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 第三章『憧れとの再会』⑧

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(あー、困った。実に困った――)

 現在、時刻は午後四時を回ろうとしていた。

 肇との約束を大幅に遅らせて、帰宅しようとしているのだが。

「そういえば家、意外と近かったんだね」

「そうみたいだね」

 城永が一緒にいた。

 いや、ついてきてしまったというべきなのだろうか。

 遅めの朝食を済ませた後、自分が帰り支度をしていた時に彼が不意に訊ねてきた。

『ねぇ、その遊びに来るって子。男の子?』

『そうだけど――』

『春島君と志摩どっちの友達?』

 彼は薬用のリップクリームを塗りながら、そう事細かに質問する。

 その際、微かにミントの匂いが部屋に香った。

『どちらかというと、自分なのかな……』

 自分も適当な返事をし、あしらって、すぐ帰ればよかったのだが、律儀に一つ一つ答えてしまった。

『その子って、オメガだったりする?』

 彼の色素の薄い瞳が少し鋭くなった気がする。

 彼は少々、嫉妬深かった。

 それは小学生の頃から変わらずで、自分はそうだったなと思い出す。

「僕も行っていいかな?」

 同性、オメガ相手なら特にだ。

 昨晩、体を何回も抱き合わせた相手が、違うオメガに会うなんて、信じられなかったのだろう。

「なんか、こう偶然が重なっちゃうと、運命感じちゃうな」

「ははは……」

 自分は肇に対し、どのような謝罪の言葉を口に出すべきか、お詫びはどうすればいいのかが気になって返事が適当になる。

 実際、城永のマンションと自分のマンションは二駅程離れた場所にあり、近かった。

 今のマンションに引っ越してから数年、ずっと知らなかった為、通常なら盛り上がる会話の内容だ。

 だがしかし、それより頭が肇への罪悪感がいっぱいで、仕方がない。

 下手したら、自分が先程した会話の内容も思い出せないかもしれない。

 そう思いながら、最寄り駅に向かい、ホームに入る。

 そして、丁度やってきた各駅停車の電車に乗り込んだ。

 電車の中は意外と人はおらず、余裕があり、自分も城永は椅子に座る事ができる。

「ラッキー。二日酔いだったから、立ってるのしんどかったんだよね」

「うん、そうだね」

 そんな風に会話をしていると、ズボンのポケットの携帯が振動する。

 携帯を取り出し、内容を確認すると、メールが一通。

 それは志摩からで、一枚の写真が添付してあった。

(二人でハンバーガー食べたんだ)

 写真は志摩と肇のツーショットで、某チェーン店のハンバーガーをそれぞれ手に持っている。

(こんな時間なら、お腹も減るし、食事も取るか――)

 だが、少し仲間外れにされた感があり、少し寂しい気持ちになる。

「遊びに来るのって、その子?」

 隣にいた城永は、自分の携帯を覗き見て言う。

「可愛いね」

 彼のその声は冷たく、心が籠っていないように感じる。

 電車の空調が理由だろうか、掻いた汗が急に冷えたようで、自分は寒気で身を震わせた。

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