kasan0716.0614

天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 最終章『終わってから始まる物語』④

社宅の扉を強く叩く音で、マユは目を覚ます。 玉之丞を抱っこしながら、扉を開けると、そこには浩三と佐市の姿があった。 ちょっと出来上がっているようで、少し酒臭い。「お久しぶり!」「あー、ど、どうも――」 久しぶりに会う父の友人と、その息子に戸...
天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 最終章『終わってから始まる物語』③

玉之丞の尻尾がペチペチと顔に当たり、マユは目を覚ます。(思い出した、そうだった……にしても嫌な夢を見たな……後……何故、玉之丞が……) 彼は籠の中で眠っていたはずだと数秒考えるが、理由はすぐ分かる事だろう。(湿度、凄いな……) 雨が屋根や窓...
天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 最終章『終わってから始まる物語』②

北洋の指令室は、窓ガラスが張られ、周囲が見渡せるようになっている。「ねぇ、シラちゃん。もうやめよう……こんな事……北洋の工作員なら、東洋に亡命すればいいじゃない?新しい戸籍を作れば、新しい居場所が……」「駄目だ。私は北洋人として生まれ、生き...
天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 最終章『終わってから始まる物語』①

255年、終戦後 海上。 波は高く、揺れが大きい気がするが、海面を覗き込んでも、暗く波が見えない。 そんな中、空母『有馬』に乗ったマユは、夜風に吹かれ、体を震わせていた。「寒い……桑子、何か防寒具貸してよ……一個だけでいいから……」 という...
天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 第三章 『マユと蛹』⑤

「正解だなぁ。この色――」 翡翠色に染まった自身の機体を見て、マユはキラキラとした表情になる。 それを心なしか満足そうな顔で見ている久を桑子は冷めた瞳で眺めた。 そして、ふと気になったのだろう。桑子は久に質問を投げかける。「そういえば、この...
天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 第三章 『マユと蛹』④

宮司が屋台から焼き鳥を受け取り、モグモグと食べていると、テーブル席のほうで、エールの瓶に口を付けた桑子と、蕎麦を食べているキヌの姿が見える。「二人とも、マユさんは?」 宮司は団らんしている二人に声をかけた。「んー?旦那様がお仕事頼んでいたか...
天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 第三章 『マユと蛹』③

255年、終戦後の夜。この日は空母『有馬』が平間基地周辺海上から『北栄』の海軍基地、海上へ移動した。空母から降りると、北栄勤務の海軍達が出迎えてくれる。「お疲れ様です」 マユ達は無言のまま、大きく息を吸う。戦争は終わったはずだというのに、気...
天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 第三章 『マユと蛹』②

255年 睦月。 本日、撃ち落した西洋竜は黒い鱗の個体だった。黒い竜は東洋でも、縁起が良くないと言われているらしい。だが、艶のある鱗はとても美しく、敵だが惚れ惚れした。(強かった……死ぬかもって思った……) マユが安堵していると、飛行機内の...
天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 第三章 『マユと蛹』①

「で、神棚を用意したんだ?桑子さんに借金して」 帰宅した勇五郎はそう言い、軍服を脱ぎ、和装に着替える。「ぶえぇ、無職にこの出費は辛いよ……」 マユの言葉など気にしない玉之丞が、脱いだ軍服に潜り、遊び始めると、彼はそれごと抱きかかえた。『きゅ...
天空の蛹(てんくうのさなぎ)1部

 第二章 『マユと桑子』⑥

ヤクザを始末した後、特高警察か、それに雇われている者か、死体を運び出していく。 そして、清掃員らしい人物と、解体作業員がやってきて、何かを話し始めた。耳を傾けると、どう片付けすれば、近隣にこの出来事を内密にできるか話し合っているらしい。「三...