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 第二章『好きな人』①

「志摩、ここって高い店なんじゃ……」「ん?」 お洒落な店というのは、外観から高級感があるものだ。 西洋をイメージしたのか、赤茶色のレンガ、看板は外には出さず、入り口前には薄桃色の薔薇が植えてある。 そう、自分は原稿代行してもらったお礼を午後...
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 第一章『初恋』⑦

志摩は自分の事を心配して、半休を取り、戻ってきたのだという。 本当にベストなタイミングだった。 弁護士が仕事用の名刺を彼に渡す。「へぇ、志摩さんって弁護士をしているんですね。勉強とか大変だったでしょ?」「いや、全然」 彼はそれを受け取ると、...
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 第一章『初恋』⑥

花と石鹸が混ざった香りがする。 香水というよりは、柔軟剤の匂いに近いその香りは、自分の顔のすぐ傍から感じられる。 そして、その香りはオメガ特有のフェロモンが混ざっているのか、下半身が疼く。「よしよし」 左後頭部の髪が指で掻かれており、自分が...
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 第一章『初恋』⑤

寝室のベッドの上。 体温計の音がピピピと部屋に鳴り響く。「三十八度五分……」 服から取り出した体温計を見て、脱力し、ベッドの上で項垂れる。 七月上旬、締め切り三日前。 疲れからか、最近気温の変化が凄まじかったからか、それとも親友が家に転がり...
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 第一章『初恋』④

志摩は、リビングでテレビを見ている。 そして、自分が切ったパインを、彼は無表情のまま、もぐもぐと食べていた。「クーラー、涼しい」「パインの感想は?」 パインを食べながら、クーラーの感想を言うところを見ると、久しぶりに会った彼は昔のままの性格...
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 第一章『初恋』③

就活の息抜きに描いた漫画が少年誌の賞に選ばれ、自分は漫画家の道に入った。 だが、ああいう漫画賞は、コネと編集者の好みで決まる為、自分は読者受けする漫画を描けず、長期連載できずにいた。 そのうち『ヒロインや登場するオメガが可愛ければいいのだろ...
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 第一章『初恋』②

「一緒にシャワー浴びようか?」「は、はい……」 お兄さんはとても手慣れていた。 ホテルのチェックインから、行為前のシャワーまで。 自分は借りてきた猫状態で、緊張し、体がガチガチになる。 逆に、半勃ちした自分の物は、ホテルに着くまでの間に落ち...
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 第一章『初恋』①

自分『春島 漆(はるしま うるし)』は、かなり拗らせた人間である。 小学一年生の七夕、図工か道徳の授業かは忘れたが、担任の先生から短冊を渡され、好きなお願い事を書いてほしいと言われた。 当時、好きな子がいた。 その子は『城永 真白(しろなが...
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 序 章

友人と会う際、その友人の家には出向いてはいけない。 誰かに聞いた話だ。 路面電車を降りると、アスファルトの熱が自分をジリジリ焼く。 東京は雨ばかりの時期が終わったばかりで、からっとした初夏の風が、自分とその旅路を見送った。 それが昨日の話。...