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 第七章『君の最後』④

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 朝食を済ませた後、男子達は雪かき、女子達は家事と掃除をし始める。

 雪かきといっても、そのうち皆ふざけ始めて、雪合戦に発展していく。

「程々にしろよー。石とか氷入れるなよー」

 雪で遊び始めた男子達にそう言い、空になったストーブの油タンクを持ち、物置小屋に移動する。

 石油をタンクに入れ終わり、戻ろうとした時、電話が鳴った。

 それは弟からで、少し嫌な予感がしながら、電話に出る。

「もしもし。あっ、この前のクリスマスは、靴下ありがとう。皆、喜んで――」

『お前、ニュース見たか!』

 電話の先の彼はそう言い、急かしてくる。

「ニュース?早朝のは見たけど?」

『今、テレビ付けて!』

「えー」

 重めのタンクを持ち、リビングに移動した。

「先生、どうしたの?」

 昼食の準備をしていた彼女が穏やかに微笑んだ。

「なんか、弟がニュース見ろって」

 タンクをストーブにセットし、電源を入れる。

 そして、彼女が出した水で手を洗い、リモコンの電源を付けた。

 たまたま付けたチャンネルがドラマだった為、それが映るのだが、その上部分に速報の文面が表示されている。

『宗教団体【幸福の中の幸福】の教祖、淫行で逮捕』

 チャンネルをニュースに変更すると、話題はそれで持ち切りのようである。

『教祖は儀式、洗礼と表し、淫行行為を行ったと見られています。性被害を受けたのは、信者のオメガ、ベータ女性、推定――』

 その内容を見た時、自分の中にあった霧が晴れていった。

「馬鹿が、やっと逮捕されたか」

 思ったよりも時間が掛かったなと、深く溜息を吐く。

 電話を再び弟にかけ、話をすると、彼は更に言った。

『後、肇が――』

 電話口で弟が話をし始めた時、硝子のコップが床に落ち、割れた。

「えっ?」

 その方向を見ると、割れて粉々になった破片のある床の傍で、彼女がへたり込んでいる。

「ちょっと待っててくれ。子供が怪我しそうだから、電話切るわ」

『こっちはそれどころじゃないんだって、このバカ垂れが!』

「うるせぇ!」

 兄に向ってなんて事いうんだ、生意気だぞと思ったが、平常心。

 息を整え、携帯を切り、近くに置く。

 彼女の傍に寄り、肩に触れる。

 その瞬間、電流が走ったような感覚に襲われる。

(あっ、これが所謂……)

 運命の相手と出会った際、電流が走った感覚に似たものが発生すると聞いていたが、これか。

 朝の違和感の正体はこれか。

 弟が言おうとした事がこの時、分かった。

 番の契約が外れたという事は、彼は、あの少年は――

(そっか――君は――)

 まだ、若い。

 やり残したことが沢山あっただろうに。

 初めて彼と会った時を思い出した。

 あの時の自分は怖かっただろう。

 自分の精神が大人になるのが遅すぎて、謝る事から逃げてきた。

 君にもう、謝る事も、許されることもない。

 無意識に涙が溜まり、破片だらけの足元に落ちた。

(あー、涙もろい)

 自分は歳を取ったのだなと思っていると、抱き寄せた彼女が頬の涙をぺろりと舐めた。

「先生、好き。大好き」

 彼女も初めての感覚で、少し戸惑っているのが分かる。

 でも、期待もしているようで、自分を抱きしめて、頬ずりをしてきた。

(凄く感情がぐちゃぐちゃだ……)

 彼女から甘い匂いがし始めて、その香りを吸う。

(片付け、後でしよう……)

 新しい番の登場で、自分が大事に思っていた少年への気持ちが薄れていく。

(肇、今まで本当にごめん……)

 おそらく、今思った気持ちが最後になる。

 その匂いは段々強くなってきて、自分は理性的ではなくなる。

「二階、行こうか――」

「うん――」

 この時から、彼女を子供扱いするのをやめた。

 フラフラ状態の彼女を支えながら、リビングを出る。

「本当にいいのか?俺なんかで――」

「先生がいい」

そんな会話をしていると、洗濯籠を抱えた中学生達と、階段の前でばったり遭遇する。

「先生、お姉ちゃんどうしたの?」

 その中の一人が、自分に声をかけてきた。

 今からしますよ、なんて口が裂けても言えない為、白い嘘を吐く。

「具合悪くなったみたいで、二階で看病するから二階に上がらないでくれ」

「分かりました」

「お姉ちゃん、ゆっくり休んでね」

「先生も体調気を付けてね」

 心配そうに自分らを見る彼女達に、申し訳なさを感じる。

(ごめんな……嘘ついて……)

「後、リビングで硝子割っちゃったから、掃除機かけておいて――」

 そう中学生に伝え、寄り添い寝室に向かう。

 自分の寝室、背徳感がある状態で、番の儀式をする。

(肇の時も、こうしたんだっけ……)

 あの時は、作業という感じだったのに。

 彼女の小さめのアゴに手を添え、背後から細い首を噛む。

「んっ!」

 その瞬間、彼女の体が跳ねる。

(あー、好きだ)

彼女の血が自分の唾液と混ざり、口を離すとそれが線を引いた。

(自分はこの子の親代わりだったのにな)

 親が事故で亡くなって、引き取った人が殴る人で、学校にも一切通わせず、十歳でうちの孤児院に来た。

 漢字も算数もローマ字も全部、自分が教えた。時々、間違っているけど。

 それから大体六年、今こうなっている。

「先生、好き」

 彼女がトロトロに溶けた顔で、そう甘えた声を出す。

「先生、優しくしてね――」

 それで自分の理性が消え、彼女の服を乱し、流れるまま行為をした。

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