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 第三章『憧れとの再会』⑨

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「ただいまー」

 自分のマンションに辿り着き、扉を開ける。

「先生!おかえりなさい!」

 すると、来客が元気よく、自分を出迎えした。

「ごめんね、約束してたのに……」

 そう言い、近所のケーキ屋で購入したケーキの箱を渡す。

「うん、大丈夫。志摩がいたから平気」

 箱を嬉しそうに受け取り、微笑む。

(怒ってなかった――よかった――)

 自分が安堵していると、志摩もリビングから出てくる。

 志摩の顔色を気にするが、彼は酒に強かったらしく、二日酔いなんて知らないという表情をしていた。

「おかえり」

 そう言う彼は、少し大人になったような、今までの志摩とは違う雰囲気がある。

 一皮剥けたといった感じだろう。

(一晩で、何かあったのだろうか……)

 気になりはするが、それよりも自分は付いてきちゃった城永で頭がいっぱいだった。

「ただいま、なんだけど――ちょっと、あの。その――」

「こんにちはー」

 自分がごにょごにょと言葉を詰まらせていると、後ろからひょっこり城永が顔を出す。

 突然の新者に、二人の表情が強張った。

「春島君と今日から正式にお付き合いする事になった城永です」

 彼はにこやかに笑み、二人を見る。

「よろしくね」

 城永はそう言い、瞳を細めた。

 キッチンで白身魚をフライパンで焼く。

 潰したニンニクとオリーブオイルが焼ける匂いが香ばしい。

「春島君、何作るの?」

 すると、客人の城永が自分の元にやってきて訊ねてきた。

「冷凍していたアサリと魚の切り身があったから、今日はアクアパッツァかな」

「凄いお洒落。何か手伝おうか?」

 彼はそう言い、袖を捲る。

 線の細い腕が

「じゃあ、野菜室に入ってるマッシュルーム切って貰おうかな?」

「うん、了解」

 そう言った彼は冷蔵庫の野菜室から、マッシュルームのパックを取り出す。

 細く繊細な指が丁寧な動きで、ビニールを外していく。

「あぁ、手が可愛い。指が細くてお人形さんみたい」

 自分は歓喜していると、彼は取り出したマッシュルームを豪快に洗浄し始めた。

 基本キノコは調理の際、洗わないのだが、その豪快なところも愛おしく感じる。

(また、そのギャップで狂わせてほしい!)

 憧れだった人が自分の隣で、料理しているというシチュエーションに、自分は胸を高鳴らせる。

「先生、僕も何か手伝おうか?」

 先程まで、リビングのテーブル前で寛いでいた肇が自分に話しかけてくる。

「いや、いいよ。今日、自分が迷惑かけちゃったし。志摩とゆっくりしてて」

「でも――」

 そう言う肇は、城永と目が合った。

「大丈夫だよ。君は志摩とのんびりしててよ」

「――そう?」

 肇はそう言い、自分の顔色を心配そうに覗く、その仕草が可愛らしい。

(肇君は良い子で、可愛いなぁ――)

「大丈夫だよ。大丈夫――熱っ!」

 肇に話をしていた時、自分が調理していた魚の切り身から油が跳ねる。

 火を止め、少しコンロから離れ、跳ねた場所である右手の甲を撫でていると、心配したのか肇が声を出した。

「大丈夫?そ、そうだ。確か、冷凍室に保冷剤あったよね――」

 そう思い出し、冷蔵庫の冷凍室を開ける。

「よそ見しているからでしょ?もう――」

 隣にいた城永が作業を止め、手を洗う。

 そして、自分の方に近づき、火傷した手を取った。

「はい、ちゅー」

 そう言い彼は、火傷し赤らんだ手の甲に口づけをした。

 おとぎ話のお姫様はこんな気持ちなのだろうか。

 自分の体温が上がっていくのが分かる。

「ふふ、もう痛くない」

 口を離し、そう笑む彼に自分の中から、大好きオーラが溢れ出す。

(あぁ、自分の彼氏可愛い、好きぃ!)

 自分の顔はベロベロに溶け、それを満足そうな顔で見つめる城永。

 肇は保冷剤を持ちながら、黙ってそれを見ていた。

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