをタオルで拭きながら、村雲嫁は志摩に声をかけた。

「髪の毛、柔らかいのかなって……あっ、柔らかかった」

 それに対して、苦笑いしている嫁を横に村雲は志摩に話しかける。

(計算通りかもしれないけど、持ち帰りはされないかなぁ)

 後で、潰れた彼用のタクシーを手配する事になるだろうと、村雲夫妻は思った。

「そういえば、志摩は春島君と住んでいるのよねぇ」

 すると、志摩の体がぴくんと跳ねる。

(あー、やっぱり)

「志摩さんって、今誰かと住んでるんですねぇ。意外です」

 村雲嫁から見ると、志摩は常識と協調性が無いように見えたのか、そんな反応をした。

 まぁ、実際その通りの為、村雲は反論できないのだが。

「どんな人なんですか?」

 村雲嫁はそう志摩に訊ねると、志摩は子供のように、目をキラキラさせた。

「すごく、優しい人だ」

 志摩はそう言い、へにゃりと笑む。

(良い笑顔。志摩のこんな顔、見れるなんて感動しちゃうな……)

 村雲はそう思いながら、一杯の水を口にした。

(そういえば、春島君の方は大丈夫かしら?)

 急性アルコール中毒で、救急搬送されてないといいけどと、村雲は思いふける。

 志摩は嬉しそうな表情で、村雲嫁にこの場にいない春島の話をするのだ。

 カウンターに突っ伏したオメガの頭を雑に撫でる。

 それは犬と猫を撫でるようだったが、やはり雑で、愛でてるというよりは触り心地がいいから撫でているという感じだった。

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